第102話 海鮮丼パラダイス

102話 海鮮丼パラダイス



「ついたー! ここだよーっ!!」


 それから数分。俺たちは案内されたお店の前へとたどり着いた。


 店の前には大きな水槽があり、中には何種類かの、恐らく食用であろう魚達が泳いでいる。


「ひっ、大きい……」


「ん? サキちゃんもしかして、魚怖い?」


「す、すみません。食べる分にはいいんですけど、お魚のあの目は苦手で……」


 ぎゅっ、と俺の服の裾を掴み、サキは水槽から逃げるように俺の背後へと隠れる。そういえば昔、そんな事を言っていた気がするな。家でもサキが魚を捌いたりしているところは見たことがない。


「そっかぁ。ま、店内には水槽無いし入っちゃえば多分大丈夫だろうから。お義兄様、ちゃんとそれまで守ってあげてね♪」


「そう、ですね。よしサキ、隠れてろ。ちゃんと連れてってやるから」


「……ありがと」


 サキは言われた通り、俺が差し出した手を強く両手で握る。


 そんなこんなで、少し一悶着ありながらも俺たちは全員で水槽の横を素通りし、元気のいい店員さんに迎えられながら入店した。


「サキ、もう大丈夫だぞ」


「ん。ごめんね、迷惑かけちゃって」


「いいぞこれくらい」


「ふふっ、サキちゃんは弱点が多くて可愛いねぇ」


「いや、アカネさんも魚触れないじゃないですか」


「うっ……ミーちゃん余計なことを」


 魚を扱っているお店の独特な匂いを感じながら談笑をし、メニュー表を眺める。


 言われていた通り海鮮丼屋さんなここでは、メニューはその他にない。海鮮丼の中で具材やトッピングなんかを選び、注文するシステムだ。


 お代はやはり全てアカネさんが出してくれるそうで、そこそこ値が張る分遠慮しがちに頼もうと思ったのだが……ミーさんからの「遠慮しないでくださいね。アカネさんはただでさえ普段からお二人に迷惑をかけているんですから」という言葉と、アカネさんがデラックスいくら丼を頼んだのを見て、遠慮はやめた。


「じゃあ俺はこの、ねぎまぐろスペシャル丼で!」


「私はいくらぶりマヨ丼を!」


 中々にパンチの効いたものをそれぞれ伝え、最後にミーさんがまぐろサーモン丼を頼み、注文を終えた。


 店内に響く、店員さんの厨房への丼コール。どこかそれにラーメン屋なんかと近しい感覚を覚えながら、丼が用意されるのを待つ。


「サキちゃんサキちゃん、聞いておきたいんだけど魚ってどこら辺までダメ? 小さいのなら大丈夫ー?」


「そうですね……メダカとか金魚とか、それくらいなら大丈夫かもです。けど、どうしてですか?」


「いやー、実はね。ここの近くにドクターフィッシュのいる足湯があるんだよぉ。すっごく気持ちいいんだけど、サキちゃんいけそうかなって」


 ドクターフィッシュ。確か足をお湯につけたら群がってきて、なにか食べるんだったっけな。詳しいことはよく知らないけど、まあドクターなフィッシュなわけだし多分身体にいいことなのだろう。


「あ、ドクターフィッシュ一度やってみたかったんです! テレビで見て興味はあって……!」


「お、いいね! じゃあ行こう行こう!!」


 一瞬、話の流れを見てサキがアカネさんに気を使ったのではないか、と不安な様子でミーさんがこちらを見ていたが、これは本当のことだ。確か一週間くらい前か何かにテレビでその特集をやっていて、二人でぼーっと見ていた。「気持ち良さそう……」なんてサキ自身もつぶやいていたし、本心で間違いない。


「お待たせしました〜! デラックスいくら丼になります〜!!」


「おっほ、来たぁ!!」


 と、次の予定がすぐさま確定したところで店員さんが現れ、これでもかというほどにいくらが詰め込まれた大きい丼が運ばれてくる。続いてすぐに俺たちのも目の前に置かれて、全員の目が光り輝いた。


「みんな、写真撮ろー! あ、店員さんすみません、撮ってくださーいっ!」


「はーい、では縦と横、二枚ずつくらい撮りますね! 皆さん、寄ってくださーい」


 片手でいくら丼を掲げるアカネさんに、マヨ丼を少し恥ずかしそうに両手で持つサキ。そんなサキの背後からにゅっ、とねぎマグロ丼を出す俺と、アカネさんに肩を組まれながらまぐろサーモン丼と笑顔になるミーさん。


「はい、チーズ!」




 カシャリ。アカネさんが手渡した最新機種スマホからシャッター音が鳴り、最高の映りで撮られた四枚の写真。それを確認して店員さんにお礼を言ってから、四人のグループに写真は送られて。もう待ちきれない、と全員が涎を垂らす限界まで来た状態で、「いただきます」が響いた。

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