第90話 誕生日デート7

90話 誕生日デート7



「いてて……何すんだよ、ォォ!?」


「ちょっと大きな声出さないでよ! 二人でいること店員さんにバレたらどうするの!?」


 鬼気迫る表情で、小声ながらにそう叫びながらサキは真っ赤な顔で俺を見る。見られて俺は、軽く意識が飛びかけていた。


 目の前の女の子の、あまりの可愛いさに。もじもじと恥ずかしそうにしながらも何か言って欲しそうに俺を見る、世界一の天使の姿に。


「おっ、ふ……」


 真っ白で赤ちゃんのように綺麗な肌に、白のビキニで大事な部分は隠された巨峰。キュッと引き締まった腰に可愛らしい小さなおへそ、少し肉感のある太もも。


 ダメだこれ。理性を保てる気がしない。分かってはいたが、まさかこれほどまで破壊力に満ち溢れているとは。


「どう……? やっぱり、変?」


「へ、ヘヘヘ変じゃない! なんというか色々と、ヤバい!!」


「や、ヤバいって何? もっと他に、言ってくれたりしないの?」


 ああもう、可愛いなオイ! 今すぐにでも水着をやめて服を着たいって感情と俺に感想を言ってもらいたくて期待してしまっている感情がごちゃ混ぜになって死ぬほど可愛く仕上がってる!! 羞恥心と乙女心の合わせ技、本当に心臓に悪い!!


「…………思ってた通り、めちゃくちゃ可愛いっての。ちょっと刺激が強すぎたかもしれないけどな」


「か、可愛い!? ……えへへ」


 喜んでる顔も可愛いなぁ! 本人は顔背けて見られないようにしてるつもりかもしれないけどここ試着室だから! 背面の鏡に全部映ってるんだよぉ……。


「とりあえず、その水着は購入決定だな。こんなに可愛い姿をこの一度きりしか拝めないなんて我慢できない」


「っ……! わ、分かった。恥ずかしいけど、和人がそこまで言ってくれるなら!」


 さて、ひとまず優勝候補の購入は確定したな。ただまだあと候補は二着ある。やっぱり今の水着が一番似合う気もするが、せっかくだし残りも見ておきたいところだ。


「よし。じゃあ俺は一旦外に出るから他のも着てもらっていいか? 着替え終わったらまた呼んでくれ」


「はーい!」


 サキにそう伝え、試着室の白いカーテンに手をかける。そして一応念のためにと周りに誰もいないかを確認しようと顔を出そうとした瞬間、問題は起きた。


 コツ、コツ、コツ。


 小さく鳴る足音、そして隣の試着室の前から聞こえる話し声。コッソリ聞き耳を立てると、店員さんらしき人と女の人が裾がどうのこうのと話をしているようだった。


 まずい。この試着室の前には女物のサキの靴が置いてあるし、そんな部屋の中から靴を履いた男が一人堂々と出て来たら確実に変な目で見られる。しかもそれを店員さんにとなると……最悪もあり得る。


 後ろではサキが何故俺が出て行かないのかと疑問の視線を向けているが、このままでは部屋の外には出られない。


「すまんサキ。隣の試着室使ってる人と店員さんが話し込んでるみたいで、まだ出られそうにない」


「え? あぁ、それは仕方ないね。ならもう少しここにいてよ。別に急いでるわけじゃないんでしょ?」


「お、おう。それはまあ、そうなんだけどな」


 そう。別に俺がこの部屋に居続けることそのものに問題はない。店員さんがサキの了承もなくカーテンを開けてくることはないだろうし、俺がいることがバレる可能性もほぼ無いに等しい。


 だが、問題はそこではないのだ。


「? 和、人?」


 こんな狭い密室で、大好きな人の水着を生で見せつけられて。俺の理性は、もう……


「険しい顔してどうしたの……? ねぇ、和人ってば……」


「本当にごめん、サキ。俺もう限界だ……」




 ここに入ってきてすぐ。彼女の水着姿を初めて見て思わず取ってしまいそうになった行動。それを抑えていられる理性のタガが外れてしまった俺は華奢なサキの身体を……気付けば、思いっきり抱きしめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る