SF小噺衛星ハッキン(グ)

『えー、これが我がラボの開発したAI、人工知能であります』

 その日、あらゆる報道機関が色めいた。なんと人間と同等の持ったコンピューターを二〇二〇年台に完成せしめたという研究者が手を上げたのだ。

 とある識者は、地球の終わりが来るまでスパコンで並列処理を繰り返してもそんなものは誕生しないといい、夢見る科学者は頑なかたくなに研究を続けた。

 記者会見の会場には、大手からフリーランスまで記者と名乗る有象無象が集結してカメラを構え、ICレコーダを起動して会見を待った。

 ……その第一声が冒頭なわけだ。しかし、何かおかしい。絶対に変だ。 

『まだ、説明の途中ですが? 何でしょうか、そこの方』

 おそるおそる手を上げていた中年男性が指名された。

「えっと、技術系雑誌に寄稿しているフリーランスです。キーボードとモニターが一体型でデバイスがカセットテープ? やく四〇年前にお年玉となけなしの貯金で買った初めてのマイコンに酷似していて……わ、私にとって人工知能が搭載されていると説明のあったその筐体は、非常に懐かしく思えるのですが……」

 記者の言葉をダンと机を叩いてさえぎる。

『筐体なんて飾りですよ! 無知蒙昧むちもうまいなな愚民ですか!』

 そう断ずると電源ボタンをポチッと押した。

 静かな排気音と共に黒いモニターに緑色の文字がザーッと流れていく。

 NHKの放送博物館で見た「イ」の字を映す最初のテレビくらいにダメな感じしかしない。やがてモニターには十六色でと表示された。

『この未来に先駆けたコンピューターは音声による会話が可能です。私が説明するよりも記者の方々がご質問されてはいかがでしょうか』

 一斉に多くの手が挙がる。順に指名していくはずが……

 一人目の記者は、ポカンとし二人目は途中で絶句した。三人目を指名したときに耐えかねた会場の記者、全員が怒鳴った。

「下手な腹話術じゃねーかッ」

 科学的ホラ話とは、こんなものである。

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