第4話 ジン・バーネットと最初の仲間
テトラは俺の喉元に立てた剣を震わせていた。
「お前、泣いているのか?」
「泣いてない!!」
「泣いているだろ?」
ジンはテトラの顔を覗き込む。
「泣く訳ないだろう!定住者の戯言で!」
テトラは剣を脇差しにしまい、袖で顔を隠した。
戦闘しか興味が無い奴だと思ったけど、こいつ…。
「それからどうしたんだ?」
「あぁ、うん。それから俺はグラビティ以外の魔法陣を触るのが怖くなってな…」
「学校では罠士の昇格試験があるんだが、Fランクまでは一般罠を使用すれば合格できる。けれどEランク以上は魔法陣をマスターしなければいけない。グラビティ以外の魔法陣が使えない俺は、何度も試験に落ちたよ」
テトラは真剣な表情でこちらを見つけている。
「…だから俺は、求道者にはなれない人間なんだ」
「それで諦めるのか?」
「もう諦めたんだよ」
「そうは見えないけどね。あんたがグラビティの練習をしているのは何故だ?他の魔法陣布を持っていたのは何故だ?Eランクに昇格する為じゃないのか?」
…くそ。テトラの言葉がいちいち心を刺してくる。
「やりたいんだろ?求道者を目指せばいい」
…こういう事を気軽に言える奴は大嫌いだ。
「俺は25歳だ。同級生はDランク、Cランクになった奴もいるが、まだFランクの罠道士なんだよ。もう気がついていい歳だろ?才能が無いって…」
「周りの奴は関係ない!求道者は道を求める事が全てだ!仲間の成長を比べてどうする!」
テトラは続ける。
「過去の失敗に心まで取り込まれるな!お前の努力の結果を否定するな!お前の思いはどこにあるんだ!」
くそ。クソクソクソクソクソ。
胸が詰まって、目頭が熱くなるのを感じた。
「俺は…」
「俺は、あれだけの事を起こして、俺はまだ求道者になりたがっている自分が嫌だ。家を燃やして母さんを怪我させたのに…」
「…よく言った」
苦しい。胸が張り裂けそうになる。
「なりたい!俺だって求道者に…でも弱いから…」
「あんたの才能は私が肯定する!あんたは強い!!」
「何度も言ってやる!あんたは才能がある!」
涙がポロポロ溢れた。何でこいつは揺らがないんだ…。
俺は、ずっと誰かにこう言って欲しかった。
「あんたは強いんだよ!!!」
「俺も、求道者として生きたい…」
「…なれば良いでしょ。それだけよ。道を求めよ、ならば道は作られる」
思い出した。俺が求道者になりたい理由。
「求道者の極、クエンの言葉だね」
子どもの頃に読んでいたクエンの冒険紀。魔法を使い、世界中のありとあらゆる魔獣との戦いを面白おかしく書いた冒険活劇。
ドラゴン解体新書や魔獣MAPを嬉しそうに見る子どもの頃の思い出がフラッシュバックした。
「大好きだったんだ。憧れていた。だから俺、求道者になって人間の世界を広げたかった…」
きっかけは単純だ。でも、それだけの為に俺はずっと夢見ていた。
「君の言う通りだ。道を求めるのに誰の許可もいらないよな。もう一度、目指すよ。求道者の極には成れなくても、人間界の道を切り開く」
「よし!じゃあ私と一緒にルッド教会行くって事ね!」
「……はっ?」
どういう事だ?ルッド教会へ?急に何を言っているんだこいつは?
「いやぁ、パーティが逃げて困ってたんだ。ソロでルッド教会は勘弁だったからなぁ!でもあんたが参加するって言ってくれて助かったよ!さ、準備が出来たらすぐに行こう!」
…こいつ、ただパーティしたかっただけか?
「本当に、戦闘にしか興味ないんだな」
「ええ。私にはこれしかないもの」
テトラの姿はどこか寂しそうに見えた。
「テトラは、どうして求道者をしているんだ?」
「私はね…………」
…………戦慄が走った。
返答のしようも無く、俺は無言で身動きも取れず立ち尽くしていた。
彼女の根性や情熱の根底にあるのは、憎悪と嫌悪感だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます