第84話 誕生日デート1

84話 誕生日デート1



 デート実行を決めた、数時間後。俺たちは朝目覚め、目玉焼きと細かく切られたベーコンの乗ったトーストを食べながら、頰を緩ませていた。


 結局寝付いたのは夜中で、今だってまだ朝の八時と大して早い時間ではないのだが、睡眠時間が短いせいでまだ少し目がしょぼしょぼする。


(でも、これのおかげで少し目が覚めたな)


 そんな寝ぼけた状態でかじりついたトーストは死ぬ程熱く、気をつけて食べてというサキの忠告も聞かずに勢いよく口に含んだ俺の舌は絶賛やけど中だ。トーストを少しずつ食べるたびヒリヒリして仕方ない。


 が、そんな苦しみをかき消すほどに濃厚で最高の焼け具合の目玉焼きに、上からかけられてトーストが焼き上がる過程で少し淡い色になったマヨネーズ。加えて胡椒で軽く味付けされた細かいベーコンの少し濃いめの味付けも上乗せされて、そのあまりの完璧な出来につい、今現在頰が緩んでいるわけだ。


「んん……ぷはぁ! やっぱりトーストに牛乳は合うねぇ〜」


「お、いい飲みっぷりで」


 くぴくぴとコップ一杯の牛乳を飲み干して再びトーストをかじるのを見て、中身の無くなったコップに牛乳を注いでやると「はひはとぉ〜」と、ありがとうと母音だけが合っている返事と共にサキは再び幸せそうな顔に戻る。


(サキ、そういえばよく牛乳飲んでるよな。普段から)


 思えば同棲し始めてから、我が家の牛乳の減りは異常に早い。毎回買い物に行くたびに買っているはずなのに、お茶と同じかそれよりも早いペースで無くなって……しかも飲んでいるのは、九割方サキである。


「前から思ってたけど、サキって牛乳好きなのか?」


「んー? なんれ?」


「いや、普段からよく飲んでる感じがあるからな。単純に気になった」


 俺がそう言うと、サキはごくんっ、と喉を鳴らしてトーストを飲み込み、牛乳をカップの半分ほど一気に飲んでから不敵な笑みを浮かべて言う。


「ふっふっふ、和人、私は牛乳が飲み物界最強だと考えているのだよ」


「ほう、理由は?」


「よく考えてもみてよ。私たちは小学校の時、給食のお供に牛乳を強制されていた。それはつまり、国が牛乳をお茶よりも強いと考えているからだと、そうは思わない?」


「???」


 あれ、途中まではなんかまともそうな事言ってるように感じたけど、何? お茶より牛乳の方が強いって。脳筋理論? 国を巻き込んでまでする発言だったのか??


「すまん、ちょっとよくわからない」


「なら、分かりやすいように言ってあげるよ。牛乳はね、最強なの!」


「うん、分かりやすくないな。多分それで分かる奴はこの世に一人もいないぞ」


 まるで小学生が特撮ヒーローをカッコいい、無敵だと言うような口調だったが、それを牛乳で言われても頭にはてなマークが浮かぶのは当然だ。


 まあひとまず、今のサキの身体がどうやって出来上がったかはよく分かったよ。凄いな牛乳。感謝してもし切れないぞ。


「って、そんなことより。今日どうする? 行きたいところとかあるか?」


「えー? うーん……って、ダメだよ! 今日は和人の誕生日なんだから、和人が決めて!」


 えぇ、俺特に行きたいところとか無いんだけどな。彼氏と彼女がやれどこどこに行きましただの記念日ですだの言うような陽キャじみたSNSは見ないし、流行などにはあまり強くない。だから行き先はいつもサキに任せているのだが……どうしたものか。


 とそんな事を考えていると、サキは食べ終わった皿を洗いに台所へ。リビングに一人残された俺は満腹感に満たされながら何か良い行き先はないかとスマホをいじると、一箇所中々良さげな所を見つけた。


(これ、サキの奴喜びそうだな……)


 場所はここから一番近い駅から出る電車に乗って四駅。全国に何個もある大型有名ショッピングモールの一つで、同じ名前で家から近い所には何度も行ったことがある。そこと違うのは精々内蔵されている専門店や規模くらいだろうが、今はとあるイベントが行われているらしい。俺の誕生日プレゼントを探せる規模もありつつ、期間限定のサキが好きそうなイベント。ここなら充分楽しめそうだ。


「よし、ここで決まりだな」




 早速、俺は台所にいるサキにその事を伝え、着替えるために自室へと戻った。

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