第六ステージ(その一)

 今日は逃げ切りが決まるチャンスかもしれない。

 明後日は一回目の休息日だが、明日はきつい山岳コースが待ち受けている。総合を狙う選手達は今日はあまり動きたくないだろう。

 今日のコースは三級と四級の山を含む小さな丘を何度も越えていくコースで、朝から雨が降り続いている。

 ステージ優勝を狙って前半から逃げたい選手が何人もいるはずだ。


 予想通り、スタートから三十分程たった所で総合に絡む事がなさそうな十名の逃げが容認された。

 ミヤビズーランドはそこに狙い通りアラハとソラを送り込む事に成功した。今年はアラハがエースナンバーを付けている。

 冷たい雨が降り続けていて、既に選手達のウェアはビショビショになり、ヘルメットからは雨水が滴り落ちている。十名はまるで皆同じチームであるかように協調して逃げ続けている。普段は黒いレンズを着用している選手が多いが、今日はクリアーを使用している選手が多く、顔が分かりやすい。


 残り二十キロ、タイム差は二分。

 逃げ集団は六人になった。アラハとソラは好調だ。

 ここからもアップダウンが少し続き、最後に三級山岳を越えて下りきってから少しテクニカルな平坦路を三キロ走ってゴールだ。


 ロードレースで最初から逃げたグループが逃げ切る可能性は極めて低い。メイン集団の中にもステージ優勝を狙っている選手は当然何人もいるわけで、逃げとのタイム差を測りながら、利害が一致する他のチームとも協力しながら差を詰め、ゴールを狙っている。

 しかし、この日はメイン集団で何度か落車も起こり、集団はナーバスになって、思うように差が詰まっていかなかった。


 現在逃げているのはミヤビの二人と、同じく二人いるのが赤いウェアのチーム、単独が二人の六名。

 冷たい雨の中、ここまで逃げ続けてきた選手達に疲労の色が見え始め、前を引けない選手も出てきた。このままでは後ろの集団に捕まってしまう。ソラと赤いウェアのアシスト選手は捨て身でガンガン引き始めた。まだ逃げ切りの可能性は消えていない。


 最後の三級山岳に入ると先頭集団から、赤いウェアのアシスト選手が早々に遅れ、中腹で赤いウェアのエースがアタックした。そこに一人が付いていき、ソラとアラハともう一人の選手との間隔が少し開いた。ソラが懸命に追い、山頂はトップと十五秒差で三人で越えた。三人からプロトンまでは四十秒。

 下りもその後の平坦路もテクニカルなので集団にとってあまり有利ではない。逃げ切りの可能性が高まってきている。


 ソラが懸命に引き続ける。アラハが先頭を変わろうとすると出るなと合図された。

「追い付けるから、ためておけ」

 ソラは無理しているように見えないが充分に速い。コーナリングはスムーズでアラハは信頼して付いていく事が出来ている。所々で先頭を走る二人の背中が見える。

 下り切って平坦になってもテクニカルなコーナーが何度も現れる。

 路面はとても滑りやすく、凄い集中が必要だ。

 ゴールまでラスト二キロの所で前の二人が目前に迫り、そこでソラは横にズレて仕事を終えた。

 アラハは追い付いた勢いをそのまま使ってアタックした。

 後ろとの差が少し開いたが、先に逃げていた二人がその差を徐々に縮めてきた。もう一人は完全に離れたが、アラハはそこで一旦スピードを緩めた。


 フラムリュージュ、残り一キロのアーチを通過する。ここからゴールまでは一直線。

 後ろを見ると集団が凄い勢いで迫ってきている。このまま牽制していては集団に飲み込まれてしまう。

 アラハが腰を上げ、流し気味に先行。二人の様子を見ながら、ほぼ同時に三人が横並びでスプリントを開始した。

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