第3話 ジン・バーネットと15歳の過ち

「俺は絶対魔道士になる!」


14歳のジン・バーネットは中等学校でそう決意していた。


「ジンは魔道士か。俺は剣道士になるから、良いパーティ組めそうだな」


「データは後衛の方が良いだろ」


データは俺と同じ求道者の夢を持つ同士だ。いつも求道者になってパーティを組む妄想を膨らませていた。


「ジルはどうするんだ?」


「僕は…宿があるから…」


民宿を営んでいる家の息子のジルは、求道者ではなく商人になる事が決まっていた。


「でも、ジンやデータみたいに、僕も求道者に…」


「本当か?なら3人でパーティを組めたら最高だな!」


中等学校を卒業後、希望すると求道者専門の学校に進む事が出来る。


俺たちは3人で求道者の学校に進む事になった。


「うわぁ求道者の祠かぁ。一体どんな道が出るんだろうな!!」


普段冷静なデータが柄にもなくワクワクしている。


「大丈夫かな?鬼が出てくるとか?」


「宮廷認可の祠だぞ。生徒相手に危害を加える様な事はないよ」


求道者専門学校に入学する際、生徒達はまず“求道者の祠”を通り洗礼を受ける必要がある。


どの道に適した能力か分からない本人に変わり“向いている道”を神様が決めてくれる合理的な選別方法だ。


入学の前に祠を通り、示された道に合わせたクラスに所属する。


「さぁ、いよいよだな」


「ジン、お前はどの道を行っても大丈夫だ」


「どうした?データ」


「ジルはお前を見て、求道者になって人間界を救いたいと思ったんだってよ。俺もそうだ。お前は、人を動かす力があるんだよ」

「うん、そうだよ。ジンのおかげだよ」


「データ…ジル…」


求道者の祠には一人ずつ通る。入り口はたった1つ。


「へぇ。話には聞いていたけど、意外と長いんだな…」


暗闇の道を抜けると、1本道のはずなのにそれぞれ違う目的地に着いているのだ。


「俺の進むべき道は…」


長いトンネルを抜けると、そこに石碑を見つけた。そこに書かれた文字を見る。


“罠道を求めよ。ならば道は開かれる”


「罠道士…?」


「そっか…俺…罠道士に向いているんだ…ふぅん…」


お前の才能はこれだ!と提示される事は合理的だし生きやすい。


だけどあっけないと言うか、味気ないと言うか…。


本音を言えば、魔道士に憧れていた俺はガッカリした。


しかし神様が性質を見て選ばれた道だ。


「別にいいさ。どの道だろうが求道者は求道者だ。罠道で求道者の極になってやる!!」


その後、俺は学校で罠道士を学んだ。


10人ほどのクラスだが、全員が罠道を志す同期だ。


「まずはこのクラスでトップになる。そして24歳で“宮廷罠士・Cランクトラップハンター”を目指す!」


求道者の祠を通った者は、Gランクの求道者としてスタートする。


求道者昇格試験は15歳以降、三年に一度。

15歳でFランクに昇格したのち、18歳でEランク、21歳でDランクと次のステップに進む試験を受ける事が出来る。


罠道の授業は退屈じゃなかった。目指す道が変わっても、技術を探求し己の能力を上げる事には変わらない。


しかし…。


「はぁ…はぁ…詠唱のコントロールが効かない…」


GランクからFランクに上がるまでは苦労は無かった。基本的な罠の使い方を座学で覚えれば昇格試験には合格できる。


だが、FランクからEランクへの昇格は詠唱を覚える必要がある。


“グラビティ”の魔法陣は罠士の初級スキル。魔力を宿した陣が描かれた布を地面に敷く事で周辺一帯の重力を変化させる。


…のだが、俺はいつも布ごと破れてしまう。


「魔法陣の布はタダじゃ無いんですよ。困りましたね」


「サンダース先生…すいません、魔法陣の調整が難しく」


「このままではEランク到達には5年はかかりますね。どうやら君に才能が無い様だね、ジン・バーネット君」


「…」


このまま終わる訳にはいかない!


まだ取り返せる!もっと考えろ!魔法陣をもっと勉強するんだ!


ビリッ。


悲痛な、魔法陣の布が破ける音が聞こえた。


「はぁ…」


サンダース先生は俺を見るとため息をつく。


…もっと、もっともっと…もっと。


2年も終わりに近づく頃、先輩がクラスへ現れた。


「おい!朗報だ!この学校に魔獣討伐が命じられた!見習い罠士も参加する事が許されたぞ!」


クラスに突然現れた罠道の先輩は俺たちの中から討伐希望者を募った。


魔獣討伐⁉︎降って沸いたチャンスだった。ここでアピールする事が出来れば先生の印象も変わるだろう。この機会を逃す訳にはいかない!


「あの、俺も参加希望です!」


「ポイントは?」


「今は300です」


学校では特定のミッションをクリアするとポイントが与えられる。


「はっ!雑魚はとっとと帰れ!」


俺を差別的な目で見下ろしながら先輩は吐き捨てる様に言った。


確か今の時期に300ポイントは、クラスでも下の方だ。だが、このチャンスを無駄にする訳にはいかない!


「ですが、俺は!!」


「せめてこの時期の2年は1000は必要だ。っていうか、何で求道者を目指しているの?」


「…何で求道者を目指すのかって…」


「おお、1500ポイントがいるぞ?誰だ?」


先輩の目に、もう俺は入っていなかった。


…何で求道者を目指すのかって…。



そして“あの事件”が起きたのは、その日の夜だった。

俺はとにかく焦っていた。


「ただいま」


「おかえり、ジン。父さんが畑から帰ったらご飯にするよ」


「…わかった」


母親の話もそこそこに、俺は自分の部屋に入り、学校からこっそり持ってきた魔法陣を部屋に敷いた。


次回の課題は火炎罠。


魔法陣周辺を燃焼させ火を起こす。陣が精巧に出来ているほど火は長続きする。


「今、みんなに追いついていないのは努力が足りないからだ」


学校外で魔法陣を使う事は禁止されているが、授業での鍛錬では到底追いつけないと思った。


ベッドの横にスペースを開けて魔法陣の布を敷く。


「後は準備OKか。これで周辺の空気を燃焼させ火を起こす…」


「やってみよう!ファイアトラップ!」




それは一瞬だった。





強烈な風で部屋の外に吹き飛ばされた瞬間、部屋中が火の海に変わっていた。


「あ…」


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


その炎は家を飲み込み巨大化し、母の叫び声が聞こえた。


「助けて!!!助けて!!!」


熱と煙で前が見えない…。


「母さん…母さん…」


次第に意識は朦朧となった。


思い出すのは、俺を見てがっかりした顔ばかり。


何で求道者を目指すのかって…


なりたいからじゃダメなのか?


好きな事でも才能が無いとやっちゃダメなの?


「ジン!母さん!どこにいる!声を出せ!」


父親の迅速な消化活動のおかげで俺と母さんは一命を取り留めたが、家は全焼。




俺は、自分を呪いながら生きる様になった。


・・・


・・・・・


・・・・・・・



「…話は終わったか?」


テトラは俺の喉元に剣を立てながら言った。


強気な言葉とは裏腹に、その剣は小刻みに震えている。


「…キミ、泣いてるのか?」


「泣いてない!!」


◆剣士・テトラが仲間になるまで後1話。


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