第113話 二人きりの約束
113話 二人きりの約束
「あ、お帰りなさい」
脱衣所を出て少ししたところにある、共用スペースの椅子。そこでホカホカになった身体を冷ましながらぼーっとしていると、しばらくして女湯三人組が出てきた。
サキとミーさんはほんのりとどこか色気のある顔で、少し疲れている様子。そしてアカネさんは、明らかに……やり切った感を出している。
「アカネさん、明らかにあなた一人だけ表情が違いますけど、何したんですか?」
「堪能した!」
「? 何をですか?」
「堪能シタ!」
「????」
「タンノウシタ!!」
俺はそれ以上聞き返すのをやめた。ペカッ、としたその笑顔を見て、なんとなく察しがついてしまったからだ。
一瞬、チラリとミーさんの方に視線を送ってみたら、どこか申し訳なさそうに目を逸らされた。きっと、ミーさんの力を持ってしてもこの人を止めることは叶わなかったのだろう。いや、むしろ彼女が止めたからこそサキが無事にこうして温泉から出てこれたのかもしれない。
俺一人しかいなかった男風呂の方にもほんの少しだけ声は聞こえてきていたが、何やらアカネさんがはしゃいでいる感じだった。暴走の末にちゃんと二人が生きて戻ってこれただけでも、良かったと思うべきだな。
「……って、そういえばそろそろ準備しなきゃな時間ですよ。アカネさん、行きましょう」
「ほえ? もうそんな時間かー。楽しい時間は、あっという間に過ぎていくねぇ……じゅるっ」
「何思い出し笑いで涎出しそうになってるんですか。そのじゅるって音で後ろの二人が今身体ビクつかせましたよ」
さささっ、と俺の背後に移動するサキと胸元を押さえているミーさんの反応を見るに……もしかしてこの人、揉ん────
「うるしゃいっ! これは二人への罰だよ!! これ見よがしに大きいのをぷるんぷるんって……思春期の人間の前に出していい物じゃないよあれは!!」
「それには激しく同意しますが……。アカネさんはもう思春期を卒業しないといけない歳では?」
「私は永遠の思春期だからいいの! というか大体私は君たち二人とそこまで歳離れてないでしょーが! 二、三歳くらいでしょーが!!」
ぷくっ、と頬を膨らませて明らかな不満を明らかにしたアカネさんは、そう反論してそっぽを向く。
と、そこでそれまで少し距離をとっていたミーさんが近づいてきて、腕時計を見ながら言う。
「サキさん、時間が本当に近づいてきてるのでそろそろ準備しに行きましょうか。そこの変な人は置いておいて」
「ミーちゃん!? そこの変な人って何!? というかナチュラルに置いていこうとしないでよ!!」
「マネージャーとコラボ相手に同時に手を出すような変な人……いや、ド変態な人じゃないですか、アカネさんは」
「もしかして怒ってる!? ねぇ、ごめんなさい!! サキちゃんに浮気したから怒ってるんだよね!? ちゃんと今夜はいっぱい構うからぁ!!!」
「どんな思考回路してたらそんな答えに辿り着くんですか! ふざけこと言ってないで、アカネさんも早く準備しにいきますよ!」
サキに浮気したから、か。やっぱり温泉の中でサキにも色々したんだな、この人は。全く、羨まし────いや、彼氏としてちゃんとサキのことは俺が守護っていかないと。決して堂々と自分から触りにいけないサキっぱいを俺もあれこれしたいなんて、これっぽっちも思ってはいないぞ。本当だぞ。
「和人、どうしたの? 私たちも……行こ?」
「ん? あ、あぁ! そうだな! 行こう行こう!」
気づけば少し遠い位置で、頬を引っ張られながらミーさんに連行されているアカネさん。耳打ちも無しに俺の名前を普通にサキが呼んだのは、二人と距離があったからか。
「ねぇ、和人」
「どうした?」
「……あとで、一緒に部屋のお風呂入ろうね。その……一人で寂しかったでしょ?」
「えっ!?」
た、確かに三人でわいわいしている声を聞きながらポツンと一人露天風呂に浸かるのはどこか寂しかったが。まさかサキが、そんな事を気にかけてくれていたなんて。俺の彼女、何でいい子なんだ。ごめんよ、サキっぱいがどうとかくだらないことばかり考えて……。
「ああ、一緒に入ろう! 二人っきりでな!」
「えへへ……うんっ♪ 楽しみにしてるね」
頬をほんのりと紅潮させながら、サキは嬉しそうに微笑む。可愛すぎる笑顔に当てられて頭なでなででもしようかと思ったのも束の間、アカネさんが俺たちを呼ぶ。
「よし、行こっ!」
仕方ない。サキと戯れるのは、後々のお楽しみとして取っておくとしよう。
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