第101話 餌付けする者される者
101話 餌付けする者される者
アカネさんとミーさんに連れられて旅館を出た俺たちは、人の多い温泉街を進んでいく。
なんでもオススメのご飯屋さんがあるらしく、そこに向かっている最中だ。
「流石の人の多さですね……。やっぱりここくらい有名な観光地だと一年中こんな感じなんですかね?」
「そうですねぇ。アカネさんとここに来る時はいつも急で、たまに出来た休みとかに平日休日関係なく来るんですけど、人が少なかった時は無かったかもしれません」
「そうなんだよぉ。もう少し人が減ってくれれば動きやすいんだけど、まあこれはどうしようもないしね」
お土産屋、スイーツ屋、足湯に温泉に飲食店。ここにあるものはどれもこれも魅力的で、つい吸い寄せられて入店してしまいそうになるほどの魔力を秘めている。
アカネさんだってさっきからたまにお団子屋さんとかにふらりと入ってしまいそうになって、その度にミーさんに止められていた。
────そして、サキも
「ねぇねぇ和人、あのお店の抹茶パフェ美味しそう……」
「おいおい、昼ご飯だぞ今から。あと呼び方」
「あっ……えと、お兄……ちゃん。抹茶パフェ、食べちゃダメ?」
「まあダメだけどな。呼び方変えても」
こんな感じで、前を歩いている二人に聞かれたら不味いボロをよく出すほどに気分が昂揚しているようだった。というかお兄ちゃん呼びで抹茶パフェねだるサキ可愛すぎか? 俺が本当のお兄ちゃんだったら貢ぎすぎて財布をすぐに空にしてしまいそうだ。
「ぶぅ……」
「そういじけるなよ。これから美味い昼飯が待ってるんだからさ」
そういえば昼ご飯って何を食べるんだろうか。何一つ話は聞かされておらず、ただただオススメのお店があるからとだけ言われてついて来たが。温泉街なんて来たことないからセオリー的なものも分からないし、全く想像つかないんだよなぁ……。
「アカネさんアカネさん。昼ご飯、何食べにいくんです?」
「お? そういえばまだ伝えてなかったかな。もし苦手だったらあれだし、今ここで発表しちゃおうか!」
むんっ、と小さな胸を張り、右手を掲げて。自信満々の笑顔で一度上にあげた右腕をビシリと俺たちの方に向けて、アカネさんは宣言する。
「私たちはこれから、海鮮丼を食べに行きますッッ!!」
「「海鮮丼!?」」
「イエス、海鮮丼! 苦手なら今のうちに申告するように!!」
俺たちはアカネさんの予想外のアンサーに驚き、目を合わせ、パチパチと瞬きを繰り返して。二人で一緒に、首を横に振った。
「海鮮、大好きです!! いくら、マグロ……あっ、ぶりや鯛も!!!」
目をキラキラとさせながらそう答えるサキをアカネさんは抱きしめ、まるで愛猫を構うかのように頭を撫で回す。「よーしよしよし、お姉さんがいっぱい食べさせてあげるからねぇ〜」と、お金持ちお姉さんの包容力全開だ。
「和人君も、めいっぱい食べるといいよ♪ これまで食べてきたものが食べられなくなるくらい、とびっきり美味しいのをお姉さんがご馳走してあげるからねぇ〜」
「一生ついていきます! アカネさんッッ!!」
「よぉし、ついてきなさい! ほら、ミーちゃんも行くよーっ!!」
「餌付けだ……サキさんと和人さんが、餌付けされてる……」
まるで親分と子分のような並びで、俺たちは人混みを突っ切って目的地へと向かう。ミーさんが何やら気になることを呟いた気がするが、関係ない。
ただでさえお高くて手が出しづらい海鮮丼の、それも有名温泉街観光地の中にあるお店バージョン。興奮しない方がおかしいのだ……。
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