第4話 水色の炎のある塔

 私たち8人は、水色の炎のある塔の前に立った。

 モゴルンがゆっくりと扉を開けると、中はシンとして静かだった。冷たい空気が流れている。サウンの母親が言ってたとおり奇妙な絵がそこかしこに飾られていた。確かに誰もいないようだった。みんな何故か音を立てないように歩いた。

 目指すは、奥の扉だ。

 前には、モゴルンとタジンとドジン、ペカルが立った、私たちは後方に立つ。

 さっきはあんなに泣きそうだったトリーは鬼の形相になっている。対照的にサウンとソーハーは落ち着いた表情だ。

「行きます。」

 モゴルンがドアノブを握ろうとした。

「あーー!ちょっと待って!!い、今、深呼吸するから。」

 トリーは怖い顔しているが、声が震えている。皆がトリーの方を振り返ったが、その顔は皆一様にこわばっていた

「はい、すみません、良いです・・・お願いします。」

 トリーはすまなそうに言った。全員が深呼吸した。再びモゴルンがドアノブを握った。心拍数が上がる。

「あー、ノックした方がいいのではないか?」

「そうじゃな。」

 とタジンとドジンが言ったので、緊張感がまた緩む。が、そんな暢気な言葉を言いながらも、真剣な顔つきをしている。

 モゴルンが

「はい。では。」

 コンコンコンッ

 反応はない。

「誰かいますかな?」

 と、タジンが言うと、中から、ウ~ッとうなり声が聞こえてきた。想像してた通りの声だ。

「ドアを開けさせてもらいますよ。」

 とドジンが言ってから、モゴルンがゆっくりドアノブを回して、少し引いた。

 そのとたん、向こうからドアが大きく開いて、怪物?が出てきた。

 その怪物は、モゴルンの風貌によく似ていた。だが、体の大きさが全然違った。モゴルンの1.5倍はあった。そして、何よりも目つきが違った。モゴルンは優しい目だが、この怪物のそれは鋭く釣り上がっていて、黒目が無いように見えた。

「ガウーーーーーーッ!!!」

 と、突然、低くて大きな声を出した。獣の鳴き声だ。

「ヒイーーーーーーッ!!!」

 トリーが叫びながら、のけぞった。そして、ソーハーにしがみ付く。

「あなたのお名前は何という?」 

 タジンは質問をした。

「ガウーーーーーーッ!!!」

「ここに男の人がおりますか?」

 ドジンが続けて尋ねる。

「ガウーーーーーーッ!!!」

「参ったなー、言葉が通じんようじゃな、どうするかのう。」

 タジンが困惑したが、

「それでは、中に入らせて頂くよ。」

 とドジンが平然と言ってから、中に入ろうとすると、中からもう一人出てきた。

この怪物は、最初のそれより、若干小さめだ。だが、歯がむき出しになっていて、鋭く光っていた。

「何の用だ!」

「だから、ここに男の人がいるかと聞いておるのじゃ。」

 タジンは、少しキレ気味だった。

「そんなものはいない。」

 タジンが話している隙に、ドジンが忍び足で部屋の中にスルスルッと入りこんだ。

中にはもう一人怪物がいて、小さいドアの前に立っていた。その怪物は3人の中で一番、というか、とてつもなく大きかった。だが、動きは鈍そうだ。

「こら!何をしている!」

 ドジンが見つかってしまった。

「モゴルン、その大きいのは任したぞ。」

「承知しました。」

 モゴルンはそう答えて、怪物をドアの外におびき寄せ、取っ組み合が始まった。

 部屋の中では、小さめの怪物とタジンとドジンが戦おうとしていた。

 2人が同時に両手に念を入れ始めた。そして怪物の足の方に向け、体を浮かそうとしていた。私たちは固唾をその様子を見守っていたが、

 ドーーンと低い音が鳴り響いた。モゴルンが倒れてしまっていた。そして、さっき足を怪我したところを痛そうにしていた。

「モゴルン!!」

 私は思わず駆け寄った。

「危ない!」

「行くな!」

「やめろ!!」

サウン、トリー、ソーハー、はサキミカの方へ走った。

「やめろ、モゴルンから離れろ!蹴とばされるぞ!」

「私のせいでモゴルンがケガしたの、私がバカだったから。このままじゃ押しつぶされて死んでしまうわ!」

 私はさっきのことを悔やんだ。暇つぶしに「浮いてみて」って頼んで、そして、モゴルンは私に喜んでもらいたいと、そのまま前に移動して柵にぶつかって倒れて、足を痛めたのだ。

「お前も死んでしまうぞ!」

 トリーはとっさにカバンの中の、お気に入りの靴を掴み、その大きい怪物の顔に向けて思い切り投げた。

 コーーーン。

 と良い音がして、見事、顔に命中した。

 その衝撃で、よろけた。その隙に、モゴルンは私の腕をつかんで、腹ばいになりながら逃げる。だが、私は、モゴルンの手を解いて、また怪物のところへ向かった。

「おい、何をするんだ!」

「やめろ、サキミカ!!!」

「やめろーーーーーーー!」

「サキミカさん、今助けにいきます!」

 モゴルンは、痛めた足を起こし立ち上がろうとした。

「私の必殺技、見せてやる!モゴルンの仇!!!」

 とキメ台詞を言って、空中に飛びながらの回し蹴りを、怪物にくらわした。

 すると、ますますよろけて、ついに。ドゴ――――ンと倒れた。そして、そのまま気を失ったのである。

 サウン、トリー、ソーハーは、茫然として突っ立ったままだ。

「ほら!ソーハー、すごいでしょ?サンダーに教えてもらったって言ったでしょ?」

 私は笑顔で聞いた。

「あ。ああ、すごいな。」

「もうバカにしない?」

「ああ、しないよ、絶対に。」

 最後の「絶対に」を強めに言った。

「怖いもの知らずだな。実はあいつが一番強いのかも・・・怒らせないようにしないと・・・」

 トリーは、そう言って怖気づいた。

 サウンは、

「よし、俺たちも、やるぞ。」

 と言って、3人はタジンとドジンがいる方に向かった、すると、その怪物はいつの間にか部屋を出ていて、なぜか頭と足が逆さまの状態で1メートルほど浮いていた。

「うわっ」

「すげー。」

「おい、お前たち、離れておれ。」

 タジンが怪物から目を離さずに言う。

「よし、行くぞ、ドジン!」

「おう、タジン!」

 そう言ったかと思うと、「せーのっ」と言って、両手を下にダランと下ろした。

 すると、怪物はドーンと頭から下に落下し、その後、バーーーーンと横に倒れた。

「息はまだあるな。」

「気を失ったみたいじゃな。」

 タジンとドジンは、確認してから、お互いを見ると、目を閉じた。そして、タジンとドジンまで、倒れてしまったのだ。

 サウン、トリー、ソーハーは怪物を倒したことでホッとしていたが、ビックリしてすぐにタジンとドジンに駆け寄る。

「大丈夫ですか!?タジン!」

「おい、どうしたんだよ!ドジンまで!」

 すると、地響きのような音を轟かせながら、残った3番目の怪物が部屋の中から出てきた。その姿を見て、

「これは、俺たちがやるしかないな。」

 サウンはキリっとした顔つきになって言う。モゴルンとタジン、ドジンはもう満身創痍である。

「了解。でも、どうする?」

 ソーハーは言う。

「おい、また大きいのが出てきたけど、あいつが最後か?」

 後ろからトリーが、恐る恐る聞く。

「そうです。私もいるのを忘れないで下さい。」

 ペカルが姿を現す。

「警察官だというのに、どこに隠れていたんですか?」

 サウンは、怒って睨みつける。

「そんな美しい顔でにらまないで下さいよ。私はこの塔の2階を見てきました。

お父様はいませんでした。」

「わかりました。あなたも一緒に戦って下さい。」

 サウンは、冷たく言った。ペカルは無表情でうなづく。

「それにしても、棒で叩くしかないのかよ。」

 トリーは、こちらに近づいてくる怪物を見て、動揺しながら聞く。

「叩いてもビクともしなさそうですね。」

 ペカルも、どうしようか思案していると、

「あっ。弁慶の泣きどころ。」

 ソーハーが、つぶやいた。

「え?」

「ああ、さっきモゴルンが膝の下を柵にぶつけて、痛さで派手に倒れたんだ。立ち上がらせるのが大変で。大きければ大きいほど倒れた時に立ち上がるのに時間がかかるんじゃないかなって。」

「なるほど、時間稼ぎできるな。じゃあ、膝下を皆で叩こう。」

 サウンは、ソーハー、トリー、ペカルの目を、1人1人見た。

「よし、やってみるか!」

「おう!」

「やるぞ!」

「やりましょう!」


 私は、モゴルンのところに寄り添っていた。大きな怪物が出てきたので、

「どうしよう?モゴルン、あんな大きいのと戦っても勝てないよ。」

 泣きそうになりながら、みんなが話している様子を見る。

 すると、サウンがこちらに気づいて、ニコッと笑った。

 なんで笑ったの??どうするつもりなの?


