第59話 最終兵器、登場

59話 最終兵器、登場



 次の日。


「えへへ……かずとぉ」


 ついに、朝が来てしまった。


 トイレでこっそり調べようとか、サキが寝てから調べようとか色々考えたけどやっぱりダメで。結局、今俺はこうしてサキの体温を感じながら、ベッドの上で目覚めている。


 かろうじてたまたまサキよりも早く目が覚めたことによって今、こうして一人で今日のことを考える時間を得たわけだが。ハッキリ言って、万事休すである。


 とりあえず一人で外出する手段だけは、昨日のうちに得ることができた。大学に忘れ物をしてしまい取りにいかなければならないが、講義が無い日にサキを付き合わせるのは悪い。だから、少しの間家で待っててくれ、と。


 当然少しごねられはしたが、外は炎天下。いくらサキでも俺についてってすぐに帰るだけの用事で外に出るのは辛いものがあったらしく、大人しく家で待っていると言ってくれた。


 ただ、この言い訳で一人で活動できるのなんて、精々大学に通学する時にかかる往復の数十分の時間を含めて、一、二時間が限界だろうか。まだどこのお店を見に行くかも決まっていない状態でこれだけしか時間がないというのは、かなり絶望的である。


(さて、どうするかなぁ……)


 せめて俺にこういう類の物に関する知識があればまだ希望はあったのだろうが……生憎、疎いどころかお店によっては入ることすら尻込みしてしまう始末だ。大体サキ以外に彼女がいたこともないわけだし、俺自身も装飾品に関してはそれほど興味がない。自然とお店に入る機会が無くなるのは当然だろう。


 せめて、こういう時に頼れる人がいたらなぁ。ファッション系に詳しそうで、良いお店とかも知ってそうで……こう、オシャレって感じの人。


 いや、いるわけないよな。そんな都合のいい人。そもそも、俺にそういう女の子が喜ぶ物を知ってる人なん……て?


 ん、ちょっと待てよ? 頭を整理しよう。


 とりあえず、俺が探している人材の条件は


1 オシャレな人、オシャレに詳しそうな人

2 女の子が喜ぶ物を知っている人

3 俺の知人


 だ。この条件を満たしている人が……あっ、いる! これ、完全にあの人のことじゃないか!!


 連絡先を知っているわけではないし、会えるかどうかは運次第なところではあるが。それでも、初めて光明が見えた。限られた時間の中で、尋ねる方は十分にある!!


「ん、にゅぅ……」


「待ってろよ、サキ。絶対にお前の誕生日プレゼント、最高のを用意してやるからな」


 サキを起こさぬよう、小さな声でそう、語りかけて。幸せそうな笑顔を浮かべるその寝顔を見つめながら俺は決戦に備え、そっと目を閉じた。


◇◆◇◆


「じゃあ、行ってくるな」


「んー。アイスよろしくねんっ」


「まかセロリっ」


 ガチャン。扉を閉め、俺は真昼間の炎天下の中、外に出る。そしてすぐに、走り出した。


 目指すは、大学の近くのあのお店。俺とその人が出会い、初めて言葉を交わし。そして、初めての女友達となった、あの人がいる場所。


「ぐ、ぅっ……暑いッッ!」


 本日の気温は、三十三度。非体育会系が全力ダッシュをするには、あまりにも高すぎる。


 だが、寝言を言っている暇はない。俺は何度も勝手に止まろうとする足を数分間、フルスロットルで回し、店の目の前へと、辿り着いた。


「いらっしゃいませー……って、あれ? 和人君じゃん。どうしたの────ぉわっ!?」


「す、すみません優子さん、当然押しかけて! 今、時間ありますかッッ!!!」


「お、落ち着いて和人君、目が怖い! 今から私のことを取って食わんばかりの目をしているよ!?」


「じ、時間がないんです! 緊急事態なんですッ!!」


「分かった、分かったから! 今お客さんもほとんどいないし、話ちゃんと聞くからっ!! だから一回、落ち着いて!!」


 そう言うと優子さんはすぐにレジカウンターを出て、一瞬裏方に行って姿が見えなくなって。数秒で戻ってくると、その手にはペットボトルに満タンに入ったお茶が、握られていた。


「ほら、これ飲んで! まだ開けてないし、あげるから!」


「あ、ありがとう……ございまひゅっ」


 髪をオシャレに染めていて、そういうお店にも詳しそうで。女の子が喜ぶ物……その中でも、サキが喜ぶ物を知っていそうで。加えて、俺の知人。




 全ての条件を完璧に満たし、サキとの交友関係も深い優子さん。俺はそんな最終兵器である彼女に……全てを賭けることにした。

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