第2話 ジン・バーネットとテトラ・クローバー

「…家?」


目を覚ますと見知った部屋で知っている匂いの布団に挟まれていた。


なんだ…変な夢だった…


「気がついた?」


「あっ…」


この子は女の子の剣士の…。


「あんたを運んでいたら山の廃部屋みたいな所があったから連れてきたわ。偶然寝具も食料もあったし丁度良かったわ」


「いや…ここ俺の家なんだけど…」


「はっ?嘘でしょ?ボッロ!」


確かに部屋は廃小屋を改築して布団と食料を積んだだけの、言うなれば人間小屋だ。


「…はっきり言うね。痛った…頭が…」


ジンは頭を押さえる。


「魔力切れを起こしていたからね」


まるで酒を飲み過ぎたような気持ち悪さだ。頭がグラグラする。


「あなた名前は?」


「ジン・バーネット。君は?」


「テトラ・クローバーよ。剣道士・Eランクフェンサーよ」


クローバー?


「クローバーって、貿易会社のクローバー社!?」


「そうよ。悪い?」


驚いた。ガッドランド最大の貿易会社の娘が求道者をしていたのか。しかもEランクフェンサー。…ってあれ?Eランク?


「それよりあんた何で嘘ついた?」


「嘘?」


「Fラン罠士だって言ったわよね?あの火力はどう見ても上ランク魔道士じゃない」


「あぁ…いや本当だよ。罠士どころか求道者の道を降りかけた肉商人だ」


「免許は?」


「え〜っと…はい」


ポケットからF認定の罠道士の免許を差し出した。


この免許を持っていなければ罠を使う事が出来ない為、肌身離さず持っている。


「本当ね。でも肉商人をしているってどういう事?求道者として鍛錬していないの?」


「今は全然。山の近くに住んで、鹿を狩って捌いて売るだけ」


「ふ〜ん、定住者って事ね」


「…その言葉好きじゃないんだ」


求道者は書いて字の如く、道を求めて進む者達の事だ。


それに対し、怪我や生活の為など、何らかの理由で歩みを止めた者は侮蔑を込めた意味で定住者と呼ばれる。


「道を極める為に鍛錬をするのが求道者の務めでしょ?怪我した訳でもない、家族がいる様にも見えないし、何で求道者を諦めたの?」


「あんたに関係ないだろ!」


…あっ。つい荒く言ってしまった。核心を簡単に突いてくる奴だ。


「勝負してよ」


「…はっ?」


今この子、何か変な事言わなかったか?勝負?


剣を取り出すテトラ。


「ちょっと待て!おい!何する気だ?」


「さっきの魔法の威力、私にもう一度見せなよ。って言うか見せろ。今すぐ」


カツアゲかよ?何で戦わないと…っつーか普通に頼め。プライドの高い女だ。


「ムカつくんだよねぇ。能力持ってるのに使わない奴って」


「だから俺は能力なんて…」


「さぁさぁさぁさぁ!!!」


だめだ、興奮して目が血走ってる。こいつ、戦闘狂か?


テトラの剣がどんどん細長く伸びていく。


「私の芸は形状変化。さっきも見たでしょ?剣の形を自在に変える」


「それってさっきも気になっていたけど、Eランク以下での芸は違法だろ?」


「戦闘において免許だ違法だは戯言よ。それで死んだらどうするの?」


道の技術と魔術を組み合わせた特殊スキルを“芸”と呼ぶ。


芸や魔術は一般生活では危険を伴う為、宮廷指定の免許がなければ使用する事ができない。


「大体、道を求めない定住者に言われたくないわ。あんたの性根叩き直してやるよ!」


「…わかった。じゃあ外に出よう」


「やる気になったじゃな〜い定住者」


玄関を出て庭へ向かう。


テトラ。Eランフェンサー。


剣を持っているのにフェンサーを名乗るのは、おそらく形状変化させて針の様に伸ばした剣で突くのが戦法だろう。


手数の量でペースを掴ませない事が肝心だ。


「あんたはブロンズナイフでいい訳ね」


「あぁ。さっさとやろう」


「トランスフォーム!」


鞭の様に剣先がしなった剣先が伸びる。


剣幅8センチ、刃渡り90センチ程度。幅を1センチにすれば7メートルはゆうに伸びるぞ!


距離を取るジン。


しかも…


「はっはっはっはっはっ!!」


テトラは一歩も動かず剣先が蛇の様に追跡してくる。近距離・中距離では休む暇もない。


「ちっ」


ジンは後ろに下がり姿を隠す。


「草むらへ隠れたか?」


鎌のように変化させた剣で草むらを切り取っていく。


「どんなに隠れたって無駄よ!さぁ正面から戦いなさいよ!」


「ん?」


テトラに向かい弓矢が飛んでくる。


「姑息な。弓矢で反撃か!」


が、矢はテトラの足元に刺さる。


「これは?」


弓矢には魔法陣が書かれた布が付いていた。


「グラビティ」


ジンは草むらから詠唱を唱える。


「動きを止める気か!?」


…が、間一髪テトラは陣のエリアから飛び出した。


「危なかった〜。あんたの重力を操る魔法陣を見ていなかったら引っかかってたね」


草むらから姿を見せるジン。


「グラビティ」


「はっ?だからさっき…」


テトラの膝が曲がり両手が地面に落ちる。


「…さっきの魔法陣はトラップか!」


「獣が入ってこない様に、家の前には魔法陣を仕込んでおいたんだ」


「弓矢でそこまで誘導した訳ね」


「もう良いだろう」


「は?」


「勝負は決まった。だから…」


「はぁぁぁぁ!!」


テトラは力づくで剣を持ち体を起こした。


こいつ…何だこの根性?グラビティを解くのか?


「だぁぁぁぁ!!」


剣先が伸び、ジンの喉元を襲う。


「参った!」


倒れ、尻餅をつくジン。


「…俺の負けだ」


「はぁ、はぁ…」


「ナメるな!!どうしてさっきの魔法を使わない!」


「だから…俺は罠士なんだよ。魔道士じゃねぇ!」


テトラは怒りに任せて叫ぶ。


「剣士や武道家、数ある求道者の技術は鍛錬によってのみ磨かれる!」


「…」


「だけど魔道士は己の魔力の容量により能力が変わる!こればかりは才能の世界よ!」


急に、何を?


「それを見極める為に求道者の祠を通る。だけどあなたは罠道士だった訳?」


「…間違いないよ。俺には罠道士の道が適正だったんだ」


「そんな訳ないだろう!」


◆剣士・テトラが仲間になるまで後2話。


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