第六ステージ(そのニ)
両手を挙げたのは赤いウェアの選手だった。アラハは惜しくも二位。ほぼ同時に集団がゴールを駆け抜け、アラハの横を追い越していった。
ゴールした先で赤いウェアの選手がスタッフと抱き合って喜びを分かち合っている。
アラハはそれを横目に通り過ぎるとダイチとメカニックがいた。
アラハは悔しさを露わにした。
「くっそ〜! 勝てなかった」
身体を小刻みに振るわせながら、興奮がおさまらない。
ダイチはアラハの背中をポンポンと叩いた。
「惜しかった。もう少しだ。よく走ったぞ」
ゴールしたチームメイトもやってきて健闘を讃えたが、アラハはうなだれたままだ。
少しして、ゴールしたソラがやってきた。アラハはソラに顔を向ける事が出来ない。
ソラがアラハの背中をポンポンと叩きながら言った。
「オレがもう少し引けたら勝てたかもしれないし、お前がもう少し強かったら勝てただろうな。オレもお前もあと少しだ。頑張らなきゃな」
ソラがダイチとメカニックとチーム員にお礼の言葉を言って、その場を立ち去ろうとした時だった。
「ありがとうございました」
ソラの背中にアラハのしっかりとした声が響いた。ソラは振り向いて片手をあげるとそのまま立ち去った。ソラの背中は笑っているように見えた。
アラハはダイチとメカニックとチーム員にも「ありがとうございました」と言って頭を下げた。
素直に感謝の言葉が出たのは初めてだった。自然にそんな言葉を言えた事が嬉しかった。
いつの間にか雨は止んでいた。
「敢闘賞だーーー!」
解説者の桃山がテレビの中で叫んでいる。
「凄い! やっぱりソラは凄い!
アラハも凄かった! いや〜。本当に惜しかったけど、本当に凄かった!」
日本中の人達がテレビに釘付けになっていたに違いない。
ソラは壇上に上がって敢闘賞の表彰を受けた。赤い花の花束と赤ゼッケンの盾を貰い、それを高々と上げてゆっくりと口を動かした。
「あ、り、が、と、う」と。
「え? この後、ソラ選手の声が聞けるかもしれません。現地の道さんが話を聞けそうだという情報を入れてくれました。少しお待ち下さい」
日本中の人達がワクワクしているに違いない。
少しして、ソラの顔がテレビに映し出された。
「こんばんは〜」と笑顔でソラがテレビ画面越しに手を振った。
桃山の声が裏返った。
「ソラ〜! 敢闘賞おめでとうございます! 素晴らしい走りをありがとう」
興奮した桃山の声とは対照的に、ソラは落ち着いて答えた。
「あと少しだったので、凄く悔しいです。今日はアラハのステージ優勝を最初から狙ってました。勝つ為には、オレもアラハも少し力が足りなかった。でも全力を尽くしました。
敢闘賞はおまけのような物だけど。でも、大きな怪我してみんなに凄く心配かけちゃったけど、オレは元気に頑張ってるよっていう
そう言って、赤ゼッケンの盾をテレビ画面に向かって振った。
「今日はアラハじゃなくて、オレが壇上に立ったけど、アラハで狙えたからこそ獲れた賞だし、チームで獲った敢闘賞です」
桃山が口を挟む。
「ソラ選手にとっては、二回目の敢闘賞ですよね。初めてツールに出場したあの年の走りも衝撃的でした」
ソラが笑った。
「あの時は‥‥‥。あの時はチームカーの中で受賞を聞いたんだけど、転んだ怪我が痛くって、ボロボロになった姿も見せたくなくって、ダイチさんにこの盾を受け取ってもらったんだったな〜。それに、オレの出場はこの日迄ってチームで決められてたから、赤ゼッケンを付けて次のレースを走る事が出来なかった。
明日はこの赤ゼッケンを付けて走れるから嬉しいな。今年も身体の事を考えて、オレは明日までしか走れないけど、明日も精一杯頑張ります。明日は山が厳しいから、スペイン人のペペが上位でゴール出来るように、出来る所までアシストします。
引き続き、ミヤビズーランドの応援よろしくお願いしま〜す」
ソラが手を振ると、目を輝かせてテレビを観ていたタケルは、不自由な手を少しだけ上げて小さく振った。
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