祭り前夜

 僕は昔から、あのドーンドーンと鳴り響く音が怖くて、祭りという催しが大嫌いだった。

 中でも夏祭りが一番嫌いだ。

 唯でさえ暑いのに、火でできた花なんて見たくもない。

 でもあの年は、幼馴染のはなと祭りに行く約束をしてしまっていた。

 正直気は乗らなかったが、疎遠になりつつあった彼女と久しぶりに出掛けると考えれば、多少は楽しみだったし、なによりも緊張していた。

 今更、何を話せば良いのだろう。

 しかも、初恋の相手に。

 私立大学を受験した彼女と家は近いが、電車登校の彼女と登校の時間は合うはずがなく、下校時間もバラバラだ。

 LIMEも交換はしているものの「高校でお別れかもね……」というメッセージ以来、全くやり取りできていない。

 だから道で時々すれ違っても、軽く挨拶をする様な仲になってしまっていた。

 淋しくはあったが、仕方のない事だと割り切って今まで過ごしてきた。

 彼女が仲を戻そうとする為に僕を祭りに誘ってくれたのかどうかは分からないが、これも何かの縁だろう。

 まぁ、せっかくの機会なんだ。

 またあの頃みたいな関係に戻れれば良いなとは思っていた。

 その祭りで彼女にあんな事を告げられるとは露知らず、僕は深い眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る