第97話 旅行の始まり
97話 旅行の始まり
ピン、ポーン。
アルコールで酔い潰れる自分の映像を見て恥ずかしがるサキでしばらく遊んでいると、インターホンが鳴った。
「あれ、もうそんな時間か?」
どうやら知らない間に待ち合わせ時間になってしまっていたらしい。扉の覗き穴から外を見ると、そこに立っていたのはやはりミーさんだ。
少しだけ待ってもらうように言って、二人で大急ぎで着替えを済ませてから荷物の最終確認をし、急いで玄関へと出る。
「おはようございます。……もしかして、お取り込み中でしたか?」
「ち、違います何でもないですから! サキがねぼすけだっただけです!」
「んなっ!?」
サキで遊んでたら時間になってた、なんて言えるわけもないし、とりあえず寝坊にしてみた。だがミーさんは何かを察したような表情を一瞬見せてから、営業スマイルをしてみせる。……多分嘘だってバレてるな。
「ふふふふふっ、相変わらず兄弟仲がいいねぇ〜」
「わっ、アカネさん!」
そんなミーさんの後ろからにゅっ、と顔を出したのは、額にサングラスを乗せ、ラフな格好でニヤつくアカネさん。ミーさんの腰回りに手を回し、胸の辺りまでゆっくりとその手のひらを近づけたところでゲンコツを喰らった。
「車で待っててくださいって言ったじゃないですか。エンジンかけっぱなしなんですよ?」
「ミーちゃん、痛いぃ……。鍵ちゃんと取ってきたもん。早くサキちゃんに、会いたかったんだもん!!」
相変わらずの平常運転。ミーさんも本当に苦労が絶えないな。
でも、はしゃいでしまう気持ちもよく分かる。一泊二日の温泉旅行なんて、興奮しないわけがない。浴衣のサキ、温泉街であつあつの温泉卵をはふはふするサキ……温泉でほんのりと頬を赤く染めてくつろぐ、サキ。
────可愛良い!!
「さて、じゃあそろそろ出発しようか! 二人ともその様子じゃ朝ご飯食べてないだろうし、まずは朝メックへGO!! そのあと高速でバビューンと突っ走るからねー!!」
「「はーい!!!」」
「あの、運転するの私なんですが……。なんかアカネさんが運転するみたいな口ぶり……」
小さくそう呟くミーさんの手を引くアカネさんを先頭に、俺たちは早速車へと乗り込む。大きな荷物は全て後ろに積んで、ミーさんが運転席、俺が助手席、後ろの席にアカネさんとサキという、まあアカネさん得の席順となった。勿論希望したのは彼女自身である。
「サキちゃんちゅっちゅっちゅ〜♡ しばらく会えなくて寂しかったよぉ〜」
抱きつき、寝転がり、めちゃくちゃナチュラルに膝枕の要求を実行する。何あれめちゃくちゃ羨ましい。俺も今すぐしてもらいたいんだが。
「ふっ、お義兄様悪いね。ここは私の特等席なのだよ」
「ぐぬぬ……よしサキ!こっちまで脚を伸ばすんだ! 体勢的に枕にはできないけど、代わりに思いっきり抱きしめる!!」
「何張り合ってるの!? というかそんなこと絶対しないからね!?」
「えへへへへ、サキママの太ももすべすべだぁ〜」
「あの、皆さん落ち着いてくださいよ……」
旅行テンションで既にタガが外れているアカネさん(まあいつも外れているが)を運転しながら制御するのは、いくらミーさんと言っても不可能。しかも俺までもが張り合うせいで、太ももに頬を擦り付ける変態美少女と必死に訳の分からない対抗策を捻り出すお兄ちゃんという、それはそれは酷い絵面が出来上がっているのである。
だが、俺とて負けるわけにはいかない。こんなの実質寝取りだ。彼氏として当然容認できない!!
「アカネさん! メックに到着したら席は交代ですよ!! サキの太ももは俺が貰います!!」
「いーや私だね! この極上の太ももは誰にも渡さないよ! そう、たとえ相手がお義兄様であったとしてもね!!」
「あ、あのやめてください……自分の太もも取り合われてる私が一番恥ずかしいです……」
これから二日間、楽しい旅行になりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます