来シーズンの目標
シーズンが終わり、チームとしての来年度の計画を立てるミーティングの中で、ダイチが思わぬ事を言ってきた。
来年、日本で開催される「TOJ(ツアーオブジャパン)(※)」を最後にレースを走る事はお終いにしたいと。
今年、レースを走りながら教えてきた事、もう少し教えたい事もあるが、自分が力をキープするには今以上にトレーニングに費やす時間を作る必要があるし、その時間を考えると、チームの為にやるべき事が出来なくなってしまうというのだ。
もう少し教えたいという事を考えると、五月のTOJが最適だと考えたらしい。
ソラはそれが意味する事を感じとっていた。
この後、スタッフと選手個別に話をするからと、一人一人に時間を指定された。
深井監督、ダイチ、真崎を含むマッサーニ名、メカニック二名と選手一名が来年度のお互いの希望や目標などを確認する。
ソラが指定された時間迄、一時間あった。その間、ダイチが言った事を踏まえ、自分の気持ちをきっちりと整理した。
来年度、目標にしたい事を聞かれた。
「三月の開幕からのレース復帰を目指します。僕はダイチさんと同じレースを走った事が無い。ダイチさんがレースを降りてしまうまで、同じレースを走って色々学びたいです。来年はアシストとしてチームに貢献します。それと、一番の目標は‥‥‥」
そう言ってダイチの顔を見ると、ダイチは大きく頷いた。
「もしも、ダイチさんがTOJでレースをお終いにするのなら、そこが最初で最後のチャンスになるのかな? って思ってます。
僕がダイチさんをアシストしてダイチさんを優勝させる。それがやりたくて僕は自転車レースを始めました。
その夢を叶える前にダイチさんは引退しちゃったけれど、僕が怪我をして、ダイチさんはもう一度チャンスをくれた。
TOJはミヤビにとって日本で走れる大切なレースです。ダイチさんと僕が選ばれるように頑張ります。総合とか、チームにとって最も重要な事を優先させるのは承知の上です。もしもチャンスが巡ってきたら、そこで僕は自分の夢を実現させたい。
その為に、今から自分の出来る事を精一杯やっていきます」
ダイチが自らを走れるようにし、レースに復帰した事、そしてTOJを最後にすると決めたのは、全てオレの為だという事がソラには分かっていた。
もしオレが来シーズン、レース復帰出来なかったとしたら、再来年もその次も無理だろうってダイチさんは考えたんだと思う。オレもそう思っている。ダイチさんは、いつもオレをよく見ていて、ギリギリ出来るか出来ないかの所を示してくれる。
その期待を裏切りたくない。設定してくれた物に負けたくない。
ずっと応援してくれている日本のファンのみんなの前で、タケルの目の前で、オレは抱いてきた一つの大きな夢を実現したい。
ダイチにとっては嬉しい誤算だった。ソラに希望を持たせる為に言った言葉に嘘はなかった。それでももっともっと小さなレースを考えていた。日本のアマチュア選手が走る草レースでも何でもいいと思ってた。それが、ソラはプロのレースをきちんと走れそうな所まで持ってきた。それを見ながらダイチ自身を常にソラの少し上のレベルで走れるように精進してきたのだ。TOJは日本で行われるレベルの高い大切なレースだ。目標をそこに設定するのはギリギリ、いや、少し高過ぎるとも思った。しかし、可能性は低くても二人が最高に頑張れるのはそこだと考えた。
※ツアー・オブ・ジャパン(略称TOJ):毎年5月に行われる国内最大のUCI公認ステージレース。
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