SF小噺迎撃衛星

「なんだよ?」

 いきなりの来訪に不機嫌な声を出したのは華奢な青年だった。

「いやぁ、SF研が3Dプリンターを購入したと聞いてな」

 ズカズカと入り込んできた汗かきの小太りは漫研の部長だ。

 空調といえば2台の扇風機頼りのSF研の部室、そこへ不似合いに馬鹿でかい3DプリンターがPCぱそこんに接続され鎮座ましましている。

「相変わらず古風なOS使ってんのな」

「うるさい。パソコンのOSに賑やかなグラフィックはいらん」

 WindowsだMacな世の中だが、アップデートのたんびに予算を組まなければならないのなら敢えてのフリーソフトという選択は一九九〇年頃からSF研に代々受け継がれている伝統だ。

 機械の部品は、部費であったり、OBの寄付で最新スペックとはいかないまでも十分に使えていた。

「んで? タコみたいな火星人の人形でも作って売るのか?」

「そんな案もあるんだが、答えは窓際にある」

 二人の会話は、アシモフのSF小説にでてくる宇宙人に由来する。

 そして窓際にはパラボラアンテナが設置されていた。よくみれば複数の配線がPCへとのびていた。

「どこが答えになるのかわからん」

「ハハハ。まぁ、これだけじゃ無理か……一九七〇年代の後半にNASAがボイジャー計画ってのをはじめてサ」

 要するに探査船に太陽系を調べさせてそのまんま外宇宙へ放り出すのだが、それだけじゃもったいないので一枚のレコードに地球の音を録音してソイツをその探査船につみましたというお話。宇宙人が拾って解析してくれたらいいな……という夢のあるエピソードだ。

「ほう。しかし、それとこのアンテナに何の関係があるんだ?」

「いやぁ、宇宙人がいるなら似たようなことを考えて電波でもって自分たちの姿を送信しているかもしれないだろ?」

 どうやらドナルド・モフィットの小説にかぶれているらしい。

「まぁ最悪、火星人の人形でも作って売るさ」

 漫画家の矢野健太郎が好きなのか? SF研の青年はてれたように付け足した。

 一方、難しい顔をして聞いていた漫研の部長が重い口を開いた。

「それ、似たような話を知っているぞ? なんだっけ……そうだ!」

「……なんだよ」

「物質転送機の実験中にハエの情報が混ざって……」

「それ物語的にも『混ぜるなキケン』のやつだよ!」

 どうやら漫研の部長が言い出したのは、ハエ男の恐怖という映画で元はジョルジュ・ランジュランの作品らしい……。

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