第89話 誕生日デート6

89話 誕生日デート6



「サキ、見ろこれ! 絶対似合うぞ!」


「えぇ……なんだか布面積小さくない?」


「そんな事ないない!」


 俺がサキに勧めるのは、当然ながらビキニ。決して変な意味ではなく、彼女にはこれが一番似合うはずだと確信を持っている。


 当然恥ずかしがり屋のサキはあまり気乗りしないと思うが、俺はそれでも勧め続ける。


 何故かって。それは、俺は既に″逆に見せない服装の破壊力″を知っているからだ。


 彼女の持つ巨大な二つのたわわは、上から布を被せたところで隠せるような大きさではない。むしろ普通に見せるよりも全体が隠れてそのフォルムだけが露わになっている方が存在感は圧倒的に強く、見る側は意識してしまうものなのだ。……実際去年の冬にセーターとか着てた時は、それはそれはヤバかった。


 というかそもそも、サキの場合は胸の部分で布を多く使ってしまうせいで、上下一体型の水着だと下の方の布の余りが無くなってキツくなるか、もしくは上のサイズに合わせるせいでブカブカになって着れなくなる。部屋着でいつも少し大きめのシャツを一枚着ていたのを見て頭に浮かんだその考えを伝えてみると、どうやら本人にも心当たりがあるようで完全に図星だった。


「こんな心許ないのを着て人前に出るなんて、恥ずかしいよぉ……」


「でも、サキが着たら絶対可愛いぞ? とりあえず何個か候補を選んで試着室で着てみてくれよ〜。案外、恥ずかしくなんてないかも?」


「むぅ……なんだかなぁ」


 もう既に、上と下で完全に分かれているビキニタイプを買うことは確定している。問題はその中から、サキが着てくれるいかにギリギリの布面積を攻めれるか、だ。


 当然俺は少なければ少ないほど嬉しいが、少なくし過ぎれば流石に着てくれなくなるだろう。そもそもそんな姿を周りに晒すなんて俺が我慢できない。


 だからここは、理性と欲望の境界線となる水着を探し当てるのだ。


────全ては、サキの水着姿を拝むために!!!


◇◆◇◆


「……ふぅ」


 それから数十分後。使命を終えた俺は、試着室の前の椅子でやり切った感を噛み締めて額の汗を手で拭った。


 今、二人で選んだ三つの水着を持ってサキは部屋の中にいる。元々俺の中では数十もあった候補の中から選び抜いた、最高の三種の神器。


 一つ目は王道、白ビキニ。柄やフリルなどが一切ない、キングオブ普通のビキニだ。


 三種の神器なんて銘打った割には普通なんて言ったから違和感があるかもしれないが、このビキニの良さはその普通さにある。


 普通。真っ白。何一つ個性がない。だがそれ故に、着た者のスペックやステータスによって評価が圧倒的に変わる。


 なら、だ。世界一可愛いサキさんが着れば世界一可愛い水着に早変わりするに決まっているだろう。最高級に美しい顔に、たわわに実った胸。加えて長くサラサラな黒髪と細い腰元まで加われば怖いもの無しだ。持って行かせた三つの中で、最優勝候補とも言える。


 次に二つ目は、水色のおしゃれフリルビキニだ。


 こちらは布面積が白ビキニより遥かに多く、可愛いフリルまで付いている。そしてなんと、なんと……! 肩紐が無いのだ!!


 安心、安定感のために付いているとも言える肩紐の欠如。布面積の多さの代償としてこれがどう作用するのか。そしてサキに水色がどこまで似合うのかというのが、勝負の決め手となっていくだろう。


 そして最後、三つ目。こちらは二つ目のビキニを通常のビキニと合成することによって生まれるキメラ。人呼んでフリルワンショルダー水着である。


 片紐、片フリル。両方の良さを半分ずつ取り入れ……はたまた半分ずつ失った一品。ちなみに色は二つ目と同じ水色で、本来二本あるはずの肩紐が片方フリルとなってその役割を果たしているわけだ。少し大穴枠で入れてみた。


(さて、そろそろサキは何かしら一つ着終えてる頃か?)


 いくつも試着室が並んだこのスペースで、これから俺はサキの水着姿を拝める。今は周りに人がいないから、その光景を独り占めだ。ふへへへ。


 と、一人ニヤけそうになるのを抑えているとやがてサキさんがカーテンの端からひょっこりと顔を出し、小さく俺を手招きした。一体どうしたのだろう。


「か、和人……その、着てみたけど私、やっぱり恥ずかしいというか……」


「ん? 大丈夫だってどうせ可愛い。もっと自分に自信を持つんだ」


「へ、変なこと言わないで! ま、まぁその……ね? せめて見られるなら、最初は和人にしか……見られたくない、の……」


「今なら周り誰もいないぞ?」


「そ、そういう問題じゃなくて……あぁ、もうっ!」


「ぬぉ!?」


「早く入って来て! ばかぁっ!!」




 俺は突然サキに腕を引っ張り上げられ、靴すらも脱げないまま、転がるようにしてカーテンの中へと姿を消した。

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