100話記念話

 いつも本作品を読んでくださり、本当にありがとうございます。結城彩咲です。


 本日は皆様のおかげで、無事に100話へと到達することができました。日頃の応援コメントなど、本当に励みになっています。


 さて、今回はタイトルにもある通り100話記念話です。何にしようかなー、とか色々考えたのですが、そんな中で一つの結論に至りました。


「そうだ、みんな酔わせよう」


 これが深夜、おしっこで起きてスッキリしてから手を洗った後に頭に浮かんだ考え。いやいや、私欲全開だなとも思いましたが、そこで気付きます。


 私欲全開? 今更だな、と。


 これまでもサキちゃん達には色々な事をさせてきました。全ての欲、常にフルスロットルです。


 さて前置きが探し長くなってしまいましたが、まあそういう事です。今回の100話記念話も、そしてこれからも。私は己の欲に従って話を連ねていきます。自分史上一番連載を続けたこの作品への愛は、まだまだ続いていくのです。めちゃくちゃな話を書く時、私の欲が出過ぎな時。これまで同様、まだまだ出てくると思います。


 でもどうか、暖かく見守ってやってくれると嬉しいです。そしてたまには、コメントなんかも残してくれると……(すみません、調子に乗りました)。


 何はともあれ、これまで応援いただき本当にありがとうございました! そしてこれからも、よろしくお願いしますっ!!


 では100話記念話、スタートです!!!




No.1 優子とロング缶



「うへへへ、遂にこの時が来たっ!!」


 私の視線の先には、バイト終わりで疲れ切った身体を癒してくれる魔法のアイテム。人類が進化の過程で生み出した最高傑作、ストロングワンの500mlロング缶である。


 そのアルコール度数は九パーセント。それをロング缶で、しかも三本。さらにその隣にはおつまみ最高戦力であるスルメ、チーかまがお皿の上に盛られていた。


 シャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かし、ラフな部屋着に着替えて。宴の準備は既に完璧だ。


「では……いただきますっ!」


 プシュゥッ! ロング缶のうちの一本を手に取り、私はプルタブを思いっきり引く。鳴り響くシュワ音と指先に残った余韻に脳が支配され、身体が震えた。


「んっ、ん…………ぷはぁっ!!」


 流し込まれる魔剤と、呼応して思考を失って脱力していく身体。熱く全身が火照り始めると、それまでの疲労感は姿を消し、内臓が沸き踊る。


「これこれっ! 労働の後のストワンに勝る快楽無し!! ひゃははははっ!!!」


 高揚感に身を任せてあっという間に一本目を飲み干すと、次の二本目に手をかけて一口。更に右手いっぱいに鷲掴みしたチーかまを口に放り、潤滑油のようにストワンを流し込んだ。


「ストワン〜、お前はなんれそんなにカッコいいんらぁ!? 私を嫁にしてくれ!! 彼氏なんていらねぇ!! 私を気持ちよくしてくれるのは、もうお前しかいねぇんらよぉー!!」


 日頃から大学で見せつけられる、リア充……いや、リア獣のふざけたバカ光景。それを見て抉られた心をバイトで埋めているうちに耳に入った、心の友の裏切り。そこから始まる惚気トーク。


「どーせ私には彼氏なんていませんよーだ!! なぁにが『優子は経験豊富だもんね、色々教えて!』だ!! 男性経験なんて一つもないっつーの!! なぁんで変な意地張った過去の私ぃ!!!」


 しかも、しかもだ。大学デビューで髪も茶色に染めてオシャレもしたのに、面倒くさそうだからとサークルに入らなかったら男友達一人もできましぇん! 何? 帰宅部にはリア充になる資格ねぇってか!? ざけんじゃねぇよこの野郎ッッ!!


「もぉしらねっ! 私はストワンと結婚するんら! 身体の奥底まで気持ちよくしてくれる、この最高の彼氏と生涯を共にするんらーっ!!」



 記憶は残らないけれど、最高のひととき。


 背景お父さん、お母さん。私、この人と結婚します!



No.2 赤羽アカネの晩酌配信



『みんな〜、こんばんは〜。赤く煌めく劣等星、赤羽アカネです〜』


:キチャー!!


:こんアカネ〜!! ¥200


:今日もいいイケボだ……


:待ってました!!!


『さてさて、今日は晩酌配信だ。雑談がてら私と一緒にお酒でも飲んで、ゆったりしよう』


:プシュッ!


:アカネさんってどんなお酒飲むんだろ……ドキドキ


:日本酒だろうなぁ、やっぱり。どこかのアヤなんとかさんとは違ってお酒強そうだし


:アヤなんとかさんやめろww


:アッ……(察し)


 アヤなんとかさん、未だに配信でお酒など飲んだ事ないというのに酷い言われ様である。だが実際に彼女がアルコール耐性皆無な事は事実なので、言われても致し方無し。


 それに比べてアカネは、今日が初の晩酌配信だというのになんら心配されていない様子だった。流石、猫の皮を完璧に被り続けているだけはある。


『私が今日飲むのは、マネージャーのミーちゃんから貰ったお酒。その名も「鬼泣かせ」。結構有名なお酒だしみんな聞いたことくらいはあるんじゃないかな?』


:!!?


:鬼泣かせってあれか!? あの道端で酔い潰れてるおっさんとかがストローでちゅうちゅうしてる、あの!?


:偏見エグすぎて草


 鬼泣かせ。強そうなその名の通り、アルコール度数の高いお酒である。


 なんとその度数、十パーセント超え。その強さから大きな瓶なんかで売られているケースはあまり多くなく、小さなパックなんかで売られているのが主流。コメントにあったストローちゅうちゅうは、このパック売りのことを示していた。


『まあ私はアルコール強強マンだからね。ミーちゃんからは絶対に配信で使わないようにと念を押されてから渡されたし、なんなら今心配の電話が鳴り止まないんだけどね。気にせず飲んでいくよ』


:気にしてあげてぇ!!(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)


:無慈悲すぎる……


:ミーちゃん、今どこにいるのか知らないけど全速力でアカネさんのところに向かってそうww


:え、今コトンッて聞こえたけど……もしかして瓶?


『お、いいところに気がついたね。そうだよ、なんと珍しい瓶入り鬼泣かせだよぉ。なんかいける気がするし、ラッパ飲みでもしてみようかな?』


:ミーちゃん早く来てェェェェ!!!


:ダメだぞ!?


:アカネさん、ストップ!!:(;゛゜'ω゜') ¥500


:この女、正気か!?


『なんて、冗談だよ。今ミーちゃんからトーク画面に凄い数のスタ連が来たし、流石に心配かけすぎもよくないからね。コップに注いだのを一杯、ちびちび飲んで行くことにするよ』


 ふふっ、と小悪魔じみた微笑みをイケボで出しながら、アカネは大きな氷の入ったコップに鬼泣かせを注いでいく。


 そして表面張力ギリギリで注ぐ手を止めると、それをこぼさぬ様その場でゆっくりと掲げて。画面の向こうのリスナーとの乾杯を合図に、中身の三分の一を一口で飲んだ。


『うっ……んん! やっぱり度数の強いお酒はいいね……こう、私の身体をいち早く支配せんと駆け巡って、熱くしてくれる感じ。たまらないよ』


:なんか、エッ……


:いい女がいい声で支配とか言ってるの、たまらん


:女? あれ、男……? いや、女……?


:安心してください、女の子ですよ


:とにかく明るくパンツ一丁で言うな


:草


『ふふふっ、身体ぽかぽかする。さて、気分もいいしせっかくだから雑談の内容は君たちに委ねようかな。私に答えられる事なら、なんでも答えてあげるよ』


:スリーサイズ!!!


:欲望丸出しだな!? ヨシ!!


:アヤカちゃんとの入籍予定日を!! ¥20000


:おい貴様、赤スパだからってなんでも言っていいと思うなよ!! ミーちゃんとの入籍予定日だろうが聞くべきなのは!!! ¥5000


:なんか勢力二つに分かれてて草ぁww


:ちなみに俺はアヤ羽派


:俺はアカミー派かなぁ。


:なんか片方肉みたいだな?


『みんにゃ荒れてるねぇ。入籍予定日か……実はまだ正確な日にちは決まってないんだけど、私は二人とも真剣に狙うつもりらよ……ひっく』


:ひっ……く?


:なんかちょいちょい呂律バグってね?


:鬼泣かせ、本気出してきた?


『ふふっ、ふふふふふっ。仕方ないなぁ、もう。そぉんなにリスナーさん達がてぇてぇ話を聞きたいなら、話してあげよう。今日はアヤカちゃんとミーちゃんの良いところをとことん語り、布教する枠にしようにゃらいかっ!!』


:鬼泣かせ、よくやった!!


:お、おぉ? やったぜ?


:放送事故確定演出、デュエルスタンバイ


:ライフ0になっても殴り続けそうだな。しかも無自覚で


:案外静かに危ない酔い方してるのか? アカネさん……


『じゃあまずは、アヤカちゃんかりゃ。アヤ羽オフコラボの時の、半泣きアヤカちゃんの話から始めようかにゃぁ!』


 実に三時間半。アヤカの……というか主にサキの魅力とミーとの裏話なんかを語り続けた、当事者にとっては聞いているだけで赤面必死の闇鍋晩酌配信枠。その結末は寝落ちに終わり、静かな寝息を立て始めて十分ほどで誰かが部屋に入ってきて配信のスイッチを切ったことで、ギリギリ放送事故にはならず強制終了された。



────その誰かの正体は、言うまでもない。



No.3 日本酒とミーちゃん



「むにゅ……んんっ……」


「はぁっ……ほんと、危なっかしい……!」


 アカネさんが酔い潰れて寝落ち配信をかましそうになってから、数分後。私は配信スイッチを切ったことを確認してから机に突っ伏すその背中に布団をかけ、やっと一息をついていた。


 以前コラボをした同業者さんとの次のコラボの予定も兼ねた打ち合わせをしに行って、その帰りの車の中でふとアカネさんの配信をつけた時はそれはもう取り乱した。


 晩酌配信をするというのは知っていたけれど、まさか鬼泣かせを本当に飲むなんて。しかもそのうえ私とアヤカさんのことをあれやこれやと布教した時には恥ずかしさでおかしくなりそうだった……。


「あれほど、飲んじゃダメですよって言ったのに……」


 あのお酒は私の実家から送られてきたもので、あまりお酒に強くない私が持っていても仕方ないので渡したものだ。


 嫌な予感はしていたから車に積んで今日のうちだけ没収しておこうかとも思ったけど、疲れが溜まっていたせいか寝坊しそうになってそんな暇がなくて。念押しだけをして飛び出たらこれである。


「ふへへ、ミーちゃぁん」


「寝言でも私ですか。……本当に、仕方のない人ですね」


 こんなドタバタな日々に慣れてしまった自分にため息を吐きながら、私は汗だくになったシャツが気持ち悪くて脱衣所へと移動し、そのままシャワーを浴びた。


 浴室から出てもう一度様子を見に行ってもアカネさんは熟睡しているようで、私はラフな部屋着のまま自分の部屋へ。


 住み込みで働くというのは、こういう時に便利だ。仮にここから自分の家に帰らなければならないなんてことになったら、私はもう運転中に寝落ちして事故を起こす自信しかない。


「やっ、と寝転がれたぁ。疲れたよぉ……」


 今日はいつもより一段と忙しかった。お風呂にも入ってふにゃふにゃになってしまった身体は自然とベッドに吸い込まれ、柔らかなシーツに包まれる。


 と、あまりの気持ちよさに頰を緩ませ、愛用している猫ちゃん抱き枕と共に寝返りを打った時。私の視界に、一本の瓶が。


(そういえば最近、お酒飲んでなかったかも)


 実家から送られてきたのは鬼泣かせだけではない。名前はなんだか長くてよく分からないけれど、私の目の前にはもう一本。所謂「日本酒」と呼ばれるやつが、飾られていた。


 最近は運転をしなければいけない機会が多くてあまり飲めていなかったけど、私は結構お酒が好きだ。アカネさんよりも弱いし量はあまり飲まないけれど、身体がポカポカして疲れが取れていくあの感じは……たまらない。


「……よし」


 重い腰をあげた私は、瓶を持ってキッチンへと移動する。


 そして瓶を開け、私専用のちろりに日本酒を注いでフライパンの中の沸騰した水に、容器ごと漬ける。


「ふふんっ、いい匂い」


 湯気と共に香るお米独特の甘い匂いを感じながらちろりを取り出し、そっとお盆に乗せて部屋に戻りベットの上に腰掛けて。蛇の目の印刷されたお猪口に温めた日本酒を入れて、ゆっくりと口に運んだ。


