第58話 寂しがりやの願いごと
58話 寂しがりやの願いごと
「晩ごはんできたよぉ〜。和人ぉ、お皿運んでぇ」
「ほーいほいっ。お、豚の生姜焼きか。美味そうだ」
家に帰り、シャワーを浴びて。サキと一緒にゴロゴロしたり本を読んだりをして過ごすと、あっという間に夕方になっていた。そしてそこからサキはキッチンに入り、今に至る。
渡された大きなお皿に盛られていたのは、もやしとキャベツ、玉ねぎと混ぜられた、豚の生姜焼き。香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、食欲を強くそそる。
「今日のは自信作だよっ。いっぱい食べてね♪」
ふふん、と自慢げに大きな胸を張るサキ……うん、かわいい。なんというか、背伸びをしている新妻感があって素晴らしいな。
と、心の中でサキのエプロン姿に感想を述べつつ。二人で分担してお皿を運び、やがてリビングの机を囲んだ。
「「いただきますっ」」
さて、実はと言うとまだ、これっぽっちもプレゼントのことは調べられていない。
理由は単純明快。常にサキが隣にいるからだ。スマホで検索でもしようもんならスッと覗いてきそうなほどの近距離にずっといたので、調べるタイミングがなかった。
なんだか最近、どんどんサキとの距離感が縮まっている気がする。ソファーに座ってる時、俺の自室のベッドで寝転がっている時も常にサキは隣にいて、幸せそうな笑顔を振りまく。
だがここまで近距離で引っ付かれていても、不思議と一度も邪魔だと感じたことはない。むしろ構って欲しくて読んでる漫画の後ろから顔を覗かせたり、スマホを弄ってる手をツンツンしてくるのは猫のようで可愛すぎる。
と、まあそんなことは置いておいて。夜には調べなきゃな。明後日の誕生日当日にはサキとケーキを取りに行くから、明日しか時間はない。今日のうちに、入念な下準備を────
「ねぇ和人……今日、さ? 一緒に……」
「ん?」
「一緒に寝ても……いい?」
ん? あ、えっ?
「ど、どうしたんだ? 急に」
右手で自分の左腕を掴み、身体をもじもじとさせながら。サキは少し恥ずかしそうに、言葉を続ける。
「……し、かったの」
「え?」
「昨日……寂し、かったの。夜一人で寝るのって、いつも通りのことだったのに。和人と一緒に寝る心地良さを知っちゃった、から」
「サキ……」
たしかに俺だって、思った。昨日の夜、一人で自室のベッドに寝転がって部屋の電気を消した時に、隣に誰もいないのに違和感があって。一人の方が広くベッドを使えるし、寝返りだって打てる。なのにその広さが、なんだか妙に寂しかった。
どうやらサキも、同じことを考えていたようだ。夜、一番無防備で、孤独な時間。そんな時を、好きな人の隣で過ごして、温もりを感じて。朝、寝ぼけた目を擦りながら起きて目を合わせると、自然と笑みが溢れる。
一度そんな経験をしてしまったからこそ、一人だと寂しさが生まれる。それを、埋めるためには……
「分かった。今日だけと言わず、明日も、明後日も……これからは、二人で一緒に寝よう。俺も、寂しかったしな」
「ほ、ほんと? えへへ……やったぁ」
ったく、これからまだまだ暑くなるってのに、何言ってんだか。ま、でもサキとずっと一緒にいられるなら、そんなこと気にはならないか。
そう、サキと一日中……ずっと、一緒に……
(あれ? じゃあ誕生日プレゼント、いつ調べるんだ?)
しまった、今日は夜更かしして準備するはずだったのに大変なことになってしまった! や、やっぱり今日からじゃなくて、明日からで……あぁ、ダメだサキさんいい笑顔! めちゃくちゃ楽しみにしてらっしゃる!!
どうしよう、ただでさえこの家の中でサキと離れてる時間って、サキが自室で動画編集する時を含めた夜の時間だけだったのに。これ、さてはサプライズの難易度を自らめちゃくちゃ上げてしまったのでは!?
(まずい、非常にまずい……)
満面の笑みを浮かべながら食べ終わったお皿を運ぶサキの背中を見つめ、俺は一人静かに焦りを募らせていた。
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