閑話 愛ある突き放し

閑話 愛ある突き放し



『ふむ、それでそれで?』


『チョコケーキ食べたの! 和人と、切り分けるんじゃなくてフォークで直接!! なんか大人の贅沢って感じがして最高だったよ〜!!』


『ケーキいいなぁ。私今ダイエット中だから甘いもの控えてて……( ;∀;)』


『ふふんっ♪ これが誕生日の特権なのだっ!』


 今日は、ずっとこんな調子である。


 こんなってどんなかって? サキからのリア充報告の繰り返しということだ。なんか昨日の夜中に日付が変わる瞬間ノンアルのカクテルで乾杯して、今日の誕生日はずっと一緒にイチャイチャを繰り返したんだとか。


(あーもう……羨ましいなァッ!!)


 サキの幸せは私の幸せ。分かってる。無作為に通りすがったリア充全員に心の中で爆発しろと叫んでいる私でも、流石に親友にそんな事は思わない。


 ただ……ここまで見せつけられると、中々にクるものがある。


『和人君、ほんといい彼氏だよねぇ。サキにあげるネックレス選んでる時もすごく必死で、ビックリしちゃったもん。それに、ちゃんと選んだ甲斐あってかサキもそれ、気に入ってるみたいだしね』


『うんっ! 寝る時とお風呂入る時以外はほとんど付けてるんだぁ。鏡見た時とかふとパソコンの画面が暗くなった時とかにネックレスが目に入ると、まだニヤけちゃう』


『あらあら、ニヤけてるサキの写真は是非とも欲しいですわね。今度送ってくださる?』


『やだよ(笑)なんで自分がニヤついてる変な顔を自撮りしなきゃいけないのさー!』


『ぶぅ。ケチー(`・∀・´)』


『ケチでいいもーんだ』


 はぁ。一応私もサキへの誕生日プレゼントをちゃんと用意して、次会う時に渡すって言ってあるけども。こんな最高なのを彼氏から貰った後に渡すなんてハードルが高過ぎないだろうか。


 ちなみに、私が用意したのは小さな猫のぬいぐるみと、少しおしゃれな感じの小さなペンケース。どちらもちゃんと選んだから悪い反応はされないと思うけど……いや、サキのことだ。和人君のプレゼントと比べたりせず、同じくらい喜んでくれるかな。心配しなくても。


 私たちは高校からの付き合いだから、出会ってから三年と少しが経過している。


 高校の時は三年間ずっと同じクラスで、私のいた中学校からは友達が一人も入学してこなかったから、開幕ぼっちが確定していた私が初めて話しかけた相手。


 初対面の印象は地味な子で、とにかく大人しかった。人見知りも凄くて、ちゃんと話せるようになったのは多分数週間経ってから。でも不思議と、一度もサキといるのを嫌だと思ったことはなかった。


 多分、相性が良かったんだと思う。どういうところで、と言われると何も浮かばないけど、むしろ何も浮かばないくらい、全体的に良かったのかも。気づけば今田もこうして、学部が変わって会う機会が減った今でも頻繁に連絡を取り合っているわけだし。


(でもまさか、サキが彼氏を作るとは思ってなかったなぁ……)


 サキは、高校の時からモテていた。あの容姿ならそれは当然のことなのだが、何故かその向けられた好意が本人に伝わったことは一度もない。


 あからさまにサキを意識して、少しアプローチをしていた男の子も確かにいた。でも……サキ自身が、自分のポテンシャルの高さに気づいていなかったのだ。まあそれは、割と今もだけど。


『……あっ、そうだ優子! もう少しで和人も誕生日なんだけどさ、プレゼント何がいいと思う!?』


『え? まだ決めてないの?』


『う゛〜あげたいものはいっぱいあるんだけど、逆にいっぱいすぎて選べないんだよぉ〜!』


『和人君なら多分なんでも喜ぶと思うよ?』


『にゃーっ! それが一番困るのーーっ!!』


『……( ・∇・)』


『何その顔!?』


 思わず、ため息が漏れた。彼氏君のに付き合ったばかりだというのに、次はこっち。全然嫌じゃないし、むしろ頼ってくれるのは嬉しいことなんだけど……この二人、本当″似てる″なぁ。


『和人君のプレゼント選びはあまりに時間が無かったから手伝ったけど、サキのはダーメ。まだ数日あるんだし、ちゃんと自分で決めなさいっ。私以外の人にも頼っちゃダメだからね』


『そ、そんなっ!?』


『では、次は和人君バースデーの次の日にお会いしましょう。後日談、期待しておりますので( ^∀^)』


『ちょ、待っ────!!』


 そこで私は、トーク画面を閉じた。多少乱暴な切り方だったかもしれないけど、これで数日間は放置だ。


 別に、面倒くさかったからとかじゃない。ただ単に、誰にも頼らず一人で悩み抜いたサキのプレゼントがどんなものになるのか、かなり気になってしまった。


 これは直感だけど、サキはむしろその方が良い物を選べるんじゃないかな、と。そんな気がしている。


「ん、んーっ! さーてとっ! 明日からバイト三連勤だし、そろそろ寝るかなっ!」




 数日後に語られる後日談を楽しみに、私は眠りについた。

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