第57話 誕生日プレゼント

57話 誕生日プレゼント



 七月五日、月曜日。サキとの初添い寝を遂げ、そのままほのぼのとした日曜日を過ごした、次の日。俺の脳内は、ある一つの悩みで持ちきりであった。


(サキの誕生日プレゼント、どうしよう……)


 そう、サキの誕生日が明後日に迫っているのである。


(確か去年は……あ、誕生日ケーキと鞄だったっけな。鞄に関しては今も使ってくれてる)


 やはり、食べ物飲み物なんかよりも、形に残る物をあげたい。それでいて、去年の鞄のように実用性のある物、か。


 時計……はもう付けてるしな。お母さんからもらった大切な時計だって言ってたし、それを外させて俺からの時計を付けさせるってのもなんかなぁ。


「……さん? 黒田さん?」


「え? あ、はいっ!」


「何をぼーっとしているのですか? 早くこの問題に答えてください」


 あ、やっべ。今講義中だった。てか何? あの訳のわからない数式は。俺数学できないって言ったよな? クソ必修科目めっ!


 と、心の中で声にならない不満を叫びながら、俺は諦めて教授に謝ろうとした、その時。俺の服の裾をちょいちょいっ、と摘みながら、隣からノートを差し出してくる女の子が一人。


「あ、えーっと……√3、ですかね?」


「……正解、です。ちゃんと問題を解けたことには関心しますが、授業はもっと集中して聞くように」


「は、はい。すみません」


 俺がそう言うと、教授はその答えを黒板に書き込み、講義を再開した。


「あっぶなかったぁ……。助かったよ、サキ」


「もぉ、珍しくちゃんと起きてると思ったら、まさかぼーっとしてただけなんて。ちゃんとしてよねっ」


「あはは、ごめんごめん」


 ぷいっ、と再び前を向いて講義の板書をすぐに取り始めるサキの横顔。やっぱり今日も可愛いなぁなんて思いながらしばらくバレないように眺めていると、俺はあることに気づいた。


(あれ? そういえば、サキって……)


 サキがとある装飾品を付けておらず、同時にそれを俺がプレゼントして付けてもらえた姿を想像すると、一瞬で頭がハッスルするもの。


 即ち、誕生日プレゼントが決定した瞬間である。


(待ってろよ、サキ。俺がとびっきり似合いそうなのをプレゼントするからな!)


 結局俺はその後も集中して講義を聞くことはなく。どこでそれを探すかだけに、一時間半脳のリソースを裂き続けたのだった。


◇◆◇◆


 講義が終わり、サキと帰路につく。今日は三限までしかなかったため、時刻はまだ午後三時だ。


「ねえ和人、どうしたの? なんか今日ずっと、考え事してるみたい」


「き、気のせいだ。今日の夜はサキとどうやってイチャイチャしようかなって、そんなこと考えてただけだ」


「ふぅ〜ん。それは、楽しみ……」


 さて、プレゼントの内容は決まったものの、いつ買いに行ったもんか。やっぱりサキには内緒で買いに行きたいところだが、俺たちが一緒にいない時間なんて、せいぜい講義のクラスが違う時だけ。それもたったの週に二、三回だけの話だ。しかも、明日と明後日は全部一緒だし。


 ネットショッピングは……嫌だな。やっぱりちゃんと、自分の目で見て選びたい。買う店もまだ明確には決まっていないし、そうなるとある程度時間が必要になる。数時間サキにバレず、それも夜遅くの時間帯以外でコッソリ家を抜け出すことなんて出来るのだろうか。


(でも、やるしかないよな。サキへのプレゼントで妥協はしたくないし)


 二十歳になる誕生日。それは人生の中でも大きな思い出になるはずだ。そんな日のプレゼントに妥協なんて、俺自身が納得できない。ちゃんと目で選んで、一番な物を。サキに、サプライズでプレゼントしてあげたい。


(決行日は明日。今日のうちに、ある程度目星をつけておかないとな)


 そのために、とりあえずは家に帰ってサキとイチャイチャして。たっぷりと体力を回復させてもらうとしよう。




 今夜は、忙しくなる。

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