第52話 むっつりスケベの隠しごと1
52話 むっつりスケベの隠しごと1
「ったく、サキのやつにうすしおの良さを叩き込んでやらないとな……」
リビングにサキを残し、俺は足早にサキの部屋へと向かう。
元々、この夜にこうやって共に夜更かしをすることになったのは、サキが怖くて眠れないから。あまり長い間リビングに一人放置しておくわけにもいかないし、手っ取り早く戻らないと。
「おじゃましま〜すっ」
ガチャリ。「サキの部屋」と書かれた札の掛かっている扉を開けて、俺は早速中に入る。
以前引っ越しで荷物の運搬を手伝った時と拗ねたサキを連れ戻しに行った時に入ったとこはあったが、よく考えてみれば一人でってのは初めてだな。
「えっと? アリハンアリハン……」
サキの部屋は相変わらず子綺麗で、ベッド、本棚、タンス、パソコンの置かれている作業台と、その全てがきちんと掃除されている。
その中でSmitchのソフトは本棚に他の本と分けられてソフトのケースと一緒にまとめて並べられており、その中に一つだけシュリンクがまだ外されていない、アリゲーターハンターの文字があった。
「お、あったあった。……って、ん?」
俺はすぐにそれを手に取ろうとその場でしゃがむと、ふと、違和感に駆られた。
違和感があったのは、本棚の下。どうやらこの本棚は直接床の上に置かれているのではなく、その下に四箇所、元々付属していたのであろうプラスチックのプラスチックのパーツ?のようなものがついている。
恐らくは、少し本棚を浮かせることによって床が湿気るのを防止するためのものだろう。まあそれはどうでもいいのだが、問題はその浮いているスペースにある、薄い箱だ。
「なんだ、これ?」
あまり人の部屋をこうして物色するようなことをするのは良くないと思いつつも、一度気になってしまっては開けないわけにはいかない、と。俺はその薄い箱をゆっくりと本棚の下から抜き出した。
箱には特に文字や模様などはなく、白色の何の変哲もない簡素なもの。クリアファイルや学校のちょっとしたプリントなんかを入れていそうな感じの箱だった。
「お、開いた」
箱の側面の開け口から手を入れ、そっと中身を取り出す。すると、それは────
「っ!? こ、これは……っ!!」
出て来たのは、数冊の薄い本。それは俺が長らくお世話になった相棒たち。サキに見つかって没収され、捨てると宣告されていた、秘蔵コレクションであった。
「何でお前らがここに!? 捨てられて、なかったのか……!?」
予期していなかった、あまりに感動的な再会。俺は感激のあまり、コレクションたちをひしりと抱きしめた。
だが、それにしても……だ。どうしてサキは、コイツらを捨てずにいたのだろう。流石にそれは可哀想だ、とか思ってくれたのか?
こうやって隠されていたら実質的にあまり大差は無いかもしれないが、捨てられるよりはよっぽどいい。いつかは返ってくるかもしれないという希望すら湧いてくる。
「よし、お前らはいずれ必ず俺が救い出して見せるからな。もう少しだけ、ここで眠っててくれ」
俺は一人でにそう呟くと、リビングで待っているはずのサキのために、そっとコレクションを箱に戻し────
「もぉ、和人何してるの? 早く戻ってき……ちょっ、それっ!?」
「サキ!? ち、違うんだ! これは、そのっ!!」
その瞬間。魔の悪いことに、中々戻ってこない俺を連れ戻すためか、サキが部屋に入ってきてしまった。
咄嗟のことだったため、俺は箱を隠すことができず。もろに箱を手で持っているところを見られたうえ、まだ箱を閉じれてすらいなかったために中身を見たことまでバレてしまったのだ。
「サキ、本当に違うんだ! これはなんというか……たまたま目に入って気になって────」
「違うからっ! それはなんていうか、たまたまそこに入れてただけなのっ!! そろそろくたびれてきてたし、捨ててあげようとして、あ、ぁっ!?」
や、やっぱり捨てられるのか!? くそぅ、せっかく再会できたというのに、すまない。俺がドジを踏んだせいで……!
「ほ、ほら早く貸してっ! それは私が預かって後々処分しておくからっ!!」
「や、やめてくれ頼む! 俺にはやっぱりコイツらが必要なんだァァァ!!!」
後ろから押しかけてきたサキと、必死に抵抗しようとする俺の中で箱は奪い合いとなり、やがて両手同士で箱の両端を持ちながら、すぐに引っ張り合いへと発展した。
サキに力で負けるはずがない、と思っていたのだが、コイツ中々に力が強い。これが火事場の馬鹿力というやつか? にしてもなんでここまでして、俺のコレクションたちを闇に葬ろうとするんだよぉ!!
「和人っ、本当にダメだから! これは捨てなきゃいけないやつだからっ!!」
「や〜め〜ろ〜ォォォ〜〜!!」
と、その時。簡素な箱に限界が来てしまったのか、厚紙のような素材でできたそれは俺たちが引っ張りあったことによって真ん中から一気に引き裂かれて……中身が全て、床へと散らばった。
「オイ、俺のコレクションがっ……ぁ? あれ、なんだこれ?」
「だ、ダメぇっ!!」
パシッ。その箱から出てきた本とは別の、小さな黒い生地の布?のようなものを俺が手に取ろうとした瞬間。サキが目の前に飛び込んできて、それを全力で奪った。
てっきり箱の中身は本だけだと思っていたが。どうやら、他のものも入っていたらしい。で、さっきの黒い布は一体なんだ……?
「ほ、ほほほ本当に違うの! べ、別にその、使ったりとか、してないから……っ!! たまたま箱の中に紛れ込んでただけの、ただのゴミだからッッ!!!」
「え? なんかゴミっていう割には、俺のコレクションそっちのけで突っ込んできたけど……。それ、なんなんだ?」
「うぅ、ううぅっっっ!! これはダメなのぉっっ!!!!」
必死に胸元にゴミと呼称したそれを隠してその場にうずくまりながら、サキは猫のように俺を威嚇して俺から距離を取る。
サキが言っていた、処分しておくという言葉。あれはてっきり本に使われた言葉だと思っていたが、もしかして今サキが大事そうに抱えているゴミとやらに使われたものだったのだろうか。
それに加えて、「使ったりしてないから!」という、これまでの必死の言葉からポロりとはみ出てきた謎のフレーズ。あの布切れは、何かに使うものなのか?
使う……使う……? サキはあの箱に俺のエロ本と一緒にその布切れを入れていた。つまり、エロ本と同時に使う、もの……? おや、なんだかえっちぃ波動をビンビン感じるぞ?
「サキもしかして……俺のエロ本、隠れて一人で読んでたのか?」
「なっ!? そ、そんなことするわけないでしょ!? 変態! バカッッ!!!」
「じゃあさっき言ってた『使う』ってなんのことなんだよ? その布も、それに関連してるものなんじゃないのか……?」
「違う、もんっ! 本当に、なんでもないからっ!!」
「なら見せてくれよ、その布。何もやましいことがないなら見せれるよな?」
「や、やめて! お願いなんでもするからっ!! これだけはやめてッッ!!」
ふむ、中々抵抗しおるな。ならばあの″奥の手″を使って、多少強引にでもあの布切れの正体を掴むとしようか……!
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