 4人は、すばやく右足と左足に2人ずつに分かれた。怪物は驚いたようだ。

「せーの!」と言って叩いた。

「ウーーーーッ」

 少し痛そうにしている、だが、手が伸びてきて、トリーがつかまれそうになった。が、サウンが手を引っ張って、間一髪で助かった。

「ありがとう。」

「おう、もう一度やるぞ!」

「せーの!」

 バンッ!

「ウーーーーーッ」と、うめく。

「もう一回!」

「うわっ、痛そうだっ」

「同情するな!」

「せーの!」

「ウオアーーーー!!」

 かなり痛そうだ。

「よし、最後、思い切りいくぞ!」

 サウンが叫ぶ。皆は力を溜めて、

「せーの!!!」

 残った力を振り絞り、その力を思い切り爆発させた。

 すると、ようやく、その怪物は、仰向けに倒れた。

ドゴゴゴーーーーーッ

ものすごい音と振動だ。みんな汗だくだ。

「これで、全員倒したんだよね?」

 トリーが確認する。

 サウンが、一応、部屋の中を見に行く。もう怪物はいなさそうだ。父さんがいるかもしれない、と思い、たくさんある引き戸を全部開けてみたが、お菓子しか入っていなかった。がっかりしたが、この扉の向こうにいるかもしれないと希望を持つ。

「どんだけお菓子好きなんだ!」

 トリーは喜んで、一つ一つ手に取る。気に入った様子で、

「全部もらって行こうぜ!!」

「そうだな、お腹空いたし。」

 ソーハーが珍しく賛成した。


 私はモゴルンを立ち上がらせようとしていると、サウンが駆け寄ってきて、一緒に起こしてくれた。そして、

「みんな。倒したよ。」

 と笑顔で言った。

「うん、すごいね!」

「ソーハーの、弁慶の泣きどころ作戦。」

「何それ。フフッ」

 二人で笑った。モゴルンも笑った。そして、サウンは真剣な表情になって。

「サキミカ、怪我はしてない?」

「うん、私は大丈夫。」

「良かった。」と言ってから、いきなり抱きしめてきた。

「え、ちょっと。」

「ごめん、だけど我慢して。」

「う、うん。」

 嬉しいような恥ずかしいような変な気分だった。


 その様子を見たトリーは、

「どさくさに紛れて作戦だな。」

 と言って、ニヤリと笑う。

「まったく、見てるこっちが恥ずかしい。」

 ソーハーは呆れる。そして、ドアの方を見て、

「よし、この扉を開けてみるぞ。」

 それは小さなドアで、モゴルンが通れるどうかのギリギリのサイズだ。

「いくぞっ」

 ソーハーが思い切り開ける。ガチャッ

 そこには下へと続く階段があった。

「俺、ちょっと下を見てくる。」

「お。おい、大丈夫かよ。」

 トリーが、またしても動揺する。

「ソーハー君、私が行きましょう。」

 ペカルが遮って言う。

「いえ、僕が行きます。もし、戻ってこなかったら探しに来て下さい。」

 ソーハーは、階段を一番下まで降りると、壁があり、右と左に道が分かれていた。左を見ても右を見ても、その先も道が分かれているように見えた。試しに左に行き、また左に曲がるとその先も左右に道が分かれていた。

「こりゃ大変だぜ。」

 階段を登って戻ると、トリー、サキミカ、サウンの3人はお菓子をカバンに詰め込んでいた。

「良かった、無事戻ってきましたね。」

 ペカルは安堵した。

「あ、どうだった?ソーハーのカバンにもお菓子入れておいたよ。」

 私は、嬉々としてお菓子を選んでいた。

「ありがとう。あー、この先、かなりやばいぜ。」

 私たちは振り返ってソーハーを見る。

「この階段の下は、迷路になっている。」

「めっ迷路?」

 トリーは予想外過ぎたのか、声が裏返った。

 一同は唾をゴクリとに飲み込む。ソーハーは続けて、

「タジンとドジンは、もう疲れ切っていて。ここで、体を休ませたいとこだが、

怪物がいつ目を覚ますか分からない。とりあえずこのドアをくぐろう。そしたら怪物は追いかけて来れないから。」

「なんでですか?」

 ペカルは、首を振って、「分からない」というジェスチャーをした。

「この小さなドアを、怪物は通れないからだ。」

「なるほど。」

 サウンは落ち着いている。

 モゴルンとタジンとドジンも後ろで静かに聞いていたが、何も言葉を発しなかった。ペカルも静かに言った。

「では、皆さん身支度してください。」

 先を急ぐことになった。


 タジンをトリーがおんぶして、ドジンはサウンがおんぶして、ゆっくりとドアをくぐった。みんなもそれに続く。

 階段を下りるといきなり迷路が始まる。左と右、どっちに行くか考えるのも嫌になる。

「あ、そうだ!さっきのお菓子を道に落として行けば、間違えても戻れるんじゃないかな?森で迷子にならないように目印を付けて歩くと良いって、昔聞いたから。」

 トリーは、思いついて言った。

「ああ、それ良いですね。」

 ペカルが明るく言う。

「でも、最初は右と左どっち行く?」

 ソーハーは不安そうに聞く。

「この棒が倒れた方ってのはどう?」

 私は、思い付きで言った。

「よし、それでやってみよう。」

 サウンがうなづいた。

 私はまっすぐ棒を立て、手を離した。やや左に倒れた。

 すると、ペカルが手を挙げて、

「みなさん、ここは警察官の私が一人で行ってきます。」

「何を言ってるんですか?」

 サウンは、驚く。

「みんなで行って間違えて引き返すのは大変ですから。先ほどの汚名挽回です。もちろんお菓子を一つ一つ置きながら行きますよ。」

「大丈夫かな?」

 私は、ペカルが誰かに襲われるのではないかと心配になる。

「ここはとても静かです。他に誰もいなさそうですし、もしいたとしても相手が人なら負けませんよ!」

 ペカルは拳を突き上げた。無鉄砲なようで、冷静だった。

 そうして、サウンとトリーのお菓子がたくさん入ったカバンを抱えて左に曲がって行った。


「鍵はこちらからはかけれないようだ。誰かが入ってこなければいいけど。」

 ソーハーはドアを気にしている。

 トリーはこの重苦しい空気を変えるべく、

「それにしても、サキミカの回し蹴りは、最高だった。!あ、あれさ、俺の靴ぶん投げて顔に命中させて、一回ダメージくらってたから。その後にお前が蹴った衝撃で倒れたんだ。だから、半分は俺のお手柄だぞ。」

「そうだね、靴投げるとか。トリー、ナイスだね。」

 私は、さっきの回し蹴りの感触を思い出していた。

「とっさの俺の判断!」

 トリーは自慢げに言う。

「靴持ってきて良かったね。」

 私は、靴が履く以外にも使い道があることを知った。

 トリーはサウンの耳元に顔を近づけて、

「俺の方が活躍したぜ。フッ。」

 勝ち誇って言う。サウンは天井を見上げて、

「あー、確かにそうだ、負けたよ。次こそ俺が活躍してみせるから!」

 悔しさを滲ませなが、静かに誓った。


 ペカルを待っている間に、トリーは眠ってしまった。モゴルンもタジンとドジンも寝ている。

「サウンの父さんは、この塔に来て、この迷路も通ったかな?」

 私は、気持ちが高ぶって眠れなくて、でも、なかなかペカルが戻って来ないので、そんなことを口にした。

「その前に、父さんが3人の怪物を倒したってこと?想像できないよ。」

 サウンは、信じられない、という顔をする。サウンも眠れなくて起きていた。

「それとも、サウンの父さんが怪物を連れてきて、他の人が入れないようにしたとか?いづれにしても怪物がいるのはおかしいから、何かの秘密が隠されている気がする。」

 ソーハーは、秘密が知りたい気持ちと不安が入り混じった複雑な気分だった。

 3人は、横になって天井を見つめながら、とりとめのない話をする。

「誰がこんなもの作ったんだろ。」

 私もいつの間にか眠ってしまった。


「皆さん、起きて下さい!」

 私が目を覚ますと、みんな起きていたが、寝起きのぼーっとしている感じだった。「出口を見つけました!」

 それを聞いて、みんなの眠気が一気に吹き飛んだ。

「信じられん。」

「ほんとじゃ。」

 タジンとドジンはすっかり元気になって、いつもの調子にも戻っていた。モゴルンは目を丸くしていた。

「え?出口を見つけてここまで戻ってきたんですか?」

 私はこの人の忍耐力に脱帽した。

「すごいですね。尊敬します。」

 トリーは感動していた。

「いえ、私一人では無理でした。途中で会ったこの小人さんに助けて頂きました。」

 よく見ると、ペカルの肩のところに、小さな「人」が乗っていた。

 幻覚なのかと思ったが、

「みなさん、初めまして、私は、ヤッキーです。」

 と喋ったので、全員が驚いて言葉を失った。

 小人なんて見たことがないし、いるって噂も聞いたことがない。

「ハーイ、私はこの近くの森に住んでます。この塔はずっと気になったいましたが、今まで入ることは出来ませんでした。ですが、あなた方が来た時、騒がしかったので私も来てみました。あなた方がこの扉を開けたので、私も入りました。」

「いつの間に・・・」

 ソーハーがつぶやく。

 とてもじゃないが、信じることが出来ない。

「あなた方が怪物と戦っている時に、部屋に入り見て回っていたところ、お菓子と共にこの小さな紙を見つけました。そこには謎の数字と矢印がたくさん書いてありました。それを持ってこの階段を降りると、迷路になっているじゃないですか?もしかしたら、この迷路と関係があるかもしれないと思いました。」

「いつの間にあのドアも通ったんだよ。」

 ソーハーは首をかしげる。

 紙には、1~9までの数字と「→(右の矢印)」「←(左の矢印)」が書いてあった。

「見ても何がなんだかよく分からないな、よく解読できたね。」

 サウンが、手を動かしてブツブツ言いながら、謎解きをしている。

「試しに、1、3,5,7,9→右に行く、2、4,6,8→左に行くと考え、歩いていました。そうしたら、途中でペカルさんにお会いしまして。2人でその通りに行ってみたんです。そうしたら出口がありました!」

「出口の外に何があったんですかな?」

 タジンが、皆が一番知りたい質問をした。

「湖が見えました。何人か見張りの人がいるようでした。」

 意外な感じがした。早く見てみたい。見張りがいいるということは、やはり何か隠さないといけない秘密があるのかもしれない。


 先頭をペカルとヤッキーが歩く。次にタジンとドジン、モゴルンと私、サウンとトリー、一番後ろはソーハーだ。置いてきたお菓子を拾いながら進む。

 ヤッキーは、私の手の平ぐらいの大きさだ。何かの布を体に巻き付けて、木の実をくりぬいた靴を履いていた。顔はしわしわで、その姿は小さいお爺さんだ。

 右に行ったり、左に行ったり、忙しい。そして壁という壁ははすべてが白く、どこを歩いてるのか分からなくなる。気持ち悪くなりそうになりながら、ずっと歩いていた。

「皆さん、お疲れのようです。この辺で休憩しましょうか?」

 左右に分かれ道がある手前の部分で少し広めスペースがあるところがあり、そこでいったん休むことになった。皆ぐったりと座りこんだ。

 さっきのお菓子を食べてから、水筒の水を飲む。水の温度はもうだいぶ温くなってしまっている。量も少なくなっている。

「湖の水がきれいだったら、汲んでいこうね。」

 私は言いながら。冷たい水を飲んでいる自分を想像した。


 ヤッキーは、サウンをまじまじと眺めて、

「それにしても、あなたはとても美しいですね。あなたがうちの森に来たら、私の奥さんと娘が大騒ぎしますよ。ぜひ今度遊びに来て下さい。」

「はい、ぜひご挨拶に伺います。」

 サウンは。ニコッと笑った。

 そして、ヤッキーは何か思いついたようで、

「出口にいる見張りの者のうち、一人が女性でした。もしかしたら、あなたの美貌と色気でメロメロにできるのではないでしょうか?題して「メロメロ攻撃」作戦です。」

「メロメロ攻撃?なんだそれ。」

 ソーハーは間髪入れずにツッコミを入れ、失笑する。

「君が見張りの女性をいつも通り誘惑すれば、相手に油断が生まれます。その隙に攻撃するんです。」

 当のサウンは、黙って聞いて何か考えている。

 サウンは、顔は美しくて、一見弱々しく見えるが、中身は実に男っぽく、そんな作戦はやりたがらないと思うけど。

「いつも通り誘惑ってどういうことですか?あと、僕は色気があるんですか?・・・どうしてか女の子達は僕のことを好きになります。嬉しいですが、面倒くさい時もあります。色気?があるからなのかな?僕はいつも普通にしてて、特に何もしてないから、どうすれば良いか全然分からないです。」

 サウンはとても困惑していた。

「自分の魅力を理解してなかったとは、何という美貌の無駄遣いだ。」

 ペカルは、首を振ってから、

「私はいかにカッコよく見せられるかを考えて行動していますよ。」

 とペカルは、自信有り気に言う。

 なるほど、だから時々子供っぽいところが顔を覗かせるのだな。

 それにしても、サウンは、意図的ではなく自然にしてるだけなのに、女子たちを虜にしているなんて、なんて罪なことなんだ!!もし虜にさせる要因があるとしたら、笑顔が可愛すぎて破壊的な威力があるからだろう。私もそれで惑わされた一人だ。もし確信犯的に何か惑わせることをやったとしたら、ホントにメロメロになって失神させることが 出来るかもしれない。そんな攻撃、今まであっただろうか?

「確かに色気があるかも。男の俺もたまにドキッとする瞬間がある。」

 トリーは、思い出してうなづく。

「うぇ、マジか、気持ち悪いなー。」

 サウンは、心の底から嫌がっている。さっきまで、どっちがカッコよく活躍できるか、トリーと張り合ってたので、

「そんなこと言うのやめてくれ。」

「お前は美しいだけじゃやなく、女の子の可愛さも持ち合わせている気がする。」

 トリーは凝りずに続けて言うので、サウンはぶちギレだ。

「止めろって!!」

「美貌、色気、可愛さ・・・羨ましい。」

 ペカルが、羨望の眼差しだ。

「男をも虜にするのか。おまえ最強だな。男も倒せるんじゃないか?」

 ソーハーは、案外良い作戦なのかも?と考え始めた。

「でも、何をしたら良いんだよ。分かんないよ。」

 サウンは、ふてくされて言う。

「うーん、とりあえず、可愛い笑顔と・・・あとはウインクとかしたら良いんじゃないか??」

 ヤッキーがアドバイスして、目を片目をつぶって開ける。それを見たサウンが身震いした。

「ウインク?ですか?そんなことしたら、恥ずかしくて自分自身が気絶してしまいます。」

 かなり弱気になる。

「俺はそれで好きな子を落とせるなら、いくらでやるぜっ」 

 トリーが、私に笑顔でウインクしてくる。私の心は微動だにしなかった。しかし、それでサウンの闘争心に火がついたらしく、

「え、なんでサキミカにウインクした?」

「それは・・・この中で唯一の女性だから?」

 トリーがニヤリと笑う。

 それを聞いたサウンが私の方を向いて、

「サキミカ僕を見て。」

 と言って、ウインクしようとしたので、急いで私は下を向く。

「え、なんで?なんで下を向くの?」

 サウンは、ショックを受けたようだ。

「この攻撃は効かないよ・・・」

 私は顔を上げて、

「違うの!私、そんなことされたら失神しちゃいそうだから、私にはちょと無理っていうか・・・」

 顔がみるみる赤くなるのが自分でも分かった。

「俺の時は無表情だったぞ!」

 トリーは少し悔しがる。

「実験なんだから、やってもらわないと困るよ」

 ヤッキーが、半ば強制してくる。でも、想像するだけで卒倒しそうだ。

「・・・わかった!一度、深呼吸するから待って。」

 サウンは真剣だ。

「オッケーよ。」

 覚悟を決めた。そして、サウンが私を見つめて、笑顔になってぎこちなくウインクをした。

 その場の時が止まった。 

 ・・・私は、一瞬で固まってしまい、なぜか息が止まった。

 トリー、タジンとドジンも固まってしまった。なんと、ペカルとモゴルンは失神してしまっている。ヤッキーは目をむいてサウンを凝視したままだ。

 そして、私は息をゆっくり吐いて、大きく吸ってから、

「キャーーーーーーーー!」

と絶叫した。

 ソーハーだけは変化が無かった。私の叫び声にビックリし、皆の様子を見て、

「バカにしてたけど、この攻撃良いな。敵が固まってる隙に、俺が攻撃すれば良いんだな。他の奴が気絶しても俺は平気ってことが分かったし。サウン、ナイス!!」

 ソーハーだけにはこの攻撃は効かなかった。

「ありがとう、みんな大丈夫かな?」

 サウンの顔は引きつっていた。

 ウインク攻撃の衝撃が強すぎて、私の顔は崩壊してしまった。目尻は下がり口はずっと緩んだままだ。

「お、おい、よだれ出すなよ!」

 ソーハーが、手を叩いて正気に戻そうとする。

 私は、サウンが以前、「一緒にいると楽しいし、ずっと一緒にいたいと思える。」という言葉を思い出して、ヘラヘラ笑った。

 サウンは、そんな壊れてしまった私を見て、

「フフ、かわいいな。」

 と言って、とても満足そうにしている。

 トリーは、すでに元に戻っていて、サウンの言葉を聞いて、呆れ顔だ。

「こいつが、かわいい?他に可愛い子いっぱいるだろ?」

「サキミカが一番かわいい。」

 サウンは、ニコニコしている。

「お前もおかしくなったか?」

 トリーは遠い目をした。

 すると、失神から生還したモゴルンが怒りながら、

「私も、彼女のこと可愛いと思います!それに、とても正直でやさしくて魅力的です。すごく好きです。」

 モゴルンは、友達としての「好き」と言ったつもりだったのだが、それを聞いたサウンは、勘違いしてモゴルンを敵視し、

「俺の方がもっとサキミカが好きだ!」

 と爆弾発言をした。でも、誰も驚かなかった。私は頭の中でお花畑に行ってしまっていたので、何も耳に入ってこなかったが。

 ソーハーは、それに対して、

「そうか。俺も好きだよ。お前の好きと違って、友達としてだけど。」

 自分の思いをサウンはに伝えた。

「僕もですよ。」

 ペカルも笑顔で言う。

「わしらもじゃよ。」

 タジンとドジンも、うなづきながら言う。

「ちょっと待った!好きじゃないの、俺だけ?」

 トリーが、不機嫌になって言う

「お前はフレイラが好きだから。」

 ソーハーが、もっともなことを言う。

「いや、友達としてもムカつくし。」

「好きの裏返しじゃろ。フフフ。」

 タジンは、トリーの事が可愛くてしかたがない様子だ。

「そんな訳ない、いつも文句言ってくるからウザい。」

「それは、トリーが文句を言わせてるんじゃろ。」

 とドジン。

「え?俺が悪いの?とにかく違うから。」

 トリーは納得いかない様子だ。

 そんなやり取りをしているうちに、ペカルは眠ってしまった。寝ずに迷路を歩いてくれたから無理もない。

「サキミカ。戻ってこい!」

 ソーハーが私の体を揺らす。

「サウンが愛の告白をしたぞ!今聞かないと一生後悔するぞ!」

「え?何?ごめん途中から聞いてた。トリーが私の文句を言ってたね。」

 聞かなくて良いところだけを聞いてしまった。

 私は怒りの感情が沸々と湧いてきた。険しい表情になる。

「おい、怒ってるぞ、トリーどうするんだよ!」

 ソーハーは、無視するトリーと、それを睨みつける私の間で困り果てる。

 すると、ヤッキーが話を元に戻して、

「想像以上に攻撃効果がありそうだ。サキミカさん、今のウインクをどんな風に思ったか教えてください。覚えてるかな?」

「えっと、顔がカッコよすぎて素敵すぎて・・・言葉では上手く言い表せません。笑いながらウインクしたから「可愛い」のもあって息が止まりました。とにかくすごい破壊力です。同じ「人」とは思えないというか・・作られたお人形さんみたいというか・・・サウンは・・・サウンは、何を考えてるか分からないから、いつも振り回されて困ってます。」

 最後は、つい、サウンへの不満を口にしてしまった。

「俺は、特に何も考えてないよ・・振り回してるつもりも無いし。」

 サウンは、恥ずかしい程に分析されて、挙句には「人」じゃないと言われ、「何を考えてるか分からない」とまで言われ、かなり落ち込んでいる様子だ。

「サウンほど分かりやすい奴いないぞ。すごく単純。ずっと一緒にいてよく分かった。もしかしてサウンが難しいこと考えてると思ってるのか?」

 ソーハーは、笑いながらサウンを援護して言う。

「だって、ホントに分からないから。」

 と言い訳すると、サウンは真剣な表情になって、私の目を見て、

「僕は、サキミカのことが好きだよ。だからいつも一緒にいたいと思うんだ。これが僕の正直な気持ちだよ。」

 静かな優しい口調だ。自分の気持ちをはっきり伝えることができたので、サウンは清々しい表情になった。

 すると、天井の方から緑のキラキラの粉が落ちてきた。

 突然の告白だったけど、そのキラキラがあまりにも眩しくて、とても幻想的でうっとりと見惚れていた。

 誰も声を出すことは出来なかった。

 そしてその緑色のキラキラは一つの塊になり、サウンの手の平に下りてきた。何かの宝石のようだ。

「これは私が出したんじゃ。」

 タジンが言った。

「お前の嘘偽りのない純粋な美しい心に触れて、私の中からあふれ出てきたんじゃ。シャドゥンの私が作り出したが、これはお前が作ったも同然、サウンの美しい心の結晶じゃ。同じものは2つとない。汚れたものからお前を守ってくれるじゃろう。」

 なんて、素敵な魔法なんだろう。マズナというエメラルドグリーンの花も、シャドゥンが作っていて、とても美しく悪いものをよせ付けないと言われている。シャドゥンという生き物は、みな肌が灰色をしていて見た目は決して美しいとは言えないが、美しいもの作り出し、皆の心を浄化してくれるのだ。

「宝石みたいだな。しかもわりと大きい」

 トリーは、まじまじと見る。

 サウンは驚きつつ、その宝石を握りしめてから、私を見て、

「サキミカには、僕のこと、人として見て欲しい。」

「えっと、もちろん人として見てるよ。あれは例えだから。」

「じゃあ、人としての僕のこと、どう思ってる?」

 美しい心をも持っていると言われたサウンには嘘はつけない。思ったままを言うことにした。

「私もサウンのこと好きだけど、それはたぶん「顔」が好きなんだと思う。でもね、どんな人なのか、何を考えてるのかすごく知りたいと思ってる。」

 トリーは驚いて、

「サキミカ、お前なかなかヒドイことを言ったぞ。」

「だって、ホントのこと言わないと、って思ったから。」

 サウンは、落ち着いている。

「そうだね、たぶんみんな僕の「顔」が好きで、それを好きと勘違いしてるんだね。僕のことちゃんと知ってほしいから、これからは心のままに話して行動するよ。イメージと違くなるかもしれないけど、それがほんとの僕だから、そのまま受け取めて欲しい。」

