七、思い出の海人の歌
皆に、紙が
「歌ですか?」
ユウの隣に座る、
「もちろん。だから、この紙を配ってもらったの。
「なるほど」
その女房が手を止めた。
「
「丁度良いところだね。ありがとう、
「この墨を皆に回すから、好きな歌や、
「歌……、和歌のことだよね」
ユウは、
「はい。そうでしょう。
「
と
「うーん、短歌は、けっこう読んできたけど、よく思い出せない」
頭の中に眠っているはずの、過去に何度も
「出てこなければ、新しく
それもひとつの手である。しかし、ユウはどうしても、どうにか思い出して、書きたいのだ。
使用人たちが、次々に思いついた歌を書いて発表をした。その中には、知っている歌も多くて、ハッとさせられるたびに、ちょっぴり悔しくなる。そして、余計に思い浮かばない。
女房たちを中心に、恋の歌が多い印象があった。
「いとせめて
「うたたねに 恋しき人を みてしより 夢てふ(う)ものは たのみそめてき」
これも、
宮中でも、
ユウは、必死に思い出そうと記憶をめぐらせるも、思い浮かばないまま、順番が回ってきてしまった。もうちょっと時間が欲しいと、
「
「
何だか、チクリと
「次こそ
でも、ユウはハッキリと、歌が浮かんだ。
思い出したのだ。
『浜辺より 我が打ち行かば 海辺より 迎へも来ぬか 海人の釣舟』
どうして、忘れてしまったのだろうか。愛する人との思い出が詰まっている歌なのに。正確には違って、
「
「
「はい、もとは海に近いところに住んでいたので」
広島市の中でも、海が近くにある地域に住んでいた。
心が揺らいだ。さっき、刺されたときに生まれた、傷が
今は、他の人の番になって、皆そちらの方に目が行っている。その目を
『浜辺より 我が打ち行かば 海辺より 迎えも来ぬか 海人の釣舟』
「これ、わしの和歌じゃのぉ」
まだまだ、
それでいて、力強い、男らしいところもあり、活発な男の子である。
「これは、
「いいや! これはわしの歌じゃ。
完全に、作者の名前が書いてあるので、否定のしようもない。けれども、力尽《ちくで無理くりに押し切ろうとしているみたいだ。
「あー、作者っつうより、この歌自体がわしのもんって感じじゃのぉ」
あんまりよく分からないが、
「
彼は、『
ユウが
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