感謝

「ごめんな。待たせちゃって」

 ソラがタケルの所にやってきてバイクを止めた。

「ぜんぜん。ソラ、凄くカッコよかった!」

 ソラはバイクを跨いだまま、両足を地面に着き、ハンドルに肘を乗せて前屈みになってタケルと話し出した。

「毎周回、タケルの応援が聞こえて、凄く頑張れたよ。アラハは一秒総合一位に届かなかったんだ。悔しいけど、オレ最高に楽しかった」

 タケルは嬉しそうだ。

「ソラは凄いよ。僕の中では一番だ。ダイチさんもアラハもカッコよかった」


「ところでタケル、その車椅子どうしちゃったんだ?」

 ソラはタケルが電動車椅子に乗っている事がずっと気になっていた。

「あ、これね」

 タケルがちょっと悲しそうな顔を見せた。

「僕ね、怪我した背骨の所にちょっと空洞が出来ちゃって。前よりも腕が動かなくなっちゃったんだ。だから‥‥‥。

 あ、でも大丈夫だよ。学校もちゃんと行ってる。みんなが助けてくれるし」

 ソラは言葉に詰まった。

「そっか。あんなに頑張って、随分動かせるようになったのに、辛いな。何で教えてくれなかったんだよ」

 タケルは「え?」と言った。

「だって、ソラに言ったって仕方ないでしょ。ソラを悲しませたくなかったし」

 ソラは首を振った。

「仕方ないけどさ。オレは何もしてあげられないけど、悲しい事でも教えてくれなきゃダメだ。オレ達、友達だろ?」

 タケルは頷いた。

「うん。ありがとう。ソラ、早く着替えないと風邪ひいちゃうよ。明日は観に行けないけど、頑張ってね。いつも応援してるから」

 ソラは涙を必死に堪えていた。

「ああ。ありがとう。明日も、この先も頑張るよ。タケルもだぞ。また連絡するから」

 そう言って、バイクに跨ると手を振って去っていった。



 翌日の最終ステージ、ミヤビズーランドは果敢に攻めたが、ジャンのチームはしっかりとレースをコントロールし、総合順位が変わる事はなかった。

 ダイチはこのレースを最後に二度目の現役引退をした。

 ソラはこの八日間で、レースに耐えうる身体と、チームの為に走れるという自信を取り戻した。

 予想以上に大きな負荷を掛ける事が出来たので、休養時間を多く要したが、休養明けには一段と頼もしさを増した。



 ダイチさん、ありがとう。

 あの時、ダイチさんが夢を実現させるチャンスをくれたから、オレはここまで来る事が出来ました。

 ダイチさんがレースをメイクして、一緒になって頑張って、夢の実現まであと少しだった。

 最後の周でアラハが合流し、ダイチさんの優勝よりも、チームにとってもっと重要な事に目的は変わった。目的は変わったけれど、やりたい事に変わりはなかった。

 ダイチさんとオレにアラハが加わり、三人で全力で戦った。

 夢に描いていた優勝のゴールを切るダイチさんよりも、実際のレースで、アラハで総合を狙いにいったダイチさんの姿は夢以上に眩しく輝いていた。

 ラストチャンスにダイチさんと一緒に全力で戦えた事、一生の宝物だ。

 ここは決してゴールじゃない。ここまで導いてくれたダイチさんに感謝して、ここからまた、オレ自身の本当の挑戦を始めよう。

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