第107話 ゲリラ配信ミーティング2
107話 ゲリラ配信ミーティング2
そんなこんなで、ミーティングは順調に進んで。本日夜の九時から一時間ほど、サキをこの部屋に招いてのプレイス配信を行うことが決定した。
ちなみに俺やミーさんの声が入ってはまずいので、俺たちは隣の部屋で一時間待機。まあマネージャーのミーさんが隣にいるわけだし、俺も気になるからプレイス配信を聴くことになるだろう。
「さて、あとは話す内容だけだね。私的には二人でオフでこっそりと温泉旅行に来てました〜、ってのは中々にパンチとして強いとは思うんだけど、もう一味欲しいところなんだよね」
「もう一味……と言いますと?」
俺が聞き返すと、アカネさんは立ち上がり冷蔵庫へと向かいながらサキに向けて答える。
「サキちゃん、前に私と晩酌配信したいって言ってくれてたの覚えてる? もし、その気持ちがまだ変わってないのなら────」
両手いっぱいに、十種類ほどのお酒を抱き抱えながら戻ってきて、それを机の上に置きながら笑顔で。アカネさんは提案した。
「今日、やってみない?」
「今日ですか!?」
にしし、と楽しそうにアカネさんが笑う傍、サキは驚いたように声を上げる。
そういえばたしかに、前そんなことを言っていた気はする。アヤカが二十歳になった誕生日記念配信で、初めての晩酌配信はアカネさんとしてみたい、と。
当然、憧れの存在であったアカネさんに誘ってもらえてサキは嬉しいばかりだろう。だが……
「すみませんアカネさん。サキの奴、めちゃくちゃお酒弱かったんですよ」
ちょろ酔いでもあんな状態になってしまうというのに、呑みながら配信なんて無理がある。アカネさんはサキがお酒に弱いのを察していたのか机の上にちょろ酔いも含めた弱いお酒をいくつも置いてくれているが、どれもアルコール度数三パーセントを下回りはしない。
「はっきり言って、ちょろ酔い一本でべろんべろんです。一口含んだあたりから記憶が残らないほどみたいで……」
「え、マジで……? サキちゃん、絶対に弱いだろうとは思ってたけどそこまでだったか……」
「すみません。せっかく誘ってもらったのに……」
「いやいや、謝らないでよサキちゃん! 別に晩酌配信が全てじゃないんだからさ!」
アカネさんはすぐにそう言ってフォローしてくれるが、やっぱりサキは少ししょんぼりとしている。もし犬耳が生えていたらぺしょんっ、と下に垂れていることだろう。
「ほら、元気出して! とりあえず改めて内容決めていこ? ね?」
「うぅ……はいっ」
と、ミーティングが再開されようとした時。俺の背後で、もぞもぞと何かが動く音が。
「ん、どぉ……したんですかぁ?」
「あ、ミーさん?」
ふあぁ、と大きなあくびをしながら上半身を起こして腕を伸ばすミーさんは、そのままゆっくりと布団を退けて起き上がる。
「私、寝ちゃってましたか。ミーティングももうとっくに始まっちゃってたみたいですね……」
眠そうな目を擦りながら時計を見て、状況を見渡しながら冷蔵庫を開けて水を飲みアカネさんの隣に座る。そして机の上に広げられたお酒の数々を見て、それはそれは不思議そうな顔をしていた。
「アカネさん? なんですかこのお酒の山は。酒乱パーティーでも始める気ですか? 今日はプレイス配信をする予定、でしたよねぇ?」
「ち、違うんだよミーちゃん! これは前にサキちゃんからお誘いを受けてた晩酌配信をしないかなって準備してて!! ほら、サキちゃん何飲めるか分からなかったからさ!!」
「……そう、ですか。確かに言われてみれば、アカネさんが飲むには度数の低いものばかりですね」
蛇に睨まれたカエルのようになって、冷や汗をかきながらアカネさんが早口で説明するとミーさんはお酒の銘柄を見て納得した。たしかにここにあるお酒はどれもアルコール度数一桁のものばかりで、普段からよく日本酒などで晩酌配信をしているアカネさんの飲みそうなものとは程遠い。
「それで、なにか珍しくアカネさんが気を遣ってサキさんを励ましている声で起きたのですが……どういう状況です? 和人さん」
「あ、えっと……」
俺はここまでのミーティングの経緯を全て話した。ミーさんはたまに会釈をしながらそれを聞いて、アカネさんのフォローがどうやって起こったのかも全て理解して。水をもう一度飲んで寝起きの頭を起こしてから、何か閃いたように言った。
「なるほど、それでサキさんはしょんぼりしてたんですね。確かに話を聞いている感じ、お酒を飲むのは難しそうですし……」
「そう、ですね。私も本当はアカネさんと、晩酌配信してみたかったんですけど……」
「サキさん。それならまだ一つだけ、手があるかもしれませんよ?」
「え……?」
不思議そうに、それでいて期待の眼差しを向けるサキに、ミーさんは提案する。
「ちょろ酔いより弱いお酒……というか、お酒と言えるかも怪しいレベルのがあります。サキさんでも、楽しんで飲めそうなものが」
そう。俺たちはお酒を飲むという発想の中で、そいつの存在を忘れていたのだ。
────未成年でも飲める、唯一のお酒の存在を。
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