九、夢の中の、神様のお告げ
「……失礼します」
主様は、数が少なくなった使用人たちとお話をされていた。歌のやつは終わったらしい。
「おかえり。
その一言だけだった。意外とあっさり。でも、その一言がすっごくあたたかかった。冬の
皆が集まっているところに、近づく。でも、一番、後ろの方に座った。
「
主様は、すぐに声をかけてくださった。使用人たちのユウを見る目も、ゆるくて、あたたかなものだった。安心したユウも、すぐさま、主様のそばに座った。ちょっと、
浴衣姿で、今日も変わらずまんまるに光る、お月を見上げている。ユウの想いは、変わらない。変わることのない想いが、石みたいにカチコチで、重たくなる。それがユウを苦しめる。ずっとずっと、こんな苦しい思いを抱えたまま、ずっと、このままが続くのか。きっつい。
コン、コン。
「失礼します」
主様だ。瞳だけでなくて、声までもが、
「
細く鋭い、
「昼間、大丈夫だった?」
「……はい。すみません、勝手に抜けてしまって」
「気にしないで、もう君の番は終わっていたし、何かしらの事情があったんだと思うから。しつこく
……。ち、近い。
「そうだ、明日は
そして距離を離すと、
「
と
ユウは、プルプルと固まっていた。
「お
バタン!
ユウは倒れた。あまりにも、突然なことだったから、スナイパーにでも、
ダメだ。ダメだ。私には、何よりも大好きな、愛する人がいるのだから。負けるな、負けるな。負けてしまったら、私が、私では、なくなってしまうような気がした。私ではない、何かに変わってしまうような。だから、なんとしても、闘い抜かないと。
ユウは、起き上がった。
眠れない時は、数を数えるといいよ。と言われたので、目を閉じながら数を数えるが、数えている
「ウミちゃん、海に行こうよ!」
珍しく、ユウの方から
「ん? ええよ」
そのとき、ピカッ、と強い
しばらくは、目を開けられなかった。
目を開けると、そこに、
それどころか、違う世界に来てしまったみたいだ。
意味が分からなかった。
「水……水……水を」
全身がまる
恐ろしいと思ったユウは、走って逃げた。しかし、当然、彼らは追いかけてくる。「水……水……」と言いながら。
ユウは、必死に走っている。無我夢中でだ。だが、ふと正面を向くと、そこにはまた、たくさんのボロボロの人たちが。
「水……水……水を」「水をくれぇ」
「ユウちゃん」
気がつけば、目の前には、一人の女性が立っていた。
「どうして、逃げているのですか?」
彼女は、
逃げている? 私が。
「逃げてばかりていても、何も
彼女の口調は、
「力なら、十分に
言葉が終わるなり、彼女は
ユウは、何だか、ものすごく惜しい気持ちになった。
「あ、ちょっと、まって!」
しかし、彼女は止まらない。やがて、
『逃げてばかりいても、何も
『力なら、十分に備わ《そな》っている。あとは、
『貴方はこれから、どうしていきたいのですか』
彼女の、重い一言、一言が、ユウの頭に、ずしんと伸し掛かる。
何だろう。自分は、どうしていきたい? 望んでいるもの。答えは、最初っからあるはずなのに、なぜかぼんやりしている。だから、問わずにはいられない。それが、逃げている。ということなのだろうか。
「
パッと、目を開けた。そこには、
「おはようございます」
「おはよう」
「お食事の準備が終わりましたよ」
「はーい。あ、そうだ」
「? どうしました?」
ユウは、
すると、ニコリと口もとを
「それは、おそらく、神様のお
「神様のお告げ」
「今は、
「そうなんだ」
「そのお告げは、大切になさってはどうでしょう」
「……そうだね。大切にする」
まだ、覚えているのが、ハッキリさせること。負けないこと。立ち向かうこと。だったはず。それを大切に。今が、大事な局面。
ユウは、ハッとして、すぐさま部屋を出た。早く、ご飯に行かなかれば!
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