第83話 サキの決断
83話 サキの決断
「ねぇ和人。ちょっといい?」
「ん? どうした?」
アカネさん宅から家に戻り、シャワーを浴びてスッキリして。俺たちは二人きりで日付が変わる瞬間を迎えた。
日付は十日から十一日に変わり、晴れて俺は二十歳となって成人。それからしばらくしてそろそろ寝ようかと言う頃、サキが何やらもじもじとしながら俺をリビングに引き留め、そう問いかけてきた。
「あのね、誕生日プレゼントの事なんだけど……」
あ、そうか。大本命のサキさんからの誕生日プレゼントはまだ貰っていなかったな。そういえば去年はヘッドフォンを貰って今も大事に愛用させてもらっているが、今年は何をくれるのだろうか。まあ、正直サキが選んでくれた物なら俺はなんでも嬉しいが。
と、一人高揚感を昂らせていると、サキは何故かそんな俺から目を逸らしながら言った。
「実は……あげたい物が多すぎて選べなくて。まだ、買えてないの……」
しゅん。少し縮こまって、それはそれは申し訳なさそうに。それでいてどこか、悲しそうに。言葉を言い終えると、まるで今から怒られる事を覚悟した子供のように下を向きながら俺の反応を待っているようだった。
誕生日プレゼントを当日に用意できていない。きっおそれは、サキからすれば相当嫌な事で、したくはなかった事なのだろう。実際に俺だってなんとか当日に間に合わせようとして優子さんに力を借りたりと、中々に無茶をしたものだ。
でも、だからこそ分かる。今年が二十歳になると言う人生の一つの節目で特別な誕生日ということもあって、去年以上にプレゼントの内容は選びにくい。それに加えて自分に自信を持てないタイプのサキなら尚更、苦悩が続いたことだろう。
「そっか。でも、サキなりにきっと頑張ってくれてたんだろ? 俺はその気持ちが嬉しいよ」
なら、俺はサキがこれまでにきっとしてくれたのであろう努力や頑張りを、目一杯褒めるべきだろう。事実今誕生日プレゼントを貰えなくて俺の中に芽生えている感情は怒りや悲しみではなく、むしろ選べなくなってしまうまで俺のことを色々考えて努力を重ねてくれたのだという、その過程に対する嬉しさだ。
「……ありがと。でね、もう一つ言いたいことがあるの」
「おう、言ってみてくれ」
「和人の誕生日プレゼントを、私と一緒に買いに行って欲しいの。……ダメ、かな?」
「え、一緒に?」
コクり。サキは俺の問いに、無言の頷きで答えた。
プレゼントを貰う相手と一緒に買いに行く、か。俺には無かった発想だが、サキらしいと言えばサキらしいのかもしれない。
誕生日当日、何が入っているか分からないプレゼントの箱をドキドキしながら開けるのは、勿論楽しい。だがそれとはまた別で、一緒に買いに行くということは自分の欲しいものを確実に貰えることに加えて、″一緒に選ぶ過程″も楽しむことができるのだ。その過程は相手が同性の友達などなら必要のないものかもしれないが、それが自分の好きな異性となら当然話は別。プレゼントも貰えて、それを選ぶために共に出掛けにもいける。
多少驚きはしたが、何も悪いことはない。
「いや、むしろ大歓迎だ! 明日……いや、もう今日か。とにかく二人で一緒にプレゼント選びしながらデートしようぜ!」
「ほ、ほんと? サプライズじゃなくなっちゃうけど、いい……?」
「勿論! 朝から出掛けて、夜には帰ってきてさ。プレゼントを貰った喜びを噛み締めながらケーキを食べて……あ、そうだお酒! 帰りにお酒も買って帰ってこようぜ!」
「……うんっ!」
どうやら俺の言葉を聞いて、サキは安心しきったようだった。さっきまでの緊張に満ち溢れた雰囲気は消え去り、少しテンションが上がったまま俺が頭を撫でてわしゃわしゃしてやると、その顔は笑顔に染まっていく。
「よし、じゃあひとまずデートに備えてそろそろ寝るか! 行き先は朝、ご飯でものんびり食べながら決めようぜ!」
「分かった! 朝ご飯は何がいーい?」
「うーん、そうだな……サキ特製の目玉焼きが乗った、とろっとろのトーストが食いたいな」
「りょーかい!」
さて、早く寝ようと自分から言っておいて何だが……楽しみすぎて、全然眠れる気がしないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます