第112話 揉みしだきの湯

112話 揉みしだきの湯



「「はふぅ〜〜〜」」


 一悶着も二悶着もあったが、ようやく全てを乗り越えて(悶着と言っても全てアカネさんの暴走が原因だけど)。私たちは三人、仲良く温泉に浸かっていた。


 周りがゴツゴツとした足に囲まれていて、お湯は少しぬるっとしている。まさに″ザ・天然温泉″といった感じで最高だ。


「気持ちいいれす……。身体、ポカポカぁ」


「本当、いつ来てもここのお湯は最高ですね。身体の疲れが消えていくのを、すごく感じます……」


「おっぱいって本当に水に浮くんだ。ミーちゃんっぱいもサキちゃんっぱいもぽよぽよって……。それなのにアカネさんっぱいはどうして? 私には浮く資格は無いって言うの……?」


 若干一名、呪詛のような言葉を吐きながら自分の胸元に視線を落としてしょんぼりしている人はいるけど。他にお客さんがいないこともあって脚を伸ばしながらのびのびと浸かっていられるし、本当に来れてよかった。


「珍しくド変態が凹んでるみたいですね。サキさんのおかげで、本当にのんびりできそうです」


「私の、おかげ……? ミーさんと二人きりの時はこうじゃないんですか? その、ミーさんだって……立派なものを持ってるのに」


 あなたに言われても、といった感じのジト目を一瞬向けられたが、その後ゆっくりと息を吐いて、ミーさんは言った。


「前二人で来た時は、めちゃくちゃ寄ってこられて何度も揉まれました。ヤケクソになったのか知りませんけど、泣きながら揉んでましたよ」


「う、うわぁ……」


 私のおかげ、というのはつまり、対象が一人から二人に増えたことでヤケクソすら起こせないほどにアカネさんを意気消沈させることが出来た、ということか。


 あれ? でも……


「随分と嫌そうに言ってますけど、さっきシャワーを浴びながら体を洗ってもらってた時……気持ちよさそうにしてませんでしたか?」


「え?」


「なんか顔赤かったですし……たまに、チラッ、チラッて鏡越しにアカネさんの方を見て……」


「は、はぃ!? 何を訳の分からないことを!?」


 ミーさんの余裕綽々だった顔が崩れ、かあぁっ、と赤くなる。核心をついたことは言わなかったけど、大方私の中で思っていたことが当たりだったみたいだ。


「う゛ぅ! 何を二人で盛り上がってるのさ! 私を差し置いておっぱい座談会なんて絶対に……絶対に許さない!!」


「へ? アカネさ……んにゃっ!?」


 もう少しミーさんをからかってやろうなんて思っていたのも束の間、私の背後からアカネさんが飛びついてきて胸元に手を伸ばしてくる。


「けしからん! けしからんよこれは!! こんなにあるなら少しくらい、私にも分けてよぉぉぉ!!!」


「ちょ、やめっ、んひゃぁん!? も、揉まないで────ひんっ!」


 もにゅっ、もにゅっ、と大きく手のひらを広げながら全体を揉み続けるアカネさん。必死に引き剥がそうとしてもガッチリと身体をホールドしてきて、逃れられない。


「ミ、ミーさん! 助けてください! アカネさん、力強いですっ!!」


「……身代わり、大成功」


「ミーさぁぁん!! ごめんなさい! 謝ります! からかってごめんなさい! なんでもします! だから助けてくださ────んんっ! これ、んぁっ!?」


 ぷいっ、と拗ねたようにそっぽを向きながら一人くつろぐミーさんに捨てられて、私はアカネさんに揉まれ続ける。力強く抱きしめてくる腕は本当に振り解けなくて、耳元で感じる荒い息には何か執念を感じた。このままだと永遠に離してくれなさそうだ。


「つやつやもちもち……つやつやもちもちもち!!」


「ミーさん守ってくれるって言ったのに! 言った……のにぃ!!」


 私のおかげでのんびり出来そう。その言葉の真意は、こういうことだったのだ。私を身代わり……いや、生贄として捧げることで自分だけ安全圏に逃げ、生き延びる。こうなったアカネさんを鎮静化させることなどできないと知っているミーさんだからこそ、できる作戦。


(だけどそんなの、絶対させない!!)


 私はアカネさんを連れながら、ゆっくり、ゆっくりと油断しているミーさんの元へ近づいていく。そして一瞬。身体に力を入れて、飛びついた。


「わっ!? サ、サキさん!? 何をして────」


「アカネさん! こっちにもすべすべつやつやのがありますよ!!」


「……すべすべ、つやつやッ!!」


「あ、ひぁん!?」


 キランッ、と目を光らせたアカネさんは、ミーさんっぱいに移動する。なすりつけ、成功だ。


「あなた一人に楽なんて、絶対にさせません! アカネさん、やっちゃってください!!」


「う、嘘……んぁっ。ん、ん゛ッ! やめ、やめ、てくださ……ひぃ!?」


「私は、揉まれる側じゃない。永遠に、揉む側でいなきゃいけないんら! こうなったらとことん、揉みしだいてやるんらぁ!!!」


 その後もアカネさんの奇行は続き、しばらく交互に揉みしだかれたあと、最後にはミーさんのゲンコツによってアカネさんは沈んだ。



 なんだか途中、ミーさんは明らかに変な声を出していた気がするけれど……それが何だったのかは、聞かないでおこう。

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