色々あり過ぎた三週間
「ソラ、よく走り抜いたな。本当にお疲れ様」
ダイチはジンジャエールを一口飲んでそう言った。
「色々ありすぎたな〜。ほんっと色んな事を学びました。この三週間で三年分位、いや、もっとかな? このライオン貰ったのも、遠い昔のように感じるな〜。
オレ、あのマイヨジョーヌを失った日、本当〜に立ち直れないかと思いました。ダイチさんに助けてもらえなかったら絶対あそこでダメになってた。改めてありがとうございました」
ソラが頭を下げると、ダイチは「おやっ?」というような顔をした。
「ソラ、自分の事、オレなんて言ってなかったよな。どうしちゃったんだよ」
「あ、え〜っと‥‥‥
内緒」
恥ずかしくて、ごまかして話を続けた。
「痛くて苦しかったけど、耐えて良かった。少しずつチームの為に動けるようになって、嬉しかった。オレ、本当にアシストが好きなんだと思った。みんなが喜んでくれて、それに一週目に感じていたチーム員からの変な圧力みたいなのも無くなって。プティもオレに対するナーバスな感じが消えて、凄くやりやすかった。
アシストは楽しい。きっとオレに一番合ってる仕事なんだろうなって思う。
最後の方も、レオナードとのアシスト勝負みたいになって、敵わなかったけど、凄く楽しかった。あいつと走ると自分の能力が凄く引き出されるように感じる。マイヨジョーヌを獲得したあの日もそうだったし。
パリのパレードの時、彼に言われたんです。
『近いうちにもっと楽しい対決をしようぜ。ソラとのエース対決楽しみにしてるよ』って。
そう言われて、オレ、レオナードとのエース対決を心からやりたいと思ったんです。
だけど、僕はエースになんかなれるのかな?」
真剣に話しているのに、ダイチがプッと笑ったのでソラは「何だよ」と怖い顔をした。
ダイチは笑ったまま「ごめん、ごめん」と言った。
「また僕に戻ってるからさ。『オレはエースになります』じゃないのか?」
ソラは「あ〜〜」と言ってライオンを一匹持ってきて、そいつを抱きながら続けた。
「エースって辛いですよね。アシスト選手の思いや自分が抱えている思い、色んな思いを抱えているのに、やらなきゃいけない事は決まっている。自覚と責任を持って、結果を出さないといけない。
オ、オレは、走ってる時、見えるんです。その人の心が。たぶん他の人が感じるよりもはっきりと。だから助けてあげたいって思ってしまう。たぶんオレ、天性のアシスト選手なんじゃないかな? って思うんです。自分の勝利とか考えないでアシストやってる方が上手くいくし」
ダイチが「そうだな」と言ったので、ソラは「え?」と悲しそうな顔をした。
「そんな事無いって言ってほしかった?」
と言いながら、またダイチが笑った。
「アシスト向きだよな。ソラはエースになり得る力を持っているけど、他人を思いやる心が強すぎて、優しすぎる心はアシスト選手向きと言わざるを得ない。前々から思ってたよ」
ソラは俯いて、ライオンの髪を引っ張っている。
「けどな」
ダイチが続けた。
「そんな奴がエースになれたら、本当に強いエースになれるんじゃないかな?」
ソラは顔を上げてキラキラ光る目をダイチに向けていた。
「あのさ」
ダイチがソラの方に身体を向けた。
「一つだけ、ツールが終わったら話そうと決めていた事があるんだ。聞いてくれるか?」
ソラは姿勢を正した。
「何ですか。改まって」
ダイチはジンジャエールを一口飲んで話始めた。
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