三年ぶりのツール

チームプレゼンテーション

 TOJから一ヶ月が経った。


 フランスの西の端、ブルターニュ地方が今年のツールのスタート地点だ。七月なのに気温は十五度に届いておらず、雲が分厚く垂れ込めている。寒空の元、木曜日の夕方からチームプレゼンテーションが行われていた。

 古くから多くの偉大な選手達を生み出しているこの地方では、生活にロードレースが根付いていて、この期間は小さな子供からお年寄りまで、話のネタはツールの事ばかり。

 会場全体が黄色い旗や小物で着飾られている。

 次々と今年の出場チームが紹介され、大きな拍手と歓声に会場は包まれていた。


「ミヤビズーランド」の出番だ。自転車に乗ってきた八人の選手が舞台に上がった。

 単調だった紺と白基調だったチームジャージが、このツールから様変わりした。チーム結成当時は急いでジャージを作ったので単調な物になってしまったが、TOJの時に日本のデザイナーさんから良い話を頂き、早急に作って頂いた。


 日本の伝統、藍染あいぞめの雰囲気を持った色がベースになっている。濃い藍色、空色に近い薄い藍色、白をパッチワーク状にデザインし、筆で書いたような文字で、胸と背中には三段に「MIYABI」「雅」「ZOOLAND」と入れてある。「雅」は墨色。他の文字は藍色の補色であるオレンジっぽい色だ。サブスポンサーである動物園ズーランドのマークであるライオンの足跡が同じオレンジっぽい色で所々に入れてあり、ポイントになっている。ポケットからライオンの尻尾が出ているのが可愛らしい。

 パンツは濃い藍色一色だが、裾のにポイントのオレンジのストライプが入っているのがお洒落だ。

 日本的な美しさと、女性や子供が好きそうな可愛らしさ、スポーティーな格好良さを兼ね備えたウェアになった。

 一見地味そうだが、ヘルメットも濃い藍色とそのオレンジっぽい色とが組み合わされており、集団の中ではそのオレンジ色が結構目立つ。


 八名の選手が並ぶととても華やかだ。

 ソラとアラハを含む日本人が四名。スペイン人二名とフランス人二名という構成だ。


 MCがソラにマイクを向けた。

「三年ぶりのツール。大怪我からの復活だね。お帰りなさい。ファンの皆さんに一言どうぞ」

 ソラがマイクを握って流暢な英語で答える。

「まだまだなんだ。今回は一週間しか走らせてもらえない。十九歳の時に初めてツールを走ったときと同じだね。だからまだ本当にツールに戻ってきたとは言えないけど、ここまで来る事が出来たのは、走れない時もずっと応援してくれていた人達のおかげです。本当にありがとう!」

 拍手が起こり、MCが続けた。

「今年のチーム戦略は?」

「総合を狙える選手はいないけど、チームで幾つかのステージを狙っていく。最低でも一勝はする。オレは全力でアシストするよ」


 華々しいステージだ。大勢の観客の前で、舞台に立って、ここはやっぱり格別な場所だと感じる。世界中の人々がテレビを通して自分の姿を見てくれている。


 三年ぶりか。もっと長い期間に思える。懐かしい人達が「よく戻ってきたな」と、わざわざ声を掛けにやってきてくれた。

 シアンエルーの時のチームメイト、エースのプティは今年は不調でアシストに回るらしい。ソラが初めてツールに出場した年の話に華が咲いた。ソラが転んでボロボロになって戻ってきて、プティの為に根性のアシストをした時の話だ。ソラのように献身的にアシストするのは難しそうだと言って笑っていた。

 ライバルのレオナードも今年はエースではない。昨年チームに加入した二十一歳の選手がエースを務めるらしい。若い選手達の台頭が著るしくて、モチベーションを保つのが難しい時もあったけど、ソラのフェイスブックページを見て、復活に向けて必死に頑張ってるソラに負けてられないって気持ちで頑張ってきたんだ、と言ってくれた。


 ソラが出場出来なかった三年の間に新たな若い勢力が加わり、常にチーム内でも厳しい戦いが行われている。安住出来る選手なんて一人もいない。

 そんな世界にまた戻ってきた。今、自分に出来る精一杯を尽くそうと、ソラは気持ちを引き締めた。

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