第2話 捜索への大作戦
3人と別れたその夜、サンダーに事情を話して、私達4人でサウンの父親を探しに行きたいと訴えた。最初は反対していたが、何かを思いついたようで、
「わしの友達を連れていくなら、許してもらえるかもしれんな。モゴルンなら行けるかもしれん。」
どうやら、「モゴルン」という名前のサンダーの友達が一緒なら、周りの大人たちに納得してもらえるのではないか?ということだった。サンダーと同じシャドゥで、もちろん妖術が使えて、仲間の中で一番力が強くて、一番信用できるというのだ。
「それならサンダーが一緒に来てくれればいいじゃない?」
「わしは家のことをやらなきゃいけないのじゃ。亡くなった君のご両親から家の管理を任されたのじゃから。」
「一番任されたのは私のことでしょ?」
「だからそれは、モゴルンに任せるのじゃ。」
何がそんなに嫌なんだろう?
「その人って・・ほんとに大丈夫なの?一度会わせてよ。」
「そうじゃな、いつが良いかのう。今何をしているかのう~?」
何をそんなにのんきそうにしているのかしら?
「とにかく!警察の人に許可取れれば、行けるかもしれないんだよね??早く会わせてよ!」
私はつい口調が強くなってしまった。サンダーは、びっくりして、持っていたコップを落としそうになった。
「そんなに急がんでも・・・。」
「急ぐの!だってサウンはお父さんが居なくなって、どこにいるのか分からないんだよ?急がないと!早く会わせて!!」
サンダーは、私のあまりの剣幕に恐れをなして、
「わかった、わかったよ。」
と言って、明日紹介してくれることを約束してくれた。
次の日、サウンが学校に来た。母親はまだ入院が必要なので家には帰ってきていないが、元気そうだったという。
「僕は、なんで睡眠薬を飲まされたか、怖くて聞けなかった。」
元気なくつぶやいた。
「いいよ、聞かなくて。」
「そうだよ。」
「うん。」
トリーとソーハーと私は、「そんなこと知らなくて良いことだ」と思ったのだ。たださえ辛い状況なのに。
「それより、」
私は人目を気にして、教室の隅に3人を呼び寄せ、小さい声で
「昨日サンダーに相談したら、同じシャドゥンをお供に連れて行けば、警察が許してくれるかもしれないって!でね、そのシャドゥンを紹介してくれることになったの!」
「お~っ」
3人の小さくて低い声が轟いた。
「あなたたちは親も説得しないといけないから、難しいかもだけど。とりあえず、そのシャドゥンが今日家に来るから、明日また報告するね。」
「了解!」
と言ってサウンが笑った。
「サンダー、ナイスな考えだな。」
トリーが手を叩いて、その右手を上に上げてガッツポーズする。
「俺も父さんに提案してみるよ。せめてサウンだけでも行かせてやりたいし。」
ソーハーはサウンを見る。
「ありがとう。」
サウンは、本当に嬉しそうに笑った。
授業が終わってから急いで家に帰ると、やたらでかい人?が椅子に座って、サンダーと談笑していた。
「お帰り!ちょうどモゴルンが来てくれてな~。紹介する。この子がサキミカだ。」
「こんばんは。」
低い声で言いながら、立ち上がった。
背がめちゃくちゃ高い、サウンより高い。いや、高いだけじゃなくて、横幅もあって、全体的に、何というか、一言でいうと「巨人」のようだ。
サンダーが、強くて信用できると言っていたので、私は正義のヒーローみたいな、カッコよくてスマートなイメージを想像していた。
「僕に任せてください、サキミカさんをお守りします。」
話し方が、ゆっくりしてて、動きもゆっくりしてて・・・言葉は悪いが、何かノロマな感じだ。動きが遅くて私を守れるのかしら。確かに力はものすごく強そうだ。頭の回転はどうなんだろう?
