第106話 ゲリラ配信ミーティング1

106話 ゲリラ配信ミーティング1



「お、来た来た。おいっすー」


「すみませんアカネさん。遅くなっちゃいました……」


 二人で部屋を訪ねると、アカネさんはミーさんの膝枕で絶賛甘えんぼの最中であった。


 相変わらずミーさんは大変そうだな、と思いつつ様子を見ると、その瞳は開いてはおらず、こくん、こくんと小さく頭を揺らしてうたた寝している。


 アカネさん曰く、二人で座りながら休憩していたらミーさんが一人この状態になってしまったため、そっと忍び込んで勝手に膝枕をしてもらっていたらしい。よく見るとミーさんの体勢は膝枕のデフォルトである正座ではなく、脚を机の下に伸ばしている状態。たしかに、くつろいでいるところで寝てしまったようだ。


「本当はミーちゃんも入れて四人でミーティングするつもりだったんだけど……朝から運転して少しお疲れなみたいだしね。このまま寝かせておいてあげたいんだけど、いい?」


 俺とサキは、すぐに頷いた。


 アカネさんの手によってそっと身体を横に倒され、二つの椅子の上で横たわりながら布団をかけてもらったミーさんは、静かに寝息を立てながら深い眠りへと落ちていく。


「ん、むぅ……すぅ……」


「よしっ。それじゃあひとまず始めよっか。あ、サキちゃんはまだお義兄様と仲良くスヤスヤしてないで大丈夫?」


「あ、アカネさん!? もしかして……見てっ!?」


「あ、あれっ? 揶揄うつもりで言ったんだけどな……。はっ! もしかしてスヤスヤってそういう!?」


「ち、ちちち違いますから!! ただちょっと、一緒に寝てただけで!!」


「あらあらあら、一緒に″寝た″だなんてまぁ……」


「うぅ、違、違うのにぃ……」


 会話を重ねていくたびポンを発揮して華麗な自爆連鎖を繰り広げるサキにため息を吐きながら、俺は軽く横から弁解をする。まあ、そんな事をしなくてもアカネさんはちゃんと分かっていたみたいだが。


「もぉ、冗談だよ。私だってミーちゃんの太ももの上ではふはふスヤスヤしてたしね。同じ同じ♪」


「あの、俺はサキの太ももの上ではふはふなんてしてないんですが……」


 と、そんな話を続けてサキが羞恥心で顔を真っ赤にし出した頃。アカネさんが時計を見て、時間があまりないからとミーティングを切り出した。


「さて、そろそろ始めよっか。私とサキちゃんの、ゲリラプレイス配信のミーティングを!」


 プレイス。最近ツオッターに追加された新機能のことである。


 フォロワー千人以上の人のみがホストとなり開ける、いわばグループ電話のようなもので、参加した人はホストに申請を出し承認されれば会話に参加することができる。


 用途としてはツオッターでは繋がりがあってもLIMEでは無い人達が会話するために使用したり、あとはサキが行っている普段の配信のようなことを声のみで行ったりと。汎用性は非常に高く、お手軽なツールだ。


「とりあえずホストとして私が開いて、サキちゃんに参加してもらった後にスピーカー申請を承認。私とサキちゃんだけが喋れる環境にして声だけで配信するって感じで行こうと思ってるよ〜」


「は、はい。そんな感じで大丈夫だと思います!」


 Vtuberとして活動をしていく上でボイスチェンジャーを使う人であれば、普段の機材が必要なためこんな旅行先で行うにはしんどい配信方法ではあるが。サキはそんなものは使ってはおらず、なんならほぼ地声と変わらないし大丈夫……


 あれ? アカネさんは?


「あの、質問いいですか?」


「どうぞ!」


「アカネさんって配信中と今とでだいぶ声が違いますけど、ボイスチェンジャー使ってるんですか?」


 俺の質問に一瞬、キョトンとした表情を向けて。そしてすぐに質問の意図を察したかのように、ポンッと手を叩いてアカネさんは答える。


「ん? あー、そっか。お義兄様は私の配信部屋入ったことないから、知らなかったね」


 ん゛んっ、と咳払いし、あー、あー、と軽くチューニングをして。アカネさんはキリッと目力を入れて口を開く。


『ボイスチェンジャーなんて、使ってないよ。赤く煌めく劣等星、赤羽アカネですっ』


「!!?」


 途端、それまでの女性の声とは打って変わって発される、男でも顔負けなほどの中性的なイケメンボイス。それはこれまで聞いたことのあるものと何一つ遜色ない、赤羽アカネの声であった。


「ふふっ、驚いたかにゃ? 私の配信中の声は少し声質を変えた、私の声なのでした〜」


 ハッキリ言って……凄すぎる。学校の教室でふざけてやるような声の変え方とは、根本からレベルが違いすぎた。きっとどれだけ赤羽アカネの重度なファンであったとしても、普段の地声と同一人物だとは誰も思えないだろう。


 勿論それは、てっきりボイスチェンジャーによるものだと、そう思い込んでいた。


「す、凄いです……完全に、別人でしたよ」


「へへんっ。もっと褒めてくれてもいいのだよ〜?」




 流石はサキが憧れた、個人勢トップのVtuber。普段はちょっとあれだが……本当に凄い人なんだな。

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