ゴール

 僕は歩くようなスピードで何とか最後の一キロを上りきってゴールした。

 プティのゴールからもう随分時間が経っているのに、ゴール地点でダイチさんが迎えてくれて、フラフラな僕を支えてくれた。

「ソラ、本当によくやった。お前、何て奴だ」

 その目は涙ぐんでいた。

「プティは?」

「タイム差無しだ。耐え抜いた。ソラのお陰だ」

「よっしゃ」

 僕は小さくガッツポーズをした。


 ダイチさんが、サドルを支えてくれて、そのままチームカーの所に戻った。僕はペダルから足を外す事は出来たが、地面に足を付くとそのまま崩れそうになった。ダイチさんが支えてくれて、抱えるようにしてチームカーの中に運んでくれた。

 中にいたプティが「ソラ、ありがとう」と言いながら手を差し伸べてくれて、ダイチさんと一緒になって僕を横にならせてくれた。


 沢山の労いと感謝の言葉を掛けられ、「少しは役に立つ事が出来た」と何だか気持ち良かったが、気持ち悪かった。身体は痺れてどうなっちゃっているのか分からないし、頭はクラクラして意識が飛びそうだ。

 チームドクターが来ると、身につけている物を全部脱がされ手当をされた。疲れ果てていた。手当されるのも痛くて、意識が飛んでしまえばいいのにと思っても、飛んでくれないから我慢して、為されるがままにしていた。


「敢闘賞(※)だ」と監督が告げに来た。

「表彰式出れるか?」と聞いてきた。

「無理」

 そう答えた。もしかしたら無理じゃなかったかもしれないけれど、こんなぼろぼろの姿を見せたくなかった。それに、今日でレースを下りる選手が敢闘賞なんて貰っちゃいけないような気がした。

 ダイチさんの敢闘賞の表彰式をテレビで観た時は鳥肌がたった。あんな格好いい姿で表彰台に立てるなら、そんな嬉しい事はないけれど、今の自分はちゃんと立ってもいられないだろう。嬉しさ半分、悔しさ半分みたいな感じだった。

「ダイチさん、代理で受けてきて下さいよ〜」

 努めて明るく言うのが精一杯だった。


 ダイチさんが敢闘賞の盾と花束を持ってチームカーに戻ってきた。

「おめでとう」

 そう言って、それを僕に渡してくれたけど、あまり感動は無かった。というか、もう疲れ過ぎていて、そんな物はどうでもいいと思ってしまった。


 その後、そのまま病院に連れて行かれて、精密検査を受けて、どこも折れていないし異常は無かったので今日のホテルに入った。

 それまで同室だったチームメイトには迷惑をかけられないから、今日はダイチさんと同室にされた。



 ※敢闘賞:各ステージ毎に最も勇敢な走りを見せてくれた選手に与えられる。 審判団が投票と話し合いで決定する主観的な賞。赤ゼッケン(赤地に白い数字)が授与され、受賞日の翌ステージのみ、このゼッケンを付けて出走する。

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