第51話 ポテチ論争
51話 ポテチ論争
「じゃあ、いくぞ……!」
風呂から上がった俺たちは、扇風機とクーラーで身体を冷やして。ゆるゆるの部屋着を共に纏い、目の前の机の上に置かれた三つの袋の前で固唾を飲む。
赤、緑、オレンジ。常に圧倒的地位を保ち続けて来た三つの柱。この中から俺たちは、己が最善だと思うものを一つ、選択して示さなければならない。
「「せーのっ!!」」
そして、俺たちはタイミングを合わせると、互いにそれぞれ違う袋へと、指をさした。
「サキ、お前ぇ……!」
「和人ぉぉぉ!!」
俺たちが何をしているかって? それは、ズバリ……
「おま、のりしおとかふざけてんのか!? どう考えてもこんなの、うすしお一択だろうがっ!! 原点にして頂点だるぉ!?」
「ばか! 和人ってほんとにばかだよ!! その頂点である味にのりが加わったのりしおが負けるわけないでしょ!?」
「「ぐぬぬぬぬぬ!!!」」
そう、ポテチ論争である。
時間帯は二十三時。一人一袋もポテチを貪っていていい時間ではないため、俺たちはこの間俺の親から送られてきた食材、缶詰、お菓子などのよりあわせの中にあった三種類のポテチ『うすしお、のりしお、コンソメ』のうち、どれを食べるかを決めている最中だったのだ。
サキはそれほど味付けを濃くするようなタイプでもないし、コンソメを選ばないことは薄らと分かっていた。だがまさか、のりしおを選ぶとは……!
ちなみに俺は、根っからのうすしお派だ。濃すぎず、薄すぎず、無駄な要素が何ひとつない、シンプルでいて完成系。そんなうすしお味を、他の味が増え続けるこのご時世でも愛し続けて来たのだ。他の味を否定するわけではないが、決して隣で肩を並べられる味など存在していない!!
「うすしおなんて、あんな何の変哲もない味じゃ飽きちゃうもん! でもそこにのりが加わることで、一気に風味が変わって飽きのこない素晴らしいものへと変化するんだよっ!!」
「何の変哲もないだとぉ!? むしろそこが長所だろうが!! 味変なんてせずとも、ポテチが好きなら食べ続けることは可能なはずだこのいやしんぼ!!」
「いやしんぼなんかじゃないもん!! そこまで言うならどっちの味にするか、正々堂々勝負しようよ!!」
「望むところだ! 悪しきのりしお派など俺がうすしお派を代表して直々に成敗してくれるわッッ!!」
ピリピリとした空気が俺たちの間に走り、サキは不満そうに頬を膨らませながら身体を揺らして。その口から、勝負方法の提案を始める。
「なら、ゲームで勝負だよ! アリハンで私の華麗なハンマー捌きを見せてあげる!!」
アリハン。正式名称をアリゲーターハンター。マップ上に現れる巨大ワニをハンマーや太刀、双剣や大剣などを駆使して倒す、大人気ゲームだ。俺はまだプレイしたことが無いが、そこがサキの狙いか。
「小癪な……俺がやったことのないゲームに対してお前だけは経験済みの状態で勝負するということか? これだからのりしお派は!」
「違うもん! 私だってこの間買ったばかりで、まだシュリンクすら開けてないもんっ!! でもうすしお派なんて、私がハンマーを振り回せばちょちょいのちょいで負かせちゃうんだから!!!」
ふむ。どうやらサキの言葉を信じるなら、薄らと知識だけはある、といったところか。だがそこに関しては俺もたまに実況動画などを見ているので大して差はつかないはず。自分にどの武器が合っているのかすら分かってはいないが、サキだってただハンマーを使いたいというだけだろう。
ならばこの勝負、完全に対等な状態からのスタート。そうであるならば、逃げる事は許されない。
全ては、うすしお派のために。ここでのりしお派を打ち倒す事で我が存在を示し、ここに完璧な勝利を捧げるとしよう。
「……いいだろう! その勝負、受けて立つ!!」
「ふふんっ、汝愚かにも私に歯向かおうとする挑戦者よ! その覚悟があるならば、私の部屋からアリハンを取ってきなさい! あとついでに、冷蔵庫から炭酸飲料を持ってくるのです……っ!!」
「はっ! 首を洗って待ってやがれ!!」
なんかサラッと炭酸飲料を取ってくるなんて課題が追加されてしまったが、そんなことはどうでもいい! さっさとサキの部屋に行って、アリハンを掻っ攫ってくるとしようか!!
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