「やばいぞ、サウンがバカ正直になったら、暴走するぞ。お前気をつけろよ。」

 ソーハーが脅してくる。

「何だよそれ、暴走しないよ、あくまで紳士的に。」

 と言ってニッコリ笑った。

 何が「紳士的に」なの?やっぱり分からない。

「サウン、笑うの禁止ね!また「好き」と勘違いしちゃうから!」

「ごめん、笑ったらダメなの?」

「そう、ダメ!」 

 私は恥ずかしくなってきたので、話題を変える。

「ねえ、シャドゥンがそんな宝石作れるなんて知らなかった。サンダーは一度も作ってくれなかったよ。」

「今は作りたくても作れなくなったのじゃよ。」

 タジンが静かに答えた。

「作りたくても作れない?」

「そうじゃ。昔々は自由に作ることができたらしい。じゃが、悪い奴らが、私たち

シャドゥンのこの力が欲しくて私らを監禁し、嫌々宝石を出すことになったのじゃ。この力が弱くうまく宝石が出来ないシャドゥンは、必要ないと殺されたんじゃ。その数は相当な数じゃったそうじゃ。じゃが、そのことを知って心を痛めたある少年が、不思議なパワーで邪悪な者たちをすべて消してしまい、それからはどんなに頼まれても宝石は出せなくなったという。ただし、美しい心に触れた時にだけ、自然と出てくるようになったといわれている。それでできた宝石はものすごいパワーを宿し、邪悪なものをよせ付けないんじゃ。」

「じゃあ、私の心が純粋で美しくないから、サンダーは出せなかったのね。確かに純粋じゃないけど。雑念だらけだし。」

 私はむくれる。

「いや、サンダーはその能力が弱いのかもしれんぞ。」

 ドジンが、慰めの言葉を言った。

「これは、どうしたら良いですか?」

 サウンは、手に握った宝石をどこにしまったら良いか考えあぐねている。

「ネックレスにすると良い。じゃが、私はこれを出したのは初めてなんじゃ。まさかこんなに美しいとはな・・・」

「老人になってから初めて?」

 ソーハーが驚いて聞く。

「そうじゃ。じゃが、前に出したことがある者に聞いたら。ネックレスにしたそうじゃ。」

「うーん。重いから肩がこりそうだな。」

 サウンは面倒くさそうにしている。私は、良いことを思いついた。

「ぶら下げるんじゃなくて、紐をを首にピッタリ巻けば良いんじゃない?家に帰ったらちゃんと加工してもらって、今はとりあえずの物を作って首に付けて良い?」

「うん。」

 私は、カバンの中から、赤い細い紐と太い紐を出した。細い紐を十字に宝石に巻き付けてから太い紐に結び付けた。その太い紐をサウンの首に巻き付けようとして、美しい顔がすぐ近くにあることに気づく。なんと私は、自分の腕をサウンの首にまわしていたのだ。私としたことが!気づいてしまってからは手が震えてきて。早く終わらせよう思っていると、サウンの顔がどんどん近づいてくる。ええ??

「ちょっと・・・」

 私は避けようと、のけぞって尻もちをついた

「なんで近づいてくるのよ?」

「キスしようと思って。」

 サウンは、すごい色気がある目つきで私を見つめて、とんでもない言葉を発した。

 ソーハーのさっきの言葉「やばいぞ、サウンがバカ正直になったら、暴走するぞ。お前気をつけろよ。」という言葉思い出した。

「ちょっと、何言ってるのよ・・・」

「早く付けて。」

 甘えた声を出す。顔を見ると可愛い笑顔になっている。からの「ウインク攻撃!」

 私は、気絶してしまった。確信犯的にやったのだ。何という大罪!!!!自分の魅力に気づいてしまったサウンは、これから私を何回気絶させるのだろうか。


 休憩は終わり、また歩き出す。私はモゴルンに捕まってよろよろ歩いた。またサウンに何かされないように、離れて歩いた。サウンをチラッと見ると、首にちゃんと宝石が付けられている。

「自分で首に巻いたのかな?」

 首元をよく見ようと顔を乗り出していると、サウンが気づいてこっちを見た。でも、今回は。ニコッと笑っただけで、また前を向いて歩いた。なんか拍子抜けだ。いつものサウンに戻っていると良いけど。

 その後は、黙々と歩いた。そして、だんだん明るくなってきて、最後の曲がり角を曲がると出口が見えた。久しぶりの光だ。

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