第77話 見せつけられる百合
77話 見せつけられる百合
小鳥遊さんの運転に身を任せる事、数十分。アカネさんの相変わらず高く強そうなマンションの駐車場へと着くと、そのまま三人でエントランスへと向かった。
以前来た時はそこで部屋番号を調べてサキがアカネさんと話をし、エントランスからマンション内へと入るための扉を開けてもらったのだが、今回は小鳥遊さんがいる。部屋番号を入力する機械の隣にある鍵穴に恐らく住人だけが渡されているのであろう鍵を刺すことで、簡単に扉は開いた。
「では、行きましょうか」
まだほんの少しの時間しか接してはいないが、小鳥遊さんの性格について分かったことがある。
それは、堅く真面目ながらも、とても優しい人であるということだ。
例えば、俺たちが車の中にいた時。少し冷房が効きすぎていて寒く、サキが一瞬身体を小さく震わせたことがあった。
だが、小鳥遊さんは運転中。当然気づくはずもないし、隣にいる俺が冷房を弱めてくれと言おうとしたのだが……
「申し訳ありません。冷房の温度、上げますね」
そう言って、小鳥遊さんは俺が言う前に温度を上げてくれたのだ。
マネージャーという仕事柄視野が広いのか、すぐにこちらに合わせて物事を調整してくれる。常にこちらの様子を伺いながら話してくれて、軽く談笑をしていた時もとても話しやすかった。なんだか、聞き上手の友達と放課後教室で話してるみたいな、そんな感覚だ。
そういう細やかな気遣いを見て、俺はこの人に優しさと安心感を覚えた。きっとアカネさんも、そういう人だから自分のマネージャーとして選んだのだろう。
と、そんな事を考えているうちに気づけば俺たちはアカネさんの部屋の前にたどり着いて、小鳥遊さんはすぐに扉の鍵を開けて俺たちを招き入れた。
「「お邪魔します」」
小鳥遊さんに導かれ、玄関で靴を脱いでそれをキチンと並べてから、リビングへと続く廊下を歩く。
そして、リビングに入ると────
「……すぅ……すぅ……」
アカネさんが、寝ていた。静かな寝息を立て、それはそれは気持ち良さそうに。
「ちょ、アカネさん!? 何してるんですか!! 早く起きてくださいッ!!!」
客人が来ているのにそれは流石にまずい、と思ったのか、小鳥遊さんはすぐにアカネさんに近寄って肩を揺らす。すると何やら丸くてとても柔らかそうなソファーの上のアカネさんは、うっすらと目を開けた。
「ん、むにゅ……ミーちゃん? どうしたのぉ?」
「どうしたのじゃありませんよ! 言われていたお二人、もうお連れしましたよ!?」
「あー、お疲れぇ。やあ、サキちゃん、お義兄様。ごめんねぇ、このソファーの魅惑的なお誘いを断れなくてぇ……」
「あ、寝ようとしないでくださいよ! というかそのソファー、絶対に買っちゃダメだって言いましたよね!? アカネさん、絶対に起きれなくなるからって!!」
ゆさゆさ、ゆさゆさ。激しく肩を揺らす小鳥遊さんだが、アカネさんは中々起きようとしない。
おそらくだが、アカネさんが今囚われているあのソファーはいわゆる、「人をダメにするソファー」と呼ばれているやつだろう。家具を売っている店なら最近どこでも売っている人気商品で、俺も一度お店のお試しコーナーで座ったことがある。
柔らかなビーズ生地に、座った瞬間に形を変えて体を包み込む圧倒的フィット感。思わずその場で寝てしまいそうになったため、これはダメだと買うのを断念したものだ。ので、気持ちはよく分かる。ちなみにサキもその時一緒にいて、隣で溶けそうになっていた。
「起きてください! 起きてくださいってばぁ!!」
「うえぇ……なら、おはようのチューしてぇ……」
「っう!? で、出来ませんよそんなこと!」
「いつもはしてくれるのにぃ……もう私ミーちゃんにキスしてもらわないと、起きれない身体になってるのぉ……」
「……ああ、もうッ!!」
アカネさんにそう言われ、小鳥遊さんは顔を真っ赤にしながら、そっと頰にキスをした。『いつもは』とか『してもらわないと起きれない身体になってる』とか言ってたけど……もしかして、毎朝こんなことをさせられているのだろうか。
……そして俺たちは、一体何を見せられているのだろうか。
「んーっ! おはようミーちゃん! そして愛しのサキちゃんにお義兄様!! さあ、早速今日の本題に入ろうか!!!」
「……うぅ」
小鳥遊さん……あなた、マネージャーとして仕える相手の人選、間違えてませんか?
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