第104話 鬼軍曹妹
104話 鬼軍曹妹
「うぅ、私汚された……汚されちゃったよぉ……」
「人がいるところでなんて人聞き悪いこと言ってるんですか!? やめてください!!」
くしくしっ、と目元を擦って嘘泣きをしながら足湯の代金を支払っているミーさんの背後でトンデモ発言をするアカネさんの口を、俺はそう言って塞ぐ。
ただでさえ女性三人に対して男一人なのだ。誤解されたらたまったもんじゃない。
「安心してください、いつもの悪ふざけですから」
「ふふっ、相変わらずお元気そうで良かったです。またいらしてくださいね」
「ええ。また来ますね」
あれ? もしかしてここでもアカネさんって宿の時みたいに常連扱いなのか? ……はぁ。心配して損した。
「和……お兄ちゃん、いつまでアカネさんに抱きついてるの! 早く離れて!!」
「いやぁんっ、お義兄様に襲われるぅ〜」
「違うんだサキ! 俺はただ口を塞いで!!」
俺とアカネさんの背後にいたサキからは、俺が後ろから口を塞いでいるその光景はどこか抱きついているように映ったらしい。服の袖を必死で引っ張って俺をアカネさんから引き剥がすと、俺の腕をガッチリと掴んで引っ付いてきた。
「むぅ。和人は私のだもん……」
俺にしか聞こえないような小声でそう呟いて身体を引き寄せてくるサキの不意打ちに、不覚にも身体が熱くなった。今すぐにでも抱きしめたくなったが、ドキドキしている姿をアカネさんに見られて咄嗟に正気に戻り、理性を取り戻す。
「さて、皆さんそろそろ旅館の方に戻りましょうか。あとアカネさんの痴態はしっかりとグループに送っておきましたので、ぜひ保存しておいてください」
「ミーちゃぁん!? 最後なんて言った!?!?」
ぽろんっ、とスマホに通知音がなり、グループのトーク画面を開くと先程のアカネさんがドクターフィッシュに責め立てられる動画が、とても良い映りで送られてきていた。
(こ、これは中々……)
ビクンッ、ビクンッとこそばゆさで身体を震わせながら甘い声をあげ、逃げようとしてもサキに押さえつけられて必死に耐えているその姿。はっきり言って、とても良────
「和人? 保存しちゃダメだからね?」
「…………はい」
保存ボタンを押そうとした時、耳元で冷たい声が響いた。さっきまで頬を膨らませて愛らしく抱きついていたあのサキはどこへやら、今の声は冷徹な鬼軍曹みたいだったぞ。
まあでもミーさんが撮ったのとは別に俺も撮ってるし? これを保存できなくても……
「あと、さっき撮ったのも消して」
「……………………ひゃぃ」
ダメでした。流石は鬼軍曹。しっかりとそのことも覚えていたらしい。しっかりと俺がフォルダから動画を消すところを真横で見られ続けました。
「もぉ、ほんとにえっちなんだから……」
スッ、と俺から少しだけ距離をとり、一人で何かを呟いたサキ。何を言ったのかは分からなかったが、きっとご立腹なのだろう。
「ねぇミーちゃん。あの二人またイチャイチャしてる。甘すぎて胸焼けしそうなんだけど?」
「もう私は慣れてきましたよ。いいじゃないですか、兄妹仲が良くて」
「……私たちもイチャイチャする?」
「しません」
その後、俺たちはここまで来た道とは少し違う場所を通り、優子さんへのお土産を買ったり、少し食べ歩きをしたり。温泉街を楽しみながら夕方を迎え、旅館へと戻ったのだった。
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