第71話 カウントダウンは二人きりで

71話 カウントダウンは二人きりで



 台所に移動した俺たちは、早速必要なものを並べた。


 オレンジジュース、パイナップルジュース、そしてレモン果汁の方は、料理用の小さな容器に入った液を使う。


「さて、言ってもこれ混ぜて終わりなんだよな」


「だねぇ。何で混ぜるのー?」


「これだよ。混ぜるのやるか?」


 そう言って、俺はステンレス製の小さな水筒を差し出す。するとサキは、小さく頷いた。


「んじゃ、早速……」


 混ぜる係も決まったところで、それぞれの材料を全て水筒に注ぎ、上の蓋をキチンと閉めてサキにそれを手渡す。すると、ゆっくりとそれをふり始めた。


「んっ、ふっ……はぁっ」


 筋肉痛で腕がうまく上がらないせいか、その手の動きは些か遅い。だがその分、必死に振ろうという気持ちからか、水筒と一緒にその身体も揺れていた。


 お風呂上がりで薄着な格好でそんな事をされては、当然俺の視線は一箇所に固定される。


「ほんと、相変わらずいいもの持ってるよなぁ」


「んぇ? 何か言っ、たぁっ?」


「んにゃ、なんでも」


 だがまあ、そうやってたわわな果実を見ていられる時間は一瞬で。十往復くらい水筒を振ったサキはやり切った感を出してそれを、俺に手渡した。


「よし、コップに注ぐぞ〜」


 本当なら口の大きなおしゃれグラスにでも注ぎたいものだが、当然俺の家にそんな物があるはずもなく。縦長な円柱型のコップにシンデレラを、ゆっくりと入れていく。


「……わぁっ。なんか綺麗!」


 材料が全て黄色ベースだったことから、液体の色は少し濃いめの黄色。少し泡立っているのがなんだかお酒っぽく見えて、とても綺麗だ。


 それに、なんだか甘い匂いもする。なんの匂いかと聞かれると難しいが、まあ……甘くて、美味しそうな匂いだ。語彙力が明らかに足りてないが許してほしい。


「って、のんびりしてられないな。あと一分だ」


「わ、本当だ! 早く戻ろ!」


 時計を見ると、時刻は二十三時五十九分。それを見て急いでコップを持ってリビングに戻った俺たちは、ゆっくりとソファーに腰掛けた。


 スマホの時計を秒数まで表示できるように設定し、目の前の机の上に置いて。その秒数が五十になったところで、カウントダウンを始める。


「十〜九〜八〜」


 二人で肩を寄せ合って秒数を数えていくたび、去年のサキの誕生日から今日までの記憶が、蘇っていく。


 去年の誕生日の時は確か、オシャレなレストランを予約した。まだ二人ともたじたじで、一つ一つの言葉を発するのに緊張して。でも、誕生日プレゼントを渡した時はめちゃくちゃ喜んでくれて、嬉しかったっけ。


「七〜六〜五〜」


 それからも、サキとの関係はいい方向に進んでいって。喧嘩の一つもしないまま、遊びに行く回数とか会う時間も、どんどん増えていった。まあ、そもそも俺たちは二人ともあまり友達のいないタイプだったから、遊ぶ予定とかも全然無かったしな。


「四〜」


 そして、年を越して。ずっと勇気が出なかった同棲の誘いに、やっと成功した。そこで初めてサキが俺の推しV、柊アヤカと同一人物である事を知った。あの時は本当に驚いたけど、そこから更にサキの事を好きになっていけたな。


「三〜」


 ゲームの練習に付き合ったりとかして、ユリオカートの猛特訓でリスナーに努力を見せつけたこともあった。一位にはなれなくても、前よりも明らかに上達したその姿を見て純粋に応援してくれていたリスナーの姿は、特訓に付き合った俺からすれば最高の景色だった。


「ニ〜」


 サキと出会わなければ、一生関わることがなかったであろう人たちとも仲良くなれた。優子さんは外見だけ見ればおしゃれ大学生で綺麗な人って感じだけど、本当は彼氏募集中の可愛い人。普段とそういう時のギャップに不覚ながら少しドキッとしてしまった。


 アカネさんは……うーん、なんというか俺がサキを守護らないといけないなって、再確認させてくれたな。実は変態ながらもちゃんとラインを守れる人で、サキが本気で嫌がる事はしてなかったイメージはあったから、根はいい人なんだと思う。俺的にはもう少し色々と抑えてほしいが。


「一〜!」


 本当に、色々なことがあった。でも確かに言えるのは……


「誕生日おめでとう、サキ。これからも……ずっと大好きだぞ」


「ふぇっ!? あ、ありがと……」




 心からの本音を伝えて、伝えられて。俺たちは少し照れ臭くなりながらも、シンデレラで乾杯した。 

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