第98話 コーヒーとミーさん

98話 コーヒーとミーさん



 俺の家から数分。最寄りの店舗への道を助手席からミーさんに指示しながら、後部座席でサキにじゃれついているアカネさんを横目にメックへ。


 サキの隣を奪還するため俺は必死に店内飲食へと話を持ちこもうとしたが、アカネさんは断固拒否。それどころかミーさんにもお昼前に旅館につきたいならあまり時間は無いと言われてしまい、泣く泣くドライブスルーへ。運転席のミーさんに各自欲しいものを伝え、注文してもらうこととなってしまった。


「ふへへへへっ。甘いよお義兄様。これで自動的にサキちゃんの隣は私のものだ!」


「ぐぬぬ……なんて卑怯な……」


 ちなみに頼んだのは俺がハッシュドポテト、サキがパンケーキ、アカネさんが朝メック仕様のハンバーガーに、ミーさんがコーヒー。お支払いはミーさん所持のアカネさんクレジットカードである。初めは俺もサキも自分の分は自分で払う気でいたが、押し切られた。彼女いわく「サキからあーんしてもらう代」らしい。なんと羨ましいオプションなのだろう。


「わあ、サキちゃんのパンケーキ美味しそう! ねえねえ、一口だけ貰ってもいい?」


「もちろんいいですよ。はい、あーん」


「あーん! んー、甘くておいひいー!!」


 くそ、ラブラブカップルみたいなことしてる! 心なしかサキもノリノリに見えるから余計に悔しさがッ!!


 なんて考えながら歯がゆい思いでいると、ふと目に入ったのはミーさんのおかしな様子。なにやらこそこそとしながら、さらさらと謎の音をたてていた。


「ミーさん、何してるんですか?」


「えっ!? な、なんでもないです気にしないでください!」


「あー! ミーちゃんまたそんなに砂糖とガムシロップ入れて! 糖尿病になっちゃうよ!!」


 いつのまに移動していたのか、後部座席から顔を出したアカネさんの言葉に、ミーさんは赤面する。俺もこっそりと覗いてみると、そこにはシュガースティックの残骸が二本と、ガムシロップが入っていたのであろう空の容器が二つ、転がっていた。コーヒーを注文していた時は大人だと感じたが、どうやらブラックではなかったらしい。


「だ、だってその……ブラック、苦いんですもん……」


「ならどうして頼んだんですか?」


「……あったかいの、飲みたくて」


 可愛い。普段お堅いミーさんがまさか、ブラックコーヒーを飲めないなんて。意外過ぎるギャップに俺もつい頬が緩んで────


「ジー……」


「う゛ッ!?」


 その時、俺の背中に突き刺さったのは嫉妬の目線。────サキからの、不満交じりのジト目であった。


 しかもその視線に気づいたのは、俺のほかにもう一人。その小悪魔さんはにやりと俺の方を見て不敵な笑みを浮かべ、サキさんに抱き着いて言った。


「サーキちゃんっ。あんな浮気者お義兄様は放っておいて私たちだけで楽しもっか♪」


「アカネさん!? 何言って────!!」


「……ぷいっ」


「サキまで!?」


「安心してください和人さん。サキさんもアカネさん同様、少しはしゃいじゃってるだけですよ。旅館ではたっぷり甘やかしてあげてください」


「な、何言ってるんですかミーさん!?」



 そんなこんなで色んなことを話しながら、高速道路へと乗り込んだ車は目的地へと進んでいく。アカネさんは途中で騒ぎ疲れて眠ってしまい、その頭を撫でながら母性に目覚めたかのように我が子を見る顔をするサキと俺、運転しながらあつあつのコーヒーをちょびちょびと啜るミーさんだけで会話は続いて。家を出てから二時間半、目的地である温泉旅館付近、あたり一帯に広がる温泉街の駐車所へと、たどり着いたのである。

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