Secret Lifetime(シークレットライフタイム)

@kumetaro

第1話 大切な仲間

 ここは宇宙の、とある小さな星。地球にいる人間と似ている人、地球にある植物と似ている植物、そして、地球と同じ水がある。海の色は少し濃いコバルトブルーだ。この星の名前は、ルトー。ここにも、青春時代を熱く過ごす若者たちがいる。


 私は、ルトールビー学校に通う学生。年齢は17歳。

 朝、目覚めてピオーの実のジュースを飲んで一日が始まる。一緒に住んでいる仙人みたいな姿のサンダーに挨拶をして学校に行く。今日も学校で憧れの彼に会えると思うとウキウキして、楽しみで、スキップをする。

 ルトールビー学校は、8歳から18歳までが通う。言葉やこの星の歴史、科学を学べる。低学年は2歳ごとに1クラス、16歳からは年齢ごとに、全部で7クラスある。1クラスあたり約25人いる。


 普段より早く着いたので教室にはまだ誰もいなかった。と、そこに静かにソーハーが入ってきた。

「おはよー。」

 ソーハーは、口数が少ないので周りからは何を考えているか分からないと言われている。でもとても冷静で頭がキレる。私が、分からなくてパニックになって助けを求めると、いつも適格に応えてくれる。ほんとは優しくて頼りになるのだ。

「早く来ちゃったぜ~!フーッ!!」

 うるさいのが来た。名前は、トリー。いつも謎な動きをして、四六時中何か話している。騒がしくて、必要以上の怖がりだ。でも、やはり私が困っていると必ず相談にのってくれる、優しいやつだ。

 そしてそして、遅刻ぎりぎりで爽やかに教室に駆け込んできたのが、サウン。私の憧れの人である。目の保養、とにかく顔が美しい。彼はずっと長い間若いままだ。彼の血筋は寿命が300歳。そのおかげで若くて美しい美貌が続くので私はとても嬉しい!!まだ中身も若者のはずだが、いつもとても落ち着いている。時々遠い目をして空を見ていたりして。彼が何歳なのかは知らないままだ。

 

 ソーハーとトリーは幼なじみだが、サウンは、2か月前に隣の町から転校して来たのだ。サウン一家がうちに挨拶に来た時、両親と彼の3人家族と言っていた。彼の話では、彼の父親は現在120歳。母親はとても奇麗な人で、ありがとう!お母さま!といつも感謝している。

 このソーハー、トリー。サウンが私の大事な友達。で、肝心な私はと言うと、名前はサキミカ。性格はとても普通。でも、ミーハーな面があるのは自覚している。しかし、先の3人が言うには、時々突拍子もないことを言ったり変な行動をとったりして困ることが多いとか何とか。。でも、それは自覚していない。


 寿命の話が出てきたが、この星は昔から、それぞれの血筋で寿命が決っまていて、違う血筋同士が結婚するのは禁じられている。なので寿命が同じもの同士が集まり、村を、町を作り、それぞれで栄えてきた。

 このルビー村は、寿命が50歳。ソーハー、トリー、私も皆50歳までに生涯を終える。私の両親はすでに亡くなってしまい、その場合、妖術を持つといわれる「シャドゥン」という謎の生き物が保護者になってくれるという習わしだ。私の保護者のシャドゥンは、前述したサンダーである。妖術を使うというので恐ろしいと思っていたが、いつも冗談を言ってふざけていて、私にとっては、ただのうっとおしい「おじいちゃん」だ。

 なので、サウン一家が引っ越してきたのは異例中の異例らしい。何か事情があるという話を聞いた。


 しかし、私たちはまだまだ子供。そんなの気にせず好きなことをやるのみ!

 ということで、学校帰りにいつもの友達3人とお菓子屋に行き、それぞれ好きなお菓子を買って食べて楽しむのが日課。

「やばい、親が来る!」

 突然大きい声を出すのでびっくりしてトリーの視線の先を見ると、確かに向こうの樹の方からトリーの母親が鬼の形相でこちらに向かって来る。

 彼の家は靴屋である。

 

 この星のファッションは、地球のアジア圏によくある、布を体に巻き付けて腰で止める形の「キサラ」という名前の服が一般的だ。下には動きやすいようにズボンを履く。私は緑の布の上に小さな鳥の絵が沢山ちりばめられている柄が好きだ。トリーは水色のがお気に入りのようでよく着ている。ソーハーは黒、サウンは紫だ。

 それで、靴はブーツ型だ。これもまた色とりどり、柄も豊富。


 トリーは店番を頼まれていたのを、どうやら忘れていたようだ。慌てて帰る。そして、気が付くとソーハーがいなくなっていた。

 なんと、サウンと二人きりになってしまったのだ。私は突然ものすごく恥ずかしくなった。

 サウンは私よりかなり背が高く、下から見上げると、そこには奇麗な曲線を描いた顎がある。その先にあるのは大きな瞳と小さな口、鼻も高く、絶妙にバランスが整った顔だ。髪は薄い茶色で、程よい長さでさらさらと風に吹かれ、良い香りがしてくる。とにかく、とてつもなく美しいのである。そして、私を見下ろす表情は、時に妖艶で、時に無邪気な笑顔で、いつも、うっとりと見とれてしまうのだ。

 だが、突如2人きりになり動揺を隠せない。なので、見つめられたりしたらどうしたら良いかわからなくなりそうで、目を合わせないようにしているが、サウンはお構いなく話しかけてくる。隣同士、椅子に座っているが、前を向き絶対に横を向かないようにしている。もうすでに顔を首も真っ赤になりそうだ。そうして石のように体が固まってしまった。


 サウンが越して来た時は。学校中の女子が彼を好きになった。性格も穏やかで優しい。もちろんユーモアも持ち合わせている。なぜ私が彼と友達になれたかというと、ただ席が隣だったからだ。あと、うるさいトリーがやたらと話しかけていたので、なんとなく話すようになった。


「どうしたの?疲れた?」

 ますます顔を近づけてくるので、私はとっさに立ち上がった。

「帰ろう!」

 これ以上は無理!心臓が爆発しそうだ。

「うん。でも、帰りにピオーの実を買いたいから付き合ってよ。」

 サウンのやつ、まだ私を苦しめようとしている。が、半分は嬉しくてついニヤニヤしてしまう。サウンの隣を緊張しながら歩き、果物屋では、真剣にピオーの実を選ぶ横顔を、やっぱり見とれてしまうのだ。


 この星では、好きと告白する時に、シャドゥンが育てているエメラルドグリーンの「マズナ」という名前の花を渡すと、その人と永遠に結ばれるという噂がある。だが、その花はどこかの森の中のどこかにあるという曖昧さで、見た人は周りにいなかった(サンダーも見たことがないらしい?)。どうにも信じらるものではないが、もし、サウンへの憧れの気持ちが、「好き」という気持ちに変化したら、そしていつか見つけることが出来たら渡したいと思う。


 その夜、幸せな気持ちで眠りについていると、なにやら玄関のあたりが騒がしいい。

「うちには来てませんよ。」

 サンダーがサウンの母親に答えていた。母親が帰った後にサンダーに尋ねると、サウンの父親が居なくなったという。私はとてもじゃないが眠れる気分じゃなくなった。

 だが、無情にもあっさり眠りについてしまった。朝起きてから自分の薄情さに腹がたった。サウンは父親が消えてしまい、どんなに不安になっているか、その気持ちは計り知れない。


 次の日、サウンは学校に来なかった。気分が沈んでくるのが自分でもわかる。

「サウンが居ない。私は何を楽しみにすればいいの?」

 心の声が出てしまった。

 トリーは呆れた顔をしながらも有力な情報を与えてくれた。

「サウンは、お父さんを探しに、お母さんと出かけたんだよ。うちの父親が話してた」

「ねえ、私たちも探しに行かない?」

「どこを?手がかりも無いのに」

 トリーの表情は真顔になり、うなだれた。

「いや、手がかりはある。」

 突然ソーハーが会話に入る。

「サウンのお父さんは、昔、隣町の女の人と結婚して子供ができたって。他の血筋との結婚は禁じられているのに。その母親は子供を産んで間もなく亡くなって、その子供はまだその街に住んでいるらしい。だから、サウンのお父さんはその子に会いに行ったんじゃないかな?」