「ありがとうございます。」
笑顔が引きつってしまった。
モゴルンが帰った後、サンダーに抗議した。
「ほんとに大丈夫なの?警察に認めてもらわないといけないのに。確かに力は強そうだけど。」
「彼はとても真面目な良いやつだ。」
サンダーは満足そうだ。
「一応、他のお友達を探してくれない?」
「いや、モゴルンが一番最適じゃ。」
「もー、サンダーが一緒に来てよー、それで解決なのに!」
「それは駄目じゃ」
もう、頑固なんだから。
「あとな、サキミカ、今日このことを警察に相談したら、モゴルンと面談してから考えてくれるそうじゃ。」
「えーーこれじゃ面談、不合格になるー。」
泣きたくなった。
「ねえ、他の人を!一応探してみて!」
私があまりにもしつこくネチネチ言い続けたので、渋々、了解してくれた。
そして、翌日の学校。昨日の報告会が、また教室の隅で開かれた。
私は昨日の巨人のモゴルンのことを話した。
「サンダーのお墨付きなら大丈夫なんじゃないか?」
サウンは、何の不満があるの?というキョトンとした顔をする。
昨日より顔色も良く、何度も笑ってくれる。
「でも、私が嫌なの!だから他のシャドゥンを探してくれるって。」
「そっか、それ待ちか。でも、警察が面談してくれて検討してくれるのは良かったじゃないか!」
トリーは満足そうだ。
「俺も父さんにシャドゥンを連れて行けば、捜索を認めてくれるか尋ねたら、警察でもその話があがってるって言ってた。信頼の厚いサンダーの提案だから真剣に考えているらしい。」
ソーハーも、明るい表情だ。
「そうなの?」
私は、心の中でサンダーに感謝した。
またまた急いで家に帰ったが、サンダーは申し訳なさそうな表情をしている。
「それが・・・ごめんな、みんな忙しくて、夏休みが始まるまでには来られないらしい。」
「そうなんだ。ねえ、一緒にい行こうよ、サンダー」
「そればかりは駄目じゃ。」
私はむくれて、プンプンモードだ。
「じゃあ~面談の時の、想定される質問と回答集を作ってよ。モゴルンにそれを覚えてもらって。何としてでも認めてもらいたいの!」
「わかった、わかった。作るから心配せんでも良いぞ。」
またその次の日。今日は体操の時間のあと、校庭の隅での報告会。
ソーハーが前のめりで話し出す。
「父さんの知り合いのシャドゥンで、昔、警察の捜査協力をしてくれてすごく助かったっていうシャドゥンがいて、年をとって今は隠居生活してて時間があるから、俺たちに協力してくれるんじゃないかって。すごく優秀だから聞いてみてくれるって。あと、サウンには、これまた優秀な若い警察官が護衛にしてくれるらしい。心強いよな~。」
ソーハーは珍しくニコニコしている。
「ありがとう、何から何まで。なんてお礼したら良いか。」
サウンはみんなにお辞儀をした。
「お礼は父さんに言ってくれ」
ソーハーは得意げだ。
だが、トリーは逆に浮かない顔だ。
「俺の方は、シャドゥンの知り合いはいないらしい。その前に、親が行くのを渋ってる。」
「さっきの父さんの知り合いのシャドゥンは、双子で、今どっちに頼むか迷ってるって言ってたから二人にお願いすることにしたらどうだろう?どっちかがダジンで、どっちかがドジンだ。」
「双子?面白いね。じゃあお願いするよ。親は何とか説き伏せるよ。」
「でも、反対してるなら無理して行かなくてもいいと思う。」
私は、ほんとにそう思って言った。。
「店番がいなくなると困るからだと思う。」
「いや、違うよ。ほんとに心配なんだよ。お母さんとかすごい心配性だろ?」
ソーハーは、いつもガミガミ怒っているトリーの母親を思い浮かべた。
「私の方はシャドゥンの変更はできなかった。でも、サンダーが警察の面談で予想される質問と回答集を作ってくれるって。だからそれを覚えてもらって、なんとか面談を乗り切るしかない!」
「お~~!!!」
最後はみんなで拳を空に突き上げた。
先ほどの双子のダジンとドジンは、事情を聞いて快く引き受けてくれたそうだ。
警察での面談の前に、それぞれのシャドゥンたちと顔合わせすることにした。場所は私の家で、それはもちろんサンダーがいるからだ。そのときに、ペカルという名前の若い警察官も来てくれた。
「引き受けてくださり、本当にありがとうございます。」
サウンは、ペカルに深々と頭を下げた。
「いえいえ、仕事ですから。それに、お世話になっているソーハーさんのためにお役にたちたいので。」
これまた爽やかな青年だ。
