プリン

 夜はぐっすりと眠れた。翌朝、ソラは見違えるようにスッキリとした気分で目覚めた。

 処置をしに来た石山ドクターは昨日からの回復ぶりに驚き、リハビリも予想外に上手く出来て石山をたまげさせた。昼前に来たダイチとも色々楽しい話が出来た。


 その日の夕方、部屋にタケルがやってきた。

「え? タケル一人で来たの?」

 ソラは驚いた。ずっと車椅子を一人で漕ぐ練習をしているのは知っているが、まだそんなに長い距離は漕げないはずで、ここに来る時はいつも看護師さんに押してもらってきていた。


「うん。こんなに長い距離を漕いだのは初めてだよ。それに僕、今日初めて売店に一人で行って、買い物までしてきたんだよ。お陰でもう腕がパンパンだよ。

 ソラ、改めて手術の成功おめでとう! そのお祝いにね。二人で一緒にプリンを食べようと思って、買ってきたんだ。ソラはプリンが好きでしょ?」


「タケル凄いな! こんなに漕いできたなんて、頑張ったな! それにオレの為にプリン買ってきてくれたなんて最高に嬉しいよ。ありがとう!」


 タケルが膝の上に置いていたプリンの入った袋を、上手く上がらない手でテーブルの上に置こうとした時、車椅子に引っかかって床に転げ落ちてしまった。

「あ!」

 プリンは無残な姿となって床の上で潰れている。

 タケルが一瞬泣きそうな顔になった。

「ごめんなさい」

 俯いて悲しそうな声を出した後、思いっきり作り笑いをしてソラの顔を見た。

「またやっちゃった。僕ってドジばっかり」


 ソラの目から涙がこぼれ落ちた。

 一生懸命に車椅子を漕ぐ練習をして、一生懸命オレの好きな物を考えて、初めて売店に行って、ここまで必死に漕いできたタケルの姿が目に浮かんだ。


「ソラ、泣くなよ。また買ってきてやるから」

 タケルはそんな風に言って笑っている。オレはプリンを食べれなくて泣いてるんじゃないんだぞ。


「片付けてもらわなきゃ。看護師さんに謝ってくる」

 タケルは外に出ていった。ソラは何かタケルを喜ばせるいい方法はないかと考えたけど、名案が浮かばず、タケルが戻ってきた。

「掃除用具持って行くから、ちょっと待っててねって」


 暫く二人で話していると、その看護師が掃除用具を持ってやってきた。

「ほら、これ!」

 そう言ってプリンを二つテーブルに置いた。

「ソラ君もタケル君も頑張ったから、これは私からの内緒のプレゼントだよ。患者さんに物をあげるのは本当は禁止されてるから、誰にも言わないでね」

 ソラとタケルは声を合わせて、嬉しそうに「ありがとうございます!」と言った。

 落ちたプリンは綺麗に片付けられた。


 タケルと二人で食べた、色んな思いが詰まったプリンは、格別な味がした。

「うめ〜」と言いながら食べている所の写真を撮ってもらって、この出来事を投稿をした。

 沢山の「いいね」が付いた。

 あ、看護師さんの名前入れてないから、内緒の話も大丈夫だよね?


 ソラは日に日に、びっくりする程急激に回復していった。

 プリンの翌日からはリハビリ室でのリハビリも開始し、手術前には出来なかった動きが出来るようになってきた。

 そして一週間後、待ち望んでいた日がやってきた。

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