 どうやらソーハーの家にもサウンの母親が来たようで、親たちがそんなようなことを話しているのが聞こえたらしい。

「その町はどこのあるの?」

「2つ隣のカンネルという町。」

「行こう!探しに!!」

「そうだな、明日はちょうど学校休みだ!」

「行くぞ!」


 トリーとソーハーと私は、みんなの家の近くの公園に集まった。

カンネル町は森を通って、歩くと3時間はかかるらしい。

 まずは、ソーハーが地図を広げて、方位磁石を置いて何やら印をつけている。最短ルートを行こうとしている。

 次に、持ち物の確認をする。

「水筒は持ってきたか?」

 ソーハーは、水筒を見せる。

「持ってきたよ!お金も持ってきた!店番で稼いだ100ぺセル。」

 とトリー。

「水筒持ってきたよ!でも、ごめんなさい、私お金持ってなくて。」

 貯金箱には本当に無かった

 ぺセルはお金の単位だ。トリーのお店の靴は、3000ぺセルあれば手に入る。

「サキミカ、なんで無いんだよ~ちゃんと貯金しておかないとダメじゃん。」

 トリーは、冷たく言う。嫌な言い方だ。

「でも、お菓子を持ってきたんだ!そんな意地悪言うなら、絶対、お菓子あげないからね!」

 と自信満々に言ってみせる。

「お菓子ならこのお金で買うから。大丈夫でーす。」

「なんですって?」

 私たちは、お互い睨みあう。

 トリーのやつ、本当にムカつく!何か言い返したかったが、サウンのためと、わき上がる暴言をゴクッと飲み込んだ。

「やれやれ、早く行くぞ!」

 ソーハーはブツブツ文句を言いながら森の中に入る。どんどんつき進む。


 朝早く出かけて夜になる前に戻ってくる計画だ。

 森の中は、薄暗く、どこからか鳥の鳴き声がいくつも聞こえてきた。夜になったらどんなに恐ろしいだろうか。

 でも、1人だと怖いけど、この2人がいれば安心だ。


 私が幼い時、学校の体操の授業中に気持ち悪くなり、トイレまで間に合わず木の植え込みに吐いてしまったことがある。みんな気味悪そうに遠巻きに見ている中、ソーハーは背中をさすってくれ、トリーはハンカチを貸してくれた。私はそのハンカチで口を塞ぎ、吐き気を我慢した。

 そして、先生に保健室まで連れられて行くときも、2人は心配してついた来てくれた。私は恥ずかしかったけど、どこか安心感を感じた記憶がある。

 その時から2人とは友達になり、私にとって大切な存在になった。

 何があってもこの2人は親身になってくれる。私には両親がいないので辛いことは沢山あり泣いてしまう時もある。そんなとき、2人は何も言わず、ただそばにいてくれて、見守ってくれる。もちろん、悪いことしたら怒るけど・・・。

 普段は、トリーはうるさくて余計なことばかり言ってくるし、ソーハーは逆にあまりしゃべらなくて態度も冷たい。

 

 でも、今日のソーハーは率先してリーダーになってくれ、抜かりなく指示を出す。サウン捜索計画を遂行しようとしてくれてる。トリーもいつになく真剣な眼差しだ。


 やっと、「ゴタン」と言う隣町に到着した。ここはサウンが住んでいた町だ。

 当然ながら初めて来たわけだが、自分の町よりは栄えてない気がしたし、道行く人々は心なしか元気がないように見えた。


 すぐ近くにあった氷屋のお店で、聞き込み開始。

 恐る恐る中に入ると、おじさんが1人、つまらなそうに小さい腰掛椅子に座っていた。氷はどこにあるのだろう?

 「サウンという少年を知っていますか?」

 ソーハーがすぐに尋ねた。

 ずいぶん直球な質問の仕方で性急だなと思ったが、それよりも早く知りたい気持ちの方が勝っていた。

 不審な顔をしつつ答えてくれる。

「あ~あの子ね。う~ん、君たちはサウンとはどういう関係なのかな?」

「友達です。隣村のルビーから来ました。訳あってサウンとその両親を探しているんです。」

 間髪入れずにソーハーは言った。

 ここはソーハーに任せようと思った。トリーを見ると同じ気持ちだったのか、口をつぐんだままだ。

「サウン家族3人をか?」

「はい。」

「いなくなったのか?」

「はい。」

「そうかそうか・・・」

ふむふむと考えこんでいたが、大きく頷いた後、重い口を開いた。

「サウンのお父さんだが、昔、隣町のカンネルに住む娘と結婚したんだ。掟を破った罪でここに居られなくなったんだ。」

 違う血筋の人と結婚してはいけない掟である。ソーハーが言ってたとおりだ。

「その後はカンネル町へ移り住んだが、すぐに戻ってきた。妻がすぐに亡くなってしまったそうだ。それで、この町のシュリと結婚して、そして産まれたのがサウンだ。美しい子だ。うーん、この町に来たという噂はないが、あと、行く当てがあるとしたら、そのカンネル町かもしれんな。」

 これまた。ソーハーの情報が正しかった。

 だが、肝心の聞きたいことがあった。

「カンネル町の奥さんのとの間にお子さんはいらっしゃいますか?」

 私は思わず大きい声で質問してしまった。

「そこまでは分からないな~」

 本当に知らなさそうだ。

 ソーハーの言っていた「子供」のことがなぜか気になっていたが、その前に、いるかどうかも分からなくなった。

 そして、ソーハーは私たちをちらっと見てから、

「ありがとうございました。これからカンネル町に行ってみます。」

 と、あっさり引き下がった。

 おじさんは、私たち1人1人をじっくり見て、にっこり微笑んで、

「君たちは本当にサウンが心配なんだね。そうだ、昔、カンネル町のサウンのお父さんが住んでいた地域を知っているから教えてあげよう。何か手がかりがあるかもしれない。」

 そこは、近くに森があり、三角屋根のとても目立つ塔があるそうだ。塔の一番上からは水色の炎が出ているらしい。水色の炎なんて!なんて素敵なの!!ワクワクしてきた 。


 私たちは、おじさんに丁寧に頭を下げ、感謝の言葉を伝え、お店を出た。

「目的地は北東の方角だ。」

 ソーハーは方位磁石を地図に置いて、ルートの変更をする。

「こっちだ。」

 またしても、ソーハーはずんずんと道を突き進む。この町は広いのか、お店も家もまばらに立っていて密集していない。どこのお店も、やはりどこか活気がない。

 私たちは疲れてきて無言になり、しばらくは、ただただ歩いていた。


「寿命が300年だと、、時間がゆっくり流れているのかな?なんか、歩いている人、みんな急いでない感じだし。」

 珍しくトリーがまともなことを言ったので、ソーハーがびっくりして振り返った。

「確かに。寿命が長いとそんなに急がなくて良さそうだよね。のんびりと生きれる。でも、長すぎて疲れそうだけど。」

 私は、素直にそう思った。

「さっきのおじさんみたいに、ぼんやりしちゃうのかな?」

 何が面白いのか、トリーはヒヒヒッと笑った。

「つまらなそうだったよね。」

 さっきの光景を思い出す。腰かけていた椅子はひどくくたびれている感じだった。

 そういえば、氷はどこにあったのだろう。店の奥かな?

 そんなどうでも良いことを考えていると、ついに森にぶち当たった。


「この森を抜けたら、水色の炎の塔があるはず。」

と、ソーハーが言うと、

「その炎は俺のこの服の水色と似た色かな?」 

 トリーはお気に入りの水色の服を着ていて、くるりとバレリーナのように回転してみせた。上着の裾がひらひらと風のように舞う。

「僕の靴は黒だから汚れが分からないけど、サキミカはオレンジだから汚れが目立つよ。黒にしなよ。安くするよ~」

 こんなところに来ても営業努力は忘れない。

「分かった!帰ったら良いの見繕ってちょうだい。」

「了解!」

いつものムカつくニンマリ笑顔である。


 森に入り、またしばらく無言になる。元気づけようと何か話してみる。

「炎の大きさはどれぐらいだろう?」

「キャンプファイヤーの炎くらい?」

「そんな大きな炎だったら塔が燃えてしまうよ。」

「石でできてれば燃えないよ。」

「ずっと燃えてるんだぞ、いつか燃えるさ。」

「熱くて近づけないよー」

 歩くのは辛くなってきたが、そんな他愛ないおしゃべりをしながらも、未知のものに出会う時のワクワク感があった。


「もう少しで森が終わりそうなんだけど・・・」

ソーハーが自信なさそうに言う。

「ちょっと座って休憩する?もう一度地図を確認しよう。」

 私は提案してみる。

「そうだな。」

 ソーハーが納得してくれた。

「あそこの岩はどう?ゴツゴツしてるけど。」

「お~良いね~」

 トリーは走り出す。そして岩をガシガシ登る。どこにそんな体力が残ってたのかしら。

「イエ~イ!一番乗り!どこの岩にしようかな~。」

 岩の頂上まできて自慢げにしてみせる。そうしてあたりを見回している。

 と、何かを見つけたのか、ピタリと動きが止まった。くるっと振り向く。こちらに向ける顔は、目も口をあんぐり開いている。

「どうしたの?」

 あんぐりのまま何もしゃべらない。

 私たちも急いで岩を登り、頂上までたどり着いた。

「あっ!」

 私は目を見張った。

 なんと、ここから少し離れたところに、シャドゥンが育てているといわれる、噂のエメラルドグリーンの「マズナ」という花が一面に広がっていたのだ。

「え、え?エメラルドグリーンのお花畑じゃない?」

「まじか。」

 ソーハーも絶句しているようだ。


 そして何かを見つけた。

「あれ?あそこに誰か寝てる?」

「え?どこどこ?あ、あれは寝てるんじゃなくて倒れているんじゃない?」

 その花畑のところに誰かが倒れていた。

 3人は何も言わなかったが、全員、岩に足を取られながらも慎重に駆け下りていた。そうして、草が生い茂るのところまで降りてきてからは、走った。運動会でもこんなに必死に走らない私が懸命に走った。トリーもソーハーもいつもより早く走っていた。

 そして、エメラルドグリーンの花畑まで来た。その花は思ったより背丈があり、私の膝の少し上程にあった。踏みつぶさないように一歩一歩かき分けながら進む。

「大丈夫ですか??」

 一番にたどり着いたのは、やはりまたトリーである。

 そこに横たわっていたのは、見覚えのある姿だった

「あれ?サウンだ。」

 え?え?ええ?なんでこんなところにいるの?なんで1人でいるの?お母さんと一緒じゃないの?

 頭の中は、思考がごちゃごちゃしてて何がなんだかわからなくなり、気づいたら尻もちをついていた。

 トリーは恐る恐る肩を叩いた。

「お~い、生きてるよな~お~い」

「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよね。」

 ソーハーは口元に耳を近づける

「息がある。サウン、サウン、サウン!」

「サウン起きて!サウン、サウン、サウン!!」

「おい、こんなとこで寝てんじゃねーぞ!」

 3人は耳元で叫び始めた。

 すると、バチっとサウンの目が見開いた。

「あーーーやった、やったー!」

 ハイタッチをお互いしてから、目をこらしてサウンの状態を見る。


「なんで皆ここにいるの?ここはずいぶん明るいけど天国じゃないよね?」

「何言ってんだっ」

 トリーがすかさず突っ込む。

「どこか痛いところある?」

 見たところは変化無いように見える。

「う~ん、無いみたいだけど、でもすごく眠い。」

「どうしてここに来たの?」

「そういえば、母と一緒にここまで歩いてきて・・・突然眠くなって。」

「お母さんはどこに行ったの?」

「サキミカ!質問しすぎ。サウンが困るだろ。」

 ソーハーに怒られた。

「ごめん、そうだよね。」

 サウンは本当に眠そうで、大きい目の半分に瞼が覆いかぶさっている。 


 トリーがゆっくりと状態を起こして座らせた。

「立てる?」

「ごめん、まだ無理そうだ。」

 ソーハーはしばらく考えて

「お母さんを探したいけど、どこにいるかわからないし、一度家に帰った方がいい。」

「でも、母を探さないと、僕が探すから、みんな帰って良いよ。」

「おい、何言ってんだよ、ほんとに!サウンを一人置いて帰れるわけないだろう!!でも、どうやって帰る?」

 トリーは、そう言ったもののどうしたら良いか分からず、、ソーハーを見た。

「うん、親父に頼んでみるよ。」

 ソーハーの父は、ルビー村の警察官だ。

「俺たち子供じゃどうにもならないだろう?さっきのゴダン町まで引き返して、電話をどこかで借りて、親父に迎えに来てもらおう。」

「了解!サウンは俺がおんぶするから安心しろ。」

 トリーは、自分の胸をポンッと叩いた。

「途中で代わるよ。交代しながら、おんぶしょう!」

 ソーハーも、同じく、自分の胸をポンッと叩いた。

「私は・・・無理そうだから荷物を持つね。」

 2人は最初から私のことはカウントに入れてなかったので、フッと笑った。

「お前が怪力だったら考えたがな。」

 私はか弱い乙女じゃないが、サウンは私よりだいぶ大きいのでさすがに無理だ。


 そうして、トリーがサウンをおんぶしてゆっくり歩く。

「そういえば、さっきのあのエメラルドグリーンの花って、告白の時に渡すと上手くいくって噂の花よね?」

 ふと、あの花を思い出した。そういえば、花なのに香りがしなかった。

「誰か渡したい奴がいるのか?」

 トリーが意地悪く言った。

「そんな、い、いるわけないじゃん!」

 サウンがぼんやり私を見てる。

「ふ~ん、そうなんだ。」

 何かを含んだ嫌な笑いを見せた。

「摘んでくれば良かったじゃん。」

「何言ってんのよ。それどころじゃないでしょ。」

「残念だったな~。」

「ちょっと何が言いたいのよ。」

 サウンはまだ私を見ている。

 いつかサウンに告白する時がくるかもしれないが、今のところ、私のはただのミーハーだ。

「今度は俺が。」

 ソーハーがおんぶを代わった。

「もう少しで町に着く、頑張ろう。」


 程なくしてゴダン町に着いた。一番近くある、服屋にトリーが入っていった。

「すみません、病人がいて、電話をお借りしたいんです。」

「病人だって?大変じゃないか。外にいるのかい?」

 おばさんが急ぎ足でバタバタと店から出てきた。

 ソーハーが続けて話す。

「はい、親に迎えに来てもらおうと思って、お電話をお借りしたいのです。あと、迎えが来るまで椅子をお借りしたいんです。」

 おばさんがサウンを見つけて、

「あら、サウンじゃないか!久しぶりだね~。」

「お久しぶりです。すみません、タスクさん」

 おばさんの名前を知ってるぐらい親しいようだ。

 おばさんの表情はみるみる崩れていってデレデレになる。

「ほらほら、中の椅子に座って。今、冷たい飲み物を持ってくるからね。」

 中は所せましに「キサラ」がハンガーにかかっている。老人が好みそうな地味な色あいの服ばかりだ。

「椅子って一つだけかよ。チェッ、顔が良い男は得だよな。」

 トリーは悪態をつく。

「違うでしょ、病人だからよ。私たちはその辺に腰かけよう。」

 ソーハーが奥にある電話で話している。

 サウンは目を閉じている。


 サウンに何があったんだろう。。

 父親がいなくなって、次に母親までいなくなって。どれだけ心細いだろう。私も両親がいないので寂しく思う日があるけど、もう亡くなっている事実は変わらないし、どうにもならないことだって理解している。それに、悲しくなったとしても私にはサンダーがいる。いつも寂しさを埋めてくれるように、おいしい料理を作ってくれ、面白い話を聞かせてくれ、笑わせてくれる。

 ソーハーが戻ってきた。

「父が捜索届を出してくれるって。他の町にもお願いするそうだ。父が迎えに来るよ。でも、あと30分ぐらいかかるだろうって。」

 その言葉を聞いて、サウンは少し安心したようだ。

「今日は俺のうちに泊まれよ。」

 ソーハーもホッとしたように笑顔になる。

「ありがとう。」

「当たり前だ。」

 ぶっきらぼうに言って、そっぽを向く。

 こういうソーハーの男前なところは、かっこいい。


 向こうの空から警察の車がやってきた。車というか飛行体だ。空を飛べる車は警察官だけが乗れる。車体の後ろに太い管が2本あり、そこから火が出て、それで飛べるらしい。

「気持ち悪くないか?」

 ソーハーの父は、角ばった帽子をかぶり、マントを羽織っている。警察官の制服の姿だった。

「家に着いたら父さんも捜索にいくからな。」

 ソーハーは頷いた。

 気が付くと、もう辺りは薄暗くなっていた。

 良かった。あのまま森にいたらどんなに怖かっただろうか。


 15分ほどでソーハーの家に到着した。

 サウンは立ち上がって、私たちにお礼を言う。

「今日は、ありがとう。探しにきてくれて、本当にありがとう。」

「ううん、ゆっくり休んで。」

 私は、微笑んだ。

「明日また来るから。ちゃんと休んで元気になっておけよ!」

 トリーは元気づけようと、明るく振る舞う。

「分かった。」

 やっとサウンの笑顔が見れた。でも、ひどく疲れているようにみえる。

 ソーハーの父は、

「サウンと母さんをよろしくな。」

 と言って、また車に乗って、出て行った。

「じゃあな。」

「任せたぞ、ソーハー。」

「ソーハー、明日また来るからね。」


 私とトリーは一緒に帰った。

「何があったんだろうな。」

「うん・・・」

「お前はいつサウンに告白するんだ?」

 いきなり突拍子もない質問をしてきた。

「え?何が?そんなのするわないじゃん。」

「なんだよ、あの服屋で二人きりにしてやったろ。」

 確かに途中でトリーがいなくなっていた。前は二人きりにになると緊張で落ち着きがなくなっていたが、さっきは、サウンは目を閉じていたし、心配な気持ちでいっぱいだったから、

「なんでそうなるの?おかしいよね。サウンが大変な時に。」

「いや~そうかな、俺だったら辛い時に優しくされて、しかも好きな子に告白されたら超気分上がりそうだけどな。私あなたが好きなの!!私もあたなと一緒に頑張るわ!とか言って!」

「うわーさむすぎる!あんたってそんな単純なんだ。」

 すごく軽い。トリーらしいけど。

「ていうかその前に、なんでサウンが私を好きって思うの?」

「そんなの見てればわかるさ。ハートマークがいつも見えるから。俺もフレイラといるとハートマークが見えちゃう!フフフッ。」

「なにそれ、最後はのろけか!ハートが見えるとか訳わかんない。」

 フレイラとはトリーの彼女だ。

「でも、私のこと好きじゃないと、ただの迷惑だよ。」

「だから、サウンはお前のこと好きだって。」

 何テキトーなこと言ってんだ、こいつは。

「告白待ってると思うぜ?」

「だいたい、私はサウンのこと好きじゃないわ!私のはただの憧れよ。」

「だから、その憧れから発展してさ。」

「それは正直分かんないけど。でも、なんかいつも落ち着いてるし。優しいけど、ほんとは何考えてるかわからない。」

「まだ知りあって2ヶ月しかたってないんだから当たり前だろ。」

「まぁそうだけど。」

「デートしていろいろ知っていけばいいじゃん。」

「その前にデートしてくれるかな?」

「してくれるって、あいつ優しいじゃんか。」

「でも、しかたなくのデートは嫌っ。」

「しかたなくじゃないって。」

 そんな妄想の話をしながら、ダラダラと歩いた。


 家に戻ると、サンダーが駆け寄ってきた。

「心配したよ!暗くなっても帰ってこないから!近所いろいろ探しても見つからないから、警察に捜索を依頼しょうかと思ったぞ!そしたらソーハーさんから連絡があって。ほんとに無事で良かった。」

 今にも泣きだしそうだ。

「ごめんなさい」

 こんなに心配してくれていたなんて、申し訳ない気持ちになった。あ~あの時私も電話しておけば良かったかな。


 次の日の朝、私はいつもより緊張しながらソーハーの家に向かっていた。

 トリーが昨日変なことをいうから、サウンの顔を見たら挙動不審になりそうだ。

 だが、事態は大変なことになっていた。

 家には、ソーハーとその両親、トリーと母親、私と、あと学校の校長先生も来ていた。

 サウンの母親が、話で聞いた水色の炎のある塔の前で倒れていたそうだ。病院に運ばれたが、今は意識が戻っているようだ。

 そして、サウンは睡眠薬を飲まされていたようだ。私たち3人が休憩しようとしたあの岩場で飲まされていたようだ。

 それができるのは、あの母親しかいない。

「何でそんなことするのかな?」

「僕が無理やり着いて行ったから、邪魔になったのかも。」

「そんなわけないじゃん。」

 私は怒る気持ちが強くなった。

「僕には兄がいるんだ。母親が違うんだけど。前に母から聞いて、その兄がカンネル町からいなくなったんだ。だから、父は兄を探しに行ったんだと思う。」

「だからって家族に何も言わずに勝手に行くっていうのはどうなのかしら。」

 トリーの母親が言った。表情は険しかった。

「母親が子供に睡眠薬を飲ませるなんて尋常じゃないわ。」

 ソーハーの母親は、かなり怒っていた。

「母は・・・いつも寂しそうだったんです。父は亡くなった前の奥さんのことが忘れられなくて、母はそんな父を想い続けていて。2人とも僕のことにはあまり関心がないんです。」

 その場の雰囲気が怒りから悲しみに変わった。

「すみません、どうしても思ってしまうんです、僕は産まれない方が良かったって、生きてても意味ないって。こんなこと考えるのは間違ってるって、頭では分かっているんです。」

「意味はあるわ!サウンは私の憧れよ!わたしにとっては、とっても必要な存在なの!」

 咄嗟に出た言葉が、重い空気を一転、おかしな雰囲気に変えた。

「ごめんなさい、今の違ってた。」

 皆、苦笑した。恥ずかしくて消え入りたいと思ったが、サウンだけは私を真剣に見つめてくれた。

「ごめんね、変なこと言って。」

「変じゃないよ。とっても嬉しいよ。サキミカはいつも明るいから、僕はいつも元気づけられる。」

「良かった。」

 そうして、その場のみんなが笑顔になった。私は、自分がサウンを元気づけていたことが、ただ嬉しかった。


 ひとまず、お昼ご飯を頂くことになり、ソーハーのお母さんの料理の準備を手伝っていると、窓のところで物思いにふけるサウンがいる。

「どうしたの?」

「さっきはありがとう。僕の味方になってくれて。サキミカは一緒のいると楽しい。最近よくサキミカのこと考えるよ。今何してるかな?寂しくしてないかなって。」

 そんな、考えてくれてたなんて、それだけで嬉しい。

「僕にとっても必要な存在なんだと思う。一緒にいたいと思う。そばにいて欲しいと思う。」

「う、うん。」

 サウンは、聞いてるこっちが恥ずかしくなるような言葉を言うから、ドキドキして顔が沸騰しそうなくらい熱くなった。

 でも、何か思い描いてた雰囲気じゃないのは何でだろう。

 トリーとフレイラのバカップルが醸し出す幸せオーラとは違う。トリーの軽いノリではない、何かもっと重みがある感じ。

 サウンはちゃんと私自身を見てくれて、内面を良いと思ってくれているのだ。

 私は、サウンの外見しか見ていなかった。見た目だけに憧れていた。性格は「優しい」だけで、あとは何もわからないし、知ろうともしていなかった。これからは内面の良い面も悪い面も知っていきたいと思った。


 昼食が終わったところで、また話し合いが始まろうとしている。食べた後で皆少し眠そうにしていた。

 そのまったりした空気を打ち破るように、サウンが強い口調で言った。

「あの、僕から意見があります。来週から学校が夏休みになるので、僕も父の捜索に加わりたいです。」

「それはどうだろうか、君はまだ子供だしな。」

 ソーハーの父親が答えた。

「僕には捜索する権利があります。家でじっとしたまま帰りを待つことはできません。僕も警察の車に乗せてください。」

「駄目だ、きみのお父さんが何かの事件に巻き込まれたとしたら、君を危険な目に合わせることはできない。」

 大人たちはみんな反対した。

 すると、ソーハーの父親は、

「これから、お母さんの入院している病院に行こう。何か分かることがあるかもしれない。」

 と提案してくれた。彼の切実な思いを無下にすることが出来なかったのだ。

 そのまま話し合いは終わってしまった。サウンはソーハーの父親と病院へと向かった。その後も大人たちは話し合うそうで、私とトリーは家に帰れと言われた。

 ソーハーは、

「途中まで送る。」

 と言って、家を出た。


 帰り道、トボトボと歩いていると、トリーが提案した。

「大人たちは絶対ダメだって言うけど、内緒で俺たちだけで探しに行かないか?」

「俺も同じことを考えてた。」

 ソーハーが同意する。

「私は親がいないから良いけど、あなたたちは両親が心配するから駄目よ。」

「じゃあ、このまま何もしない気か?」

 トリーはいつになく真剣だ。

「そうだよね、ちょっとサンダーに相談してみる。」

「頼んだぞ。」

 ソーハーは力強く言った。

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