サウンの大きな目と違って、涼やかな切れ長の目だ。とても利発そうである。
優秀だという双子のダジンとドジンは、
「あなたの父上に頼まれました。昔、大変お世話になったので、今度は私たちがお手伝いさせてもらいますよ。ほんとは、のんびりしていたいとこじゃがね。はははっ、まあ、このままでは頭がボケそうなのでな、ちょうど良いかもしれんな。」
「よろしくお願いします。」
ソーハーとトリーも、これまた深々と頭を下げた。
ソーハーのお父さんは、とても人望があって、仕事ができる人なんだな。ソーハーもその血をちゃんと受け継いでいる。
「すいません、質問なんですが・・」
トリーが気まずそうにしている。
「双子ということで、あまりにも似ていてどちらか区別がつかないです。何か見分ける所とかありますか?」
「そうじゃな、わしの方が右の眼が大きいのじゃ。」
と、ダジンが自慢げに言う。じっくり見比べるても違いが判らない。
「えっと・・・」
トリーが困っていると、サンダーが
「後ろ髪を結んでいるのがダジンで、結んでないのがドジンということにしたらいいのではないか?」
と言って勝手に、ダジンの肩にかかるくらいの後ろ髪を紐で結んだ。
「おい、何をするんじゃ!」
怒りながら、紐をほどこうとすると、
「わーお!これで一目瞭然だ!」
トリーはスッキリした顔で言う。
「ほんとだ!あ、なんか右の目がより大きく見えます!」
珍しく、サウンが手を広げて笑顔でダジンを褒めた。そのお道化てみせる様を見て、私は思わず吹き出してしまった。
「なんだ、なんだ?」
子供たちが笑ってくれたのが嬉しかったのか、ダジンは恥ずかしそうな笑顔になる。
しかし、その後もトリーは目を輝かせて、ダジンを見つめていた。
「髪を結ぶとカッコよくなりますね!」
とトリーが言う。
「何を、お、お世辞を言うのじゃ。」
ダジンはますます恥ずかしそうにする。
「ほんとです!」
トリーは、直立不動で大きい声で答える。
「なら、わしも結ぶかのう。」
すかさずドジンが会話に入る。
「あ~それは駄目ですよ!」
「なんでじゃ!」
「ドジンは、そのままでカッコいいですって~。」
トリーは、大人げないこの双子に困惑気味だ。
「なんか変な感じになっとるな~。」
サンダーはブツブツ言う。
「サンダー、ありがとう。鮮やかに解決してくれて。」
私は感謝を伝えた。
そのサンダーが紹介してくれた、私のシャドゥンのモゴルンは、一人、面談での質問&回答集を一所懸命に覚えていた。確かに真面目だ。
今回一つ分かったことがある。「シャドゥン」ってみんな、同じような姿をしているのかと思ったら、サンダーもモゴルンもダジンとドジンも、姿はみな違うということだ。(双子は同じ容姿だが。)
シャドゥンの件は万事解決して、後は警察での面談となった。
警察に来たのは初めてである。石造りの二階建てで意外とこじんまりとしている。だが、敷地は、周りを歩くと一周するのに軽く5分はかかりそうな程の広さがあった。それは、警察の空を飛べる車が5台、そしてそれが離着陸する「カーポート」のスペースが広く取られているからだ。
一組ずつ個室に入っての面談となった。面談する人は、ルビー村の警察官長と、関係がありそうな、サウンが以前住んでいた町ゴダンの警察官長、サウンのお兄さんが住んでいる町カンネルの警察官長の3人だ。
「すごい、ちゃんとした人が来てくれてる。」
と感動していると、
「これは、サウンのためじゃ。お前らは認めてくれるかわからんぞ。」
付き添いで来てくれたサンダーが水を差す。
「意地悪~。」
またむくれそうになると、サウンがクスッと笑った。私は恥ずかしくなって思わずうつむく。
「サキミカなら大丈夫だよ。」
と優しく言ったので、パッと顔を上げてサウンを見る。
「うん、頑張る!!」
「単純だな。」
「だな。」
トリー、ソーハーまでが静かに悪態をつく。
まずは、サウンとペカルが呼ばれた。
残りの人たちは個室の隣の、少し大きい部屋で待つように言われた。椅子がたくさん整然と並べられていた。
サウンは、本人のお父さんを探すという目的がしっかりあり、警察官のぺガルが一緒に着いて行くということなので、あっさり認めてもらえた。
次は、問題が多分にありそうなトリーとダジンだ。ダジンはトリーを気に入ったらしく、いつの間にかトリーに付くことになっていた。そして、ご両親も同席する。父親は無表情だったが、母親は怒ったような顔をして、とても不満そうにしていた。
ぞろぞろと4人が部屋に入っていく。
そして・・・待てども待てども出て来ず。時々母親のヒステリックな声が聞こえてきた。が、トータル1時間でようやくドアが開いた。
「どうだった??」
私とソーハーは固唾をのんで、その結果を待つ。
「イエーイ!オッケイで~す!!!」
トリーは、喜びの小躍りをし始めた。クルクルっと回転して体をクネクネさせる。
「ええっ??」
驚いて思わず大きい声を出してしまった。
不満そうだったお母さんは、今は満面の笑みを浮かべている。
「トリーがね、学校を卒業したら、すぐにお店を継いでくれるって約束してくれたのよー」
お母さんも踊りだしそうだ。
「あんなに嫌がって、店番からいつも逃げてたのに。嘘ついたな。」
ソーハーは聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で呟いた。
「では、いったん休憩しましょう。この部屋で少しお待ち下さい。」
3人の警察官長は少し疲れてぐったりしているように見えた。
引き続き、この椅子しかない大きい部屋で待つことになった。
私たち4人はまた、部屋の隅に集まった。
「警察にはどうやって認めてもらったんだ?」
サウンが心配そうに聞く。
「それが・・・」
「まさか?」
ソーハーが嫌そうな顔をする。
「実はお兄さんを知っている、って言ったんだ!」
「え?うそ?」
そんな話初めて聞いた。すると、
「そう、うそです。テキトーなこと言ったー。」
消え入りそうな声でささやいた。続けて、
「試しに言ったら、みんな信じちゃってさー。」
クククッと小さく笑う。
「詐欺師めー!」
ソーハーは怒りで顔が沸騰しそうなほど赤くなっている。
「さすが商売人!って言ってくれよ。」
「何を言うか!!!」
ついに沸騰してしまった。爆発して、大声を出す。
すると、みんなこちらを振り返った。
「あ、何でもありません。ちょっと疲れていて。」
サウンが取り繕った。
こいつが言うこと、どこまで信じていいいのか?
「あ、お前たちには嘘言ってないから安心しろ!」
「何が、安心しろ、よ!」
信じられるか!
「俺だって会ったことないのにさ。」
サウンまでちょっとキレ気味だ。
ソーハーは無言になる。
「それより、母親が文句を言いまくってて、それで話が長くなってたから、店を継ぐって嘘ついたら、そしたら突然泣き出して、大騒ぎ!もうぐちゃぐちゃだよ。最後は、母さんも父さんも「よろしくお願いします。」って頭下げてさー。ダジンも呆れてた。まぁ、ダジンが顔馴染みで、信頼が厚いってのが一番の決め手かなー。」
「やはりそれも嘘か・・・」
ソーハーはもう「無」になっていた。
そして、面談が再開される。
次は私とモゴルンの番だ。サンダーも同席してくれた。
「君はどうして捜索活動に加わりたいのかな?」
こうなったら私も嘘をつくしかない!
「サウンは、私の恋人です!だから一緒に探したいんです!」
と言い放った。
みんな、一瞬時が止まったように茫然としている。
「そ、そうなのか?」
サンダーが一番驚いている。
ごめんなさい、嘘ついて。心の中で何度も誤った。
いや、全くの嘘ではないのでは?「そばにいて欲しい」って言われたし。
私は堂々とした、自身有りげな感じを醸し出した。
「そうか。でも、それだけじゃあな~」
と、ルビー村の警察官長は渋る。
「あ、でも、このモゴルンはとても信用できるやつなので安心できますぞ。」
サンダーが、援護射撃をした。
「では、あなたの特技は何ですか?」
カンネル町の警察官長が尋ねた。
「はい、私は力がとても強いです。この建物ぐらいの大きさの岩を持ち上げられます。もちろん飛ぶこともできます。」
模範回答だった。
が、それより、「もちろん飛ぶこともできます」とうい言葉に驚いた。
横に座っている、でかい、でっかいモゴルンを見上げた。
「もちろん」ってことは、シャドゥンはみんな飛べるってこと?でも、サンダーが飛んでるのを見たことがない。いつもせわしなく歩いているし。
頭がこんがらがってきた。
その後も警察官長の質問とモゴルンの回答は続いていたが、全く頭に入ってこなかった。それぐらい衝撃的だった。
「了解しました。では、認めましょう。」
という声が聞こえてきた。
モゴルンとサンダーが立ちあがったので、私も立ち上がる。
「ありがとうございます。」
3人で頭を下げた。
そして、部屋を出ると、突然ニヤニヤしてきた。
え~!!!モゴルンにつかまっていたら、空を飛べるの?超楽しそう!!!
ワクワクしてきた。早く乗りたい!!!
「おい、どういうことだ?サウンといつ恋人になったんだ!」
「今日。」
と、適当に答えて、
「早く早く!」
隣の部屋のドアを急いで開けて、
「イエーイ!!合格しました!」
と叫んだ。
「お~!!!」
歓声が上がる。
そして。モゴルンの方を振り返って、
「モゴルン、本当にありがとう。」
「いやいや、サキミカさんのお役に立ちたくて頑張りました。」
ちょっと照れながら答えた。
サウンが近寄って来て、
「どうやって認めてもらえたの?」
「うっ、」
言えない、これは。
「サンダーがやっぱり説き伏せてくれたんだろ?」
トリーが後ろから来て言った。
「ま、まあね。」
そして、ソーハーとドジンが呼ばれて、父親も部屋に入って行った。
「ソーハーはお父さんがいるから大丈夫でしょ」
自分の番が終わってホッとして、適当なことを言った。
「ドジンは小言が多いから余計なことを言わないといけど。」
トリーが心配そうに言った。
「人のこと言えないでしょ。」
「言ってないしー。いいかげんなこと言うなよ。」
「あっ」
向こうの方で、サンダーがサウンに話しかけてる。
まずい!嘘がばれる!
「待って待って!」
急いで止めに行くと、
「はい、サキミカは僕の恋人です。」
と堂々と言い放った。
「いつからなんだ?」
「先週?ぐらいからです。」
サンダーはこちらをじろっ見てから、
「サキミカは、君の恋人だから行くと言ったんだ。危険な目にあうかもしれん。君は責任をとれるのか?」
「ちょっと、何重いこと言ってるのよ!」
私は慌てて間に入る。
「もちろん責任とります。」
きっぱりと答えた。表情は清々しいものだった。
「それじゃあ、よろしく頼むよ。」
「わかました。」
サンダーが向こうに行ってから、二人の間には気まずい空気が流れた。
「ごめん、どうしても行きたくて嘘ついちゃった。」
うつむいて、声を絞り出した。
「うん、嘘だってすぐ分かった。」
サウンは苦笑いしている。
「ごめんなさい、嫌な気分したでしょ。」
申し訳ない気持ちでいっぱいになり、もう下を向くしかない。
サウンは、深呼吸した。
「じゃあ、これから本当に恋人になる?そしたら嘘にはならない。」
と力強く言った。
「えっ?」
意外すぎる答えが返ってきて、思わず顔を上げた。
サウンは、顔のコメカミのあたりを掻いて、口を一文字にして、少しだけうつむいていた。
それは、どういうことだ??
そして、サウンは私の目を見て
「嫌かな?」
「え、嫌じゃない、けど・・・」
「けど?」
そんなこと言われても困るよ。
そして。サウンが何か言おうとした瞬間、
「おーい、そこの2人!ソーハーが戻ってきたぞ!」
トリーが大声で呼ぶ。
びっくりして振り返った。
「は、はーい、今行きます!」
声が裏返る。
急いでソーハーのもとに駆け寄った。
「俺は父さんのからの推薦があったから楽勝だった。それにドジンも昔、捜査協力してたから信用されているし。」
ソーハーは、とても落ち着いていた。
「でも、年齢的にはかなりやばいらしいけど。すぐ疲れちゃうみたいで」
そこが気ががりだと話す。
「そしたら、ダジンもすぐ疲れちゃうのかな?」
トリーが怪訝な顔をする。
「ねえねえ、シャドゥンって、飛ぶ能力もあるみたいよ!」
私が先ほど仕入れた情報を、みんなに自慢げに明かす。
「え、マジで?」
トリーの良い反応に満足して、
「だってね、モゴルンが「もちろん飛ぶこともできます」と言ったんだよ!」
「でも、ダジンもドジンもご老体だから、もう飛べないんじゃないか?」
トリーは薄ら笑いを浮かべる。
「いや、それがな、飛ぶ方が楽なのじゃ。」
ビックリして声のする方を見ると、それは、ダジンもドジンだった。
「浮いているとみんなが驚いてしまうから歩いているんじゃが、最近は足が痛くて痛くて・・・」
「ずっと浮いていたいくらいじゃ。」
と、2人が言った。そして、
「ふっ!」
「ふっ!」
と、2人は力を入れると、なんと体が20センチくらい浮いた。
私より身長が低いこの2人の目線が私と同じになった。
「うわっ!」
思わずのけぞる。
「ほんとだ、すごいぜ!ダジン!」
トリーは熱い視線をダジンに向けた。
「すげー!!」
ソーハーは、鼻息荒く、興奮気味だ。
「このまま前にすっーと移動できるとか??」
サウンも、興味津々で聞く。
「上にもすっーと上って、山とか越えて飛んでいける?」
私も続ける。
「いや~空は無理じゃ。10分が限界じゃ。」
「年を取ってしまったからのー。」
2人はなぜか感慨深げだ。
「10分飛べれば良いじゃない?山とか飛び越えられるでしょ?」
私は希望を込めて聞く。
「10分じゃあ、山の頂上で飛行が終わるな。」
ダジンが言う。
「それ最悪だな。下山は自分の足で?登るより大変だって話だぜ。」
ソーハーはがっかりした。
「じゃあ、少なくとも森は越えられるでしょ?」
私は、サウンを探しにあの森を歩いた時を思い出した。変化がなく、すごく長い時間歩いた気がしたからだ。
「それは森の大きさによるな~。」
「そうじゃな~。」
そんな2人の様子をみて、私はだんだんイライラしてきて、
「なんでそんなに自信ないのよ!頑張って飛んでよ!」
と言い放った。
「お、お~頑張るぞ。」
「う、うむ、善処しよう。」
ダジンもドジンも少しだけ前向きに発言してくれた。
「そうよ、その勢いよ!元気出して!」
私がガッツポーズをする。
「また我がままを言いよって。」
サンダーが後ろで呟く。
そのまた後ろで、トリーとソーハー、サウンまでもが、苦笑いする。
「とにかくだ!全員が合格するとは思ってなかったよな!」
と、トリーが大声で言う。
「うん、捜索が難航してるから、警察も誰かの手を借りたいと思ったんじゃないのかな?僕は、協力してくれる仲間がいるのがとっても嬉しいよ、本当にありがとう。」
サウンが感謝の言葉を述べた。
みんな、その言葉を静かに聞いて、心にとどめた。
そして、ソーハーが笑顔でこう言った。
「今日は僕の家でお祝いしましょう!母がごちそう作ってくれるって言ってたので。」
ソーハーの家に着くと、ソーハーの母親の笑顔とご馳走がお出迎えしてくれた。
テーブルの上にはめったに食べられない「イノタム」という獣の肉を焼いたもの、グムグムの豆と山に生えている緑色のサッシユという草のサラダ、赤い色のコメのご飯などが並んでいた。私は嬉しくなって急いで手を洗い、席に着いた。
お腹が空いていたので満腹になるまでたくさん食べた。
大人たちは楽しそうに話していたが、私たちはひどく疲れていて、誰も一言もしゃべらなかった。
そのうち、眠気が襲ってきて、奥の部屋で横にならせてもらうことにした。
私はモゴルンの背中に乗って空を飛んでいた。
私の隣にはサウンも乗っていて、風がとても気持ちよくて、2人は笑いながら眼下に見える山々を見下ろしていた。すると、突然、目の前に石の壁が現れた。
「キャーーー」
ぶち当たった。
私たちは真っ逆さまに落ちて行って、
「あーーー!!!!!」
地面がもうそこまで来ていた。
「助けてーーーー!!!」
「あっ!!」
パッと目を見開くと、サウンが横たわっていた。
「サウン、大丈夫?ねえ、大丈夫?ねえ、ねえ!」
体を揺さぶった。
「うん?」
ぼんやりと目を開けた。
「良かった、私たち助かったのね。」
「何が?」
なぜか、サウンの向こうにトリーがいた。
「何おかしなこと言ってるんだ?」
え?周りを見ると、見覚えのある光景だ。
「ここは、ソーハーのお家?」
「そうだよ、なに寝ぼけてるんだよ。眠くなったからちょっと横にならせてもらったんだろ。」
そうか、夢だったのか、途中までは良い雰囲気だったな~。
突然、バンっと音がしてドアが開いた。ドアのところに、すごい鬼の形相の人が立っていた。
「あっ!」
トリーが飛び起きた。
誰だっけ?見たことがある。
「なんで私を連れて行かないのよ!」
トリーに詰め寄った。
「あ!あなたはフレイラね。」
「トリーの彼女だ。」
「わっ!」
気が付くと、私の顔の横でサウンがニコニコしながら、フレイラについての説明の重要な個所を付け加えた。
サウンが私を見て、笑っている。
「おい、何ぼーっとしてるんだ、サキミカ、フレイラを押さえろ!」
トリーはカバンで叩かれていた。
すると、フレイラは叩くのを止め、くるっと振り向き、私を見つけて、
「あなたね、サキミカさん、あなたはサウンの恋人だから付いて行くって、さっきおじさまたちが話してたわ。」
「恋人・・・あ、そうじゃないの、あれは口実・・」。
「あーーーそうだよ、僕の恋人だからね。」
サウンは焦っている。ドアのところにサンダーが立っていたからだ。
「何を騒いでいる?」
すると、フレイラは深呼吸してから、落ち着いた口調で、
「私はトリーの恋人です。サキミカさんがサウンさんの恋人だから付いて行くのが許されるのなら、私だってトリーに付いて行っても良いはずです。私はトリーと夏休み中会えないのは耐えられません。」
フレイラは、サンダーに、真剣な眼差しで訴えた。
「すごい愛の告白だ。至極まっとうな意見だ。」
サウンは感心しながらつぶやいた。
サンダーはしばらく考えてから、
「それは、サキミカには親がいないからじゃ。心配してくれる両親も兄弟もいないんじゃ。だからせめて寂しくないように、好きな人といることを許してやったのじゃ。君には立派な父上と母上がいるじゃないか。心配させては駄目だ。」
後で聞いたが、フレイラのご両親は夫婦ともに医者であった。兄と妹もいる。
すると、しくしくと泣き出した。
「トリーと離れたくない~。」
「ごめん、君を連れては行くことは出来ない。」
トリーはきっぱりと言った。
フレイラは、そこに座り込んでしばらく泣いていた。
「フレイラ、一緒に帰ろうか?」
私は、背中をさすりながら言った。
すると、顔を上げ、私のことを睨みつけて、
「やだ、トリーと帰る。」
そうして、トリーは、
「俺、フレイラを家に送ってから帰るから。」
と言って、私たちを見て、後ろ髪をひかれながら、ソーハーとご両親にお礼を言って帰って行った。
「それでは私たちも失礼します。ごちそうさまでした。」
トリーのご両親も帰って行った。
「あれ?モゴルンのとタジンさんとドジンさんは?」
サンダーに尋ねる。
「もうとっくに帰ったぞ。」
「ほんとに?あー、ちゃんとお礼を言ってなかった!」
「大丈夫じゃ。」
サンダーはにっこり笑った。
「わしらも帰るとするか。」
「わかった。あ、ねえ、サウンはどうするの?」
振り返ってサウンを見た。
「僕はソーハーの家に泊めてもらうことになってるんだ。」
「そっか。」
一緒に帰りたかったな、残念。
すると、サウンは笑顔で、
「僕もサキミカともっと一緒にいたいよ。」
うわっ、よくそんな恥ずかし気もなく、そんな言葉を言えるわね!もしかして、私の心は見透かされてる?だとしたら、からかわれている?
「あ、えっと・・」
「フレイラの気持ち、よくわかるんだ。僕も好きな人と一緒にいたいと思うから。僕は夏休み中サキミカと一緒にいられるから幸せだよ。」
どういう意味だろう?
私は、優しく微笑むサウンの目ををじっと見たが、何を考えてるのかさっぱり分からない。
「うおほん、ん、んーーーー。名残惜しいかもしれんが、私たちは家に帰るそ。」
サンダーが、帰る催促をしてきた。
「う、うん、それじゃあ、またね。」
「うん、じゃあまた。」
サウンは笑顔で手を振った。
私たちは、ソーハーとご両親にお礼を言ってから家を出た。
サウンはなんであんな落ち着いているんだろう?そういえば、テンパっているのを見たことがない。
あっ、そっか、私やトリー、ソーハーよりもだいぶ長く生きてるからだ。寿命が300年で、今の見た目が私の年齢と同じくらいだから、もう50年ぐらい生きてるってこと?中身は余裕のあるオジサマ?
そんなことをボンヤリ考えながらも、家に着いて、疲れてすぐに眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます