マイヨジョーヌマジック
いくらソラがマイヨジョーヌを着ていても、チームの絶対的エースはプティである事に変わりない。
チームの最大の目標は最終日のパリの表彰台でプティがマイヨジョーヌを来ている事だ。
ソラのマイヨジョーヌを守る為にアシストを使うわけにはいかない。
チームからの指示は、ソラはプティの出来るだけ近くにいる事。プティはアシストに守られながら走るから、近くにいれば自然とソラも守られる事になる。ソラはプティの為のアシストは考えなくていいと言われた。しかしソラにトラブルがあってもその為にチームが助ける事はないし、他チームの攻撃に対してマイヨジョーヌを守る走りはソラ自身一人でやらなければならない。
ソラが強い事は確かだが、まだ総合優勝を狙えるような選手ではない。この後の二日間は難易度は高くないが山岳コースで、チームのアシスト無しにマイヨジョーヌを守る事は難しいだろうという下馬票だ。
第四ステージ、黄色いマイヨジョーヌを身にまとい、スタートラインの最前列に立っているソラの姿は
昨日迄、このジャージにあまり興味を持っていなかったソラだが、実際にこれを着てスタートラインに立つと、今迄に感じた事のない大きな誇りを感じ、全身の力がみなぎってきた。
マイヨジョーヌマジックという言葉がある。マイヨジョーヌを着た選手が、突然才能を開花させたり、皆が驚くような信じられないような走りをする事が、長い歴史の中で度々起こっている。
第四ステージからマイヨジョーヌを着て走っているソラはまさしくマイヨジョーヌマジックに掛かっているようだった。
これがあのソラか? とダイチも疑う程の走り。アシストを使って仕掛けてきたベルチャにも対応し、三日間マイヨジョーヌを着続けていた。気のせいかもしれないが、身体も一回り大きくなったように見える。顔に精悍さが増し、今や一流のアスリートの風貌だ。ソラ自身も、もっと出来るんじゃないかと自信がみなぎっていた。
それでも、レースを離れるとソラは以前と全く変わらない。四枚目のマイヨジョーヌを獲得した日、ソラがダイチの部屋を訪れた。
「これでライオンが四匹になった。ダイチさんと、僕と。あとの二匹は誰にあげようかな?」
とニコニコしている。
「お前、そんな事言いにきたのか?」
ダイチが言うと、ソラがちょっと真剣な顔をした。
「ダイチさん、プティはかなりナーバスになってますよね。僕、こんな突っ走ってていいんですかね?」
ソラは自分がマイヨジョーヌを着続けていても、やっぱりプティの事を気遣っている。
「プティは他のみんなが守っているんだから大丈夫だ。ソラがガンガン行ってるから、総合を狙っているライバルチームは沢山足を使っている。プティにとってもソラはいい動きをしてるんだよ。それにチームにとっても、そのジャージをキープする事は、プティを守る事と同じ位大切な事なんだ。ソラはそこに全力を注げ」
ソラはエースになり得る力を持っているが、他人を思いやる心が強すぎる。優し過ぎる心はアシスト選手向きと言わざるを得ない。絶対的エースのプティを第一に守らなければならない事は確かだが、ダイチはあえてそんな言葉を投げかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます