第110話 胸の格差社会

110話 胸の格差社会



「じゃあね、お義兄様! サキちゃんのことは私に任せてのんびりしてきてね〜!!」


「あの、ミーさん。サキのことお願いします。その……」


「言わなくても大丈夫ですよ。私の後ろにいるド変態さんからですよね? 正直守り切れる自信はないですが……。頑張ります」


「私そんなに信用無いの!?」


 あからさまにショックを受けるアカネさんを背に、和人は最後に私に一度手を振って、脱衣所の中に消えていった。


 和人はああ言うけれど……少し、心配しすぎじゃないだろうか。確かにアカネさんはエッチな所もあるけれど、悪い人じゃない。いくら一緒にお風呂に入るからって、変な事はしないはず。……しない、よね? うん、しないしない。私は信じてる。多分、きっと。


「じゃあ、私たちも行きましょうか。サキさん、前にも同じ事を言ったことがあるような気がしますが、アカネさんが好き勝手し出したら遠慮なく暴力で対抗してください。言葉じゃこの人は止まりません」


「ねぇ! ねぇ!! さっきから二人とも私に対して酷くない!?」


 辛辣なミーさんの言葉に半泣きになりながら、アカネさんは私の腕にひしりと抱きつく。小さく「サキママぁ……イジめられてるよぉ……」なんて事を呟くものだから、つい頭を撫でてヨシヨシしてしまった。その瞬間「にへぇ」と下卑た笑みを浮かべた気がしたけれど、きっと気のせい。


 そう、気のせいだ。


◇◆◇◆


 脱衣所に入った私たちは、3人隣り合わせにロッカーを並べて旅館着を置き、服を脱ぎ始める。


 どうやらちゃんとバスタオルの貸し出しがあるみたいで、少し安心した。やっぱり大事なところを全て見られてしまうというのは、同性相手でも恥ずかしい。拙い布でも、私からすればとても大切なものだ。


 なんて、そんな事を考えながら下着姿になっていると、横では既にアカネさんがすっぽんぽんになっていた。タオルを手に持ってはいるものの、どうやら隠す気は毛頭無いらしい。なんというか……流石だ。


「サキさん、横の変な人は真っ裸で出すもの全部出してしまってますけど、タオル使ってもらって大丈夫ですからね? あの人がおかしいだけです」


「は、はい。勿論使わせてもらいます……」


 そう言いながら服を脱ぐミーさんの身体は、とても綺麗だった。真っ白なシミ一つないスベスベな肌には思わず視線が吸い込まれそうになる。胸の形もとても整っていて、大きすぎる私からすれば少し羨ましい。


「むむっ、初めて下着姿見たけどサキちゃん、やっぱりスタイルいいなぁ。出るところは出てるのにお腹周りはキュッと引き締まってて。これはお義兄様、普段から色々と大変だろうねぇ」


「な、何を言ってるんですかアカネさん!? ひゃっ!!」


 ミーさんの身体に見惚れていた私の不意をつくように、後ろから裸のアカネさんが私の背中をそっとなぞった。


 急な事だったので身体が驚き、変な声が出てしまう。そんな私の反応に、アカネさんは大満足の……


「うぅ。なんで私だけ、こんな……」


 大満足の様子、ではなかった。私とミーさんの胸元を交互に嫉妬の目で見つめながら、その後に自分の胸元に視線を落として悲しそうな声で呟いている。たしかにアカネさんもミーさんと負けず劣らず、いや、もしかしたらそれ以上に美しい肌をしているが、胸元に大きな膨らみはなかった。


「わ、私はいいと思いますよ? 大きくても、しんどいだけですから!」


「持ってる人はみんなそう言うんだ! 持たざる者の気持ちなんて、二人には分からないんだよっ!!」


 でも実際この胸のせいでしょっちゅう肩は凝るし、下着も身につけられる種類が少なくて可愛いものを探しづらい。アカネさんだってサイズは小さいもののバランスが良くて、付けていた下着だってとても可愛かった。一度交換してみてほしい、なんて思うのはそれこそ持たざる者の気持ちが……ということなのかな。


「アカネさんは好き嫌いをするから大きくならないんですよ。自業自得です」


「うぅっ! ミーちゃんだってピーマン食べられないくせに……。こんなの平等じゃない!! おっぱいの神様が私に意地悪してるんだぁ!!!」




 アカネさんの悲痛な叫びに、私はただ……励ましてあげることしか、出来なかった。

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