ゴール

 アラハはゴールまでもがき続け、手も上げずにハンドルを投げてゴールした。


アラハの勝利に会場は沸き返っていた。アラハはゴールするとペダルを軽く回しながら懸命に息を整え、片方のペダルから足を外すと後ろを振り向いた。

 アラハのゴール後、それ程時間を置かずにグリーンジャージがゴールしたように見えた。アラハは肩を落とした。

 ミヤビズーランドの深井監督がアラハに駆け寄ってきた。

「アラハ! お疲れ! 微妙なタイム差だ」

 と言ってきた。


 ダイチがゴール地点にゆっくりと現れると、会場は拍手の渦に包まれ、ダイチは左手を振って観客に応えながらゴールした。そのままアラハと深井の所まで来てバイクを止めた。

「ダイチ! お疲れ! 微妙なタイム差だ」

 深井が同じ事をダイチに言った。

 ダイチがアラハに歩み寄り、両手を背中に回してポンポンと叩いた。アラハは一言「ダイチさん」と言って、ひたいをダイチの肩に落とした。


 しばらくすると、会場にまた大きな拍手が沸き起こった。

 ソラはダイチのゴールを見てたかのように、同じようにゆっくりと左手を振りながらゴールラインを越えた。

 ゴールの先に車椅子に乗ったタケルがいるのが目に入り、ソラはまずそこで自転車を止めた。

「応援ありがとう。凄く力になったよ。ちょっとここで待ってられる?」

 タケルは目を輝かせて「勿論!」と言った。汗と埃にまみれた顔が最高にカッコいいと思った。


 ソラはそのままミヤビズーランドが集まっている所に向かった。その周りを報道陣が取り囲んでいる。ずっとソラのゴールを気にしていたダイチが、ソラに向かって手を上げた。

「どうだった?」とソラがまず口を開いた。

 ダイチがソラの背中に手を回してポンポンと叩いた。

「よくやった。いい走りだった。ありがとう。タイム差は微妙だ。今、深井さんが確認に行ってる」

 ソラもダイチの背中に手を回し、ポンポンと背中を叩いた。ダイチの胸に自分の胸を合わせ、このまま時が止まってほしいと思った。


 アラハの方に目を向けると、俯いたまま立っている。

「アラハ、ステージ獲ったんだろ。もっと喜べよ」

 ソラがアラハに声を掛けると、小さな声で「でも」と言った。

 そこに深井が駆け足で戻ってきた。

「一秒足りなかった。残念だがいいレースだった」


 アラハは「くそっ」と言ってこうべを垂れた。ダイチは空を仰ぎ、ソラは頭を両手で叩きながら「くそ〜! 一秒か」と言った。

 アラハが頭を起こした。

「ごめん‥‥‥、なさい。オレが余計な事やったばっかりに‥‥‥。ダイチさんの優勝を消して、総合もダメだった」

 消え入りそうな声だった。


 ソラがケロっとした顔をしながらアラハの頭をポンポンと叩いた。

「届かなかったのは悔しいけど。ダイチさんを優勝させるっていう夢は実現出来なかったけど。そんな夢よりも現実は楽しかった。

 今日のダイチさんは最高にカッコよかった。オレもアラハも全力を尽くした。最高の結果じゃないけど、最高じゃないか」


 ミヤビズーランドに笑顔が戻った。

「明日もまだある。車に戻ろう」

 深井に促されて、皆が車に向かった。

「タケルが来てるんです。オレ、ちょっと会ってからすぐに戻ります」

 ソラはそう言ってタケルがいる場所に向かった。

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