メッセージ

 何なんだ? こいつは?

「チームに入れて下さい」って、プロチームを何だと思ってるんだ? そう思ったけど嬉しかった。自分をずっと観続けてくれて、こんな風に思ってくれる少年がいるんだ、と。文面から熱い物は感じた。少し気になったので「双葉空」を検索してみると、ちょこちょこ情報が出てきた。


「ジャパンカップ、ジュニアの部でニ位。ゴール前三百メートルで集団に捕まったが、一周目から逃げた熱い走りが全日本の監督の目に留まり、ナショナルチーム入りを果たす」

 昨年のそんな記事があった。一つのレースで深井さんの目に留まってナショナルチーム入りなんて、ちょっと気になる奴だと思った。翌日、深井さんに電話をして探りを入れてみた。


「あいつは本気だ」「今、一番気になっている選手だ」「そんな事を直接言ってきたのか、あいつらしい」「言葉足らずな所はあるけど」と言って笑っていた。

 深井さんは少し詳しく話をしてきた。


 ソラがオレの目に留まったのは彼が高校一年の時だった。勝負に絡める感じじゃなかったけれど、何か惹きつけられる物があったんだ。身体が凄く小さいのに気迫溢れるレースをしていて、センスも感じた。けど、他にもっといい選手がいたし、声を掛ける程ではなかった。

 それが二年の秋のジャパンカップでは別人のようになっていた。まだ身体は華奢で小柄だけれど、だいぶ身長も伸びてロード選手らしい体型になっていて、優勝こそ逃したが走りも素晴らしかった。

 レース後、すぐに声を掛けて、こいつは面白い奴だと感じた。世間のつまらない常識から外れた物を持っている。走りのスタイルはダイチとはだいぶ違うけれど、似ている所がある。心からダイチの事をリスペクトしていて、オレよりもダイチの事をよく知ってる位だ。

 中学三年の時にテレビでツールを走るダイチを観て、絶対にダイチのチームに入ると決めて本気で取り組んでいると言っていたけど、それは口先だけじゃないようなんだ。英語もフランス語ももうかなり習得しているし、海外レースはまだ走った事はないものの、テレビで観て相当学んでいる。

 ナショナルチーム入りして、数回実際に走りを見たが、ちょっとびっくりするような走りを見せる事がある。これまでは気持ちに身体が付いてこない部分が大きかったようだけれど、ここにきて身体も出来てきて、いい練習をしっかり沢山行える選手になってきた。

 近いうちにダイチにも紹介しようと思っていた選手で、まだまだ未知数だが心に留めておいてほしい。この夏か秋か、彼を連れて動こうと思っているので、また連絡を入れる、と言われた。


 ダイチは電話をしながら、久々に何かときめく物を感じていた。


 ソラには軽く返信を入れた。

【メッセージありがとう。「ダイチさんのチームに入れて下さい」なんて、「何だ、こいつ」と思ったけど、嬉しかったよ。ありがとう。

 今日、深井さんと少し電話で話したんだ。「あいつは本気だ」って言ってた。

 近いうちにオレに紹介しようと思ってたらしいし、この夏か秋か、君を連れて動こうと思ってるって言ってたよ。

 深井さんとしっかりコンタクト取ってな。ソラくんがこっちに来てくれるのを楽しみにしている。頑張れよ! 椎大地より】


 メッセージを受け取ったソラは舞い上がっていた。何回も何回も読んで、ツールのマスコットのようなライオンがハートマークを持ってるスタンプを押した。


「えーー! ウソだろ?」

 スタンプを押したソラは叫び声をあげた。画面いっぱいにハートが飛び出してきて、顔が真っ赤になった。慌ててお詫びのメッセージを入れようかと思ったけど、ますます墓穴を掘ってしまう気がしたのでそのまま放置した。


 一方、ダイチもそのページを開いて、目を見開いた。

「何なんだ? こいつは? 少女趣味か?」

 こっちまで恥ずかしくなった。

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