「んっ……はふぅ。おいひぃ……」


 身体が、芯から熱くなっていく感覚。ほんのりと疲れを溶かすそれに、私の身体は癒されて脱力していく。


 羽織っていた薄い上着を脱ぎ、半袖一枚になって飲み、一息つき、また飲む。ちびちびと一人でゆったり飲むこの感じが大好きで、至高の時間だ。


「えへへ♪ ぽかぽかぁ」


 今日中に仕事は終わらせたし、明日は丸一日休み。



 だから今日はこのまま……のんびりと過ごそう。



Last サキの秘密特訓



「……ごくり」


 深夜。リビングで一人、電気をつけてソファーに腰掛ける私の前にあるのは、一本の缶。


 以前和人と初めて飲酒をした際、私を潰した犯人……ちょろ酔いである。


 動画を見た限り、私は人舐めで昏倒してそのまま酔い潰れた。三パーセントのお酒でそんなになってしまう自分が嫌になってしまうが、今することは悲観ではない。


「和人とお酒を飲むために、特訓!」


 バレないよう、こっそりベッドから抜け出してコンビニで買ってきたこれをもう一度飲み、必ず克服する。せめてこれ一本くらいは意識を保ったまま飲めないと話にならない。


「和人だってそんな私が隣にいたら安心して飲まないだろうし……絶対、飲めるようにならなきゃ!」


 そうと決まれば、と早速コップを取り出し、ちょろ酔いを開けて中身を注ぐ。


 今日買ってきたのはブドウ味。見た目では「ブドウだよ〜ジュースだよ〜」って雰囲気を漂わせてるくせに、いざ飲んでみると牙を剥いてくる獣。今日は絶対に服従させて、私が気持ち良くなるためだけに使う道具にしてやるんだ。


「じゃあ、いただきます……」


 まずは一口。コップの端に口をつけ、ほんの少しだけちょろ酔いを流し込む。


「……あれ? なんとも、ない?」


 動画を見る限り、私はちょろ酔い一舐めで様子がおかしくなり始めていた。だというのに少し待ってみても身体に変化はなく、全く問題なく意識も保てている。


「もしかしてこの間のは、たまたま? なぁんだ、私ちゃんと飲めるじゃん♪」


 くぴくぴ、くぴくぴとそれから更に二口。


「全然余裕じゃん! これなら全部、飲め────」


 全然余裕だ、そう感じた刹那。私の身体は、熱を帯び始める。


「ありぇ? 身体……熱い?」


 深夜のリビング。いくら今が夏場とはいえ、流石に冷房をつけたりはしていない。そのせいか身体中が無性に火照りはじめ、私はすぐに肌着一枚になって……


「あれ、サキ? こんな深夜に何してんだー?」


 その瞬間、背後から聞こえてくる慣れ親しんだ声。眠そうに目を擦りながらこちらへ近づいてくる彼は、すぐに焦った様子で駆け寄ってきた。


「お、おまっ! お酒!? 何して────」


「えへへぇ、かじゅとぉ……ちゅーっ♡」


 私からコップを取り上げようとする意地悪な和人に抱きつき、濃厚なキス。離れようとする身体を無理矢理引き寄せて、舌を強引に絡ませる。


 心のリミッターなど、とうに壊れている。溢れ出てくる和人に触れたいといった欲に、逆らうことなどできるはずもない。


「ん、んぁ……ちゅ。かじゅともおしゃけぇ、飲も? おいひぃよぉ〜?」


「や、やめとけ馬鹿! なんでこんなこと……」


「えぇ〜? ……らって、かじゅとと一緒にお酒、飲めるようになりたかったんらもん……」


「っ!!?」


 私の言葉にドキッとしてくれたのか、和人の身体が少し強張る。何故か少し前屈みになりながら、私から目線を逸らして。


 でもそんな和人に私は火照りきってポカポカする身体を押し付け、抱きつき、ハグをしながらキスをする。絶対に、逃がさない。


 和人の肌に触れた瞬間、気持ちよさと暖かさが身体中に広がって。後先を考えず、ただ気持ちよさに浸っていられるこの時間が、とても心地いい。


「ほ、本当に一旦落ち着けって! あっ、抱きつきながら匂い嗅ぐなよ!!?」


「かじゅとの匂い、しゅきらよぉ〜。チューも頭が蕩けるくらい気持ちよくて、もーっとしたいのぉ〜♡」


 可愛い。愛おしい。あたふたとして必死になる和人が、本当に心の底から大好きで。ぎゅーってして頭をなでなでしてあげたくなるくらい……本当に────


「…………きゅぅ」



 私の特訓の日々は、まだまだ続く。



〜あとがき〜


 いかがでしたでしょうか? 今回はみんなを酔わせる回を何も考えず書き殴ってみました。いつかはサキちゃんと和人が仲良くお酒を呑み交わす回も書いてみたいですが、いかんせんアルコール耐性が低すぎるのでいつのことになるのやら……(笑)


 まあ何はともあれ、これで百話記念話はおしまいです。ここに出てこなかったアヤなんとかさんの飲酒回は近々本編にて出てくるので、お楽しみおば。



 それでは改めまして、これからもよろしくお願いしまーーーーすっっ!!!\\\\٩( 'ω' )و ////

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