第55話 お寝ぼけサキさん
55話 お寝ぼけサキさん
暖かく、それでいて優しく。俺の身体を、白色の夏にしては少し分厚目な布団が包む。いや、違うな……俺たちを、か。
「えへへ、和人だぁ〜」
そう、俺は今サキと一つ布団の中。すぐ隣には、俺の腕を柔らかな二つの突起で包みながら微笑む、半分意識のない天使がいるのだ。
半分意識のない、というのは、たしかに目は開いているのだが、逆に言えばそれ以外全てが寝ている時のようということだ。呂律はふにゃふにゃだし、目だって開いていると言ってもトロトロだし……何より、めちゃくちゃ甘えてくる!
「和人っ、かずとぉ〜、かじゅとさぁ〜んっ。……あっ、こっち向いてくれたぁ。えへへへぇ〜」
「おいサキ、これは本当にダメだ。自分を抑えられる自信がない」
「むぅ? それって、私にドキドキしてくれてるって……ことぉ? ふふっ、お揃いだね♪」
「おそ、ろい……?」
「うん。ほらっ」
サキはそう言うと、胸で包んでいる右腕とは逆の、左手……その手首を掴み、そっと自分の胸元へと、当てた。
「っ!?」
むにゅ、もにゅんっ。
咄嗟に開いてしまった手のひらの中に、これまで触れたどの物体よりも柔らかいのではないかと思うほどの球体がフィットする。
いや、フィットではないな。それは大きすぎて、俺の手のひらでは掴みきれない。大きく広げて触っていてもなお、まだまだ根本までは程遠い。
「どぉ? とくん、とくんって……心臓の音、感じる?」
「へ!? え、えっと……」
言葉では言い表せられないほどの、吸い込まれてしまいそうな質感。それに意識を奪わせそうになりながらも、俺はそっと、手から感じる鼓動に感覚を研ぎ澄ませる。
トクン、トクン、トクン、トクン、トクン。
「聞こ、える。凄く早いな」
「うん。だって、世界一好きな人が目の前にいるんだもん」
一寸の羞恥すらなく、トロけてしまいそうな笑顔で。サキは小さくそう呟くと、俺の身体を両手で強く引き寄せた。
「和人のは……わぁ、すごいっ。今すぐにでも飛び出てきちゃいそうなくらい、早くて。力強い……」
「ば、ばかやめろ。恥ずかしい、からっ……」
「えぇ〜? もう,仕方ないなぁ」
俺の左胸に耳を当てていたサキは、一瞬俺から離れると、次はその顔を俺の眼前へと近づける。同時に、真っ直ぐに伸ばされていた脚は折り畳まれて……俺の腰回りへと、しっかりと巻き付いた。正面から、腕も同時に使って俺の身体に完全に絡みつく。
「和人まくら、完成ぃ。今日は朝までずっと、離れないんだもんっ」
「だ、だめだサキ! これは本当にっ、色々危ないから!!」
「色々ぉ……? あっ。和人またえっちなこと考えてるんだぁ」
「っ、し、仕方ないだろ! 俺だって男なん────」
「いい、よ。ちょっとだけだからね……」
ん? んんっ!? ちょ、サキさんなんで余計に身体を密着させるの!? あぅ、お、おおおお胸がポロりしかけてますわよ!?
「かじゅとぉ……」
ドクン、ドクンと加速するか細い心臓の音と、徐々に火照っていく身体。柔らかな突起の突起……ピンク色のアレが見えてしまいそうになりながら、サキは上目遣いで俺を待つ。
まるで、身体の全てを委ねたかのように。
「ん、はぁ……身体、熱いよぉ。心の奥から、和人への好きが溢れ出てきて……止まらないぃ……」
次第に互いの身体の熱は上がっていき、そのまま液体になってしまいそうなほどに濃く、甘い息が漏れていく。
「キス、しよぉ? エッチなの、いっぱい、いっぱいぃ……んっ」
「サキ……」
「ちゅ、ぅ……しゅき、らい、しゅきっ……かずとぉ……っ」
俺は吸い寄せられるように、サキと唇を重ねた。
舌を絡ませ、抱きしめあって。好きを貪り合うような、深い深いキス。身体を寄せ、頭に手を添えて。これ以上距離は近くならないのに、それでもまだ近づきたくて。息苦しくなっても離れたくなくて。一瞬唇が離れてもまた、次の瞬間には再び舌同士が繋がっていた。
「しゅきぃ……しゅきしゅきしゅきっ。かじゅとの舌、きもひいぃっ……」
とても、とても長いキスだった。体感ではほんの数十秒の出来事だったのに、実際には数分も。好きを確かめ合い、交換し合う……そんな幸せな時間を過ごし、やがて完全に唇が離れると、俺たちの間を粘着質な、細い糸が伝った。
だがその終了は、あまりにも不本意な形で迎えたのである。
「ん……すぅ。むにゅ、うぅ……」
「ったく、何が少しだったらエッチなことしても、だ。キスが終わってすぐ寝やがって……」
てっきり俺はもう、今日は行くところまで行ってしまうのではないかと思っていたのだが。なんとサキは、キスの中でどんどんと目が開かなくなっていって……そのまま、眠ってしまったのだ。
「はぁ。ほんと、幸せそうな顔だな。人の気も知らないでっ」
全く、このまま胸の一つでも揉みしだいてくれようか。男は獣なんだぞ? こんな無防備にしてたら、簡単に襲われちまうんだからな。
「……かじゅ、とぉぉ」
「うるせぇっ、このおっぱい怪人め」
すやすやと寝息をたて、子供のように純粋無垢な寝顔で俺の名前を呼ぶサキを見て出たのは、その言葉と大きなため息だけだった。
「……お休み」
そして暗い室内で俺は、せめてもの仕返しにと俺の胸元にサキの顔を埋めさせて。ゆっくりと、目を閉じたのだった。
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