第78話 アカネさんのプレゼント

78話 アカネさんのプレゼント



「さてさて、お二人さん! 今日お越し頂いたのは他でもない、二人にプレゼントがあるからです!!」


 さっきまでふにゃふにゃになりながら人をダメにするソファーの上でうたた寝していたとは思えないテンションで、アカネさんは言った。


(二人に……? え、俺も?)


 確かに、俺もサキと誕生日が近く、なんなら明日だが。まさか俺にまでプレゼントを用意してくれているとは……今日俺まで呼ばれたのはそれが理由だったのか。


「はい、ミーちゃん! 例のアレを! ……って、なんでそんなに顔真っ赤なの?」


「あなたのせいですよ! あとせめて二人きりじゃない時はミーちゃん呼びやめてくださいって!!」


「やーだよー! ミーちゃんはミーちゃんって呼ばれ方が一番可愛いからね!!」


 子供のような笑みを浮かべながらアカネさんがそう言うと、小鳥遊さんは「はぁ……」と小さくため息を吐きながらリビングの端にある棚を開け、中から細長い紙が入った透明なクリアファイルを手渡した。


「ふふふっ。さあサキちゃん、中身を確認してみてくれたまえ〜」


「は、はいっ!」


 まるで、卒業証書を貰うかの如く両手を差し出したサキはそれを受け取ると、紙を取り出す。


 俺が紙だと思っていたそれはどうやら封筒のようなものだったようで、その封を開けると中から、二枚のチケットが出現した。


「サキ、それなんて書いてあるんだ?」


「えっとね……師走しわす温泉、利用券……? うぇ!? 師走温泉ッ!?」


「イエス! 私からの誕生日プレゼントは、師走温泉の一泊二日旅行券だよー!!」


 師走温泉。ここから少し遠いところにある、日本でも屈指の有名な温泉で、その一帯に温泉街が並んでいる有名な観光地。一年中人気の絶えないところで、予約も中々取れないとか。まあそんな感じの、とにかく凄い所だ。


「私、一度ここに行ってみたいと思ってたんです!! でも、一度も予約取れた事なくて……どうやったんですか!?」


「ふふん! ミーちゃんが一晩で部屋抑えてくれましたー!!」


「「ミーちゃんさんすごい!!」」


 この温泉宿を抑えるのがどれほど大変なのか俺には想像がつかないが、サキの反応から見てもそれを一晩で行ってしまうのは明らかに凄すぎる。


「ミ、ミーちゃんさんはやめてください……。というか温泉旅行なんていきなりここで伝えてしまって、お二人のご予定は大丈夫なんですか? 一応、候補日として何日か抑えてはいますが……」


 む、言われてみれば確かに。俺の方は予定なんて無いが、サキにはVtuber活動がある。常に週ニ配信を続けてきたアヤカだが、今週はまだ誕生日記念配信しかしていないのであと一回配信をしなければならないが……


「問題ありません! 和……お兄ちゃんとの温泉旅行のためなら一回くらい、配信回数が減っても大丈夫ですから!!」


 そんなことより、やっぱり温泉優先だよなー。まあVtuberは義務じゃないんだし、そこは本人の自由だ。


「そう、ですか。では日程の方なんですけど、私が抑えられたのは十一日、十二日、十三日、十四日です。この中から一泊二日……あと次の日も疲れがあるでしょうからお休みになられる事を考えると、十一日か十二日、このどちらかがいいと思います」


 十一日……って。あれ、それ明日では? 随分と急だな……。


「本当に急ですみません。実はお二人に温泉旅行をプレゼントすることは前から計画されていて、昨日サキさんとアカネさんが話していた時には既に予約は取れていたのですが……どうしても今日急に伝えてドッキリさせたい、と」


「だって伝えた瞬間のサキちゃんのこの顔が見たかったんだもん!! あ、ちなみにその旅行私たちも一緒に行くから、四人でいっぱい楽しもー!!」


 わー、この人もしサキにキャンセルできない予定があったらどうするつもりだったんだろ……。いや、それはそれでミーちゃんさんと二人きりで旅行楽しんできそうだな。本当、こんな破天荒な人について行くのが仕事なんて苦労人だなぁ。


「どうする、サキ? 明日から行くか、明後日から行くか。まあ、聞かなくても答えはわかるけど」


「勿論、明後日の十二日からだよ! 明日は和人の誕生日を二人で過ごすんだから……っ!」


 盛り上がるアカネさんと、その勢いで頭を撫でられヨシヨシとされているミーちゃんさんに気付かれぬようそう耳打ちし合い、俺たちは答えを決めた。


「アカネさん! では十二日から二日間、お願いします!!」


「俺からも、お願いします!」


「よーし、お姉さんにドーンと任せなさいっ! 四人で最高の旅行にしよー!!」



 こうして四人、一泊二日の温泉旅行の開催が決定した。

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