万年Fラン罠士の俺が魔法を使ったらとんでもない威力になったが…あれ?職業選択間違えた?

@katan01

第1話 ジン・バーネットとグリーンマン

ガトラスのウエストランドにある山。



「はっ!雑魚はとっとと帰れ!」



「どうやら君に才能が無い様だね、ジン・バーネット君」



「っていうか何で求道者を目指しているの?」



ピィィーーー、と山に響く鹿特有の甲高い鳴き声で目を覚ます。


少し寝ちまった。


「さて」


鳴き声の方向へ向かう。


「おお、捕まってるじゃん」


ガトラスのウエストランド山は生命の宝庫だ。


鹿や猪、熊などの中型生物が多くいる。


足にロープがかかった鹿は水晶の様な瞳でジン・バーネットを見つめていた。


「悪いな。仕事なんだ」


鹿の首元にブロンズナイフを立てた。


「うんま!鹿のレバーは捕獲者の特権だな」


ジン・バーネット、罠道士・トラップハンター・ランクF。


今の俺の免許では魔法陣の使用は禁止され自作した囮罠で獣を狩るしかない。


呑気に食ってる時間はあまりないか。そろそろ一仕事だ。


台車を引いてグラッドバックに入る森林の入り口で立ち止まる。


台車を下ろしたジンは声を上げた。


「さぁさぁ皆さん!危険なダンジョンの前に食料はどうだ?生鹿肉は70G!干し鹿肉は50Gでどうだ!」


研究者を引き連れた戦士らしき男が近づいてきた。


「商人、干し肉2人分貰えるか?グラッドバックの森を抜けてルッド教会に行くには少し物足りなかった所だ」


「ありがとうございます。ルッド教会ですか。あそこに行くには魔獣が出るのでお気をつけて」


「なぁに心配いらんよ。地質研究の為だし、俺はランクDの求道者だ」


「へぇ求道者の方ですか。頑張って下さい。多めにつけときますんで」


「ああ。商人も稼いで店を持てるといいな!ははは」


「…ははは」


旅のルートで肉を売っていると、大方の客は求道者だ。こういう自信に満ちた人と出会うと、つくづく自分が嫌になる。



ドーーーーン。


突然地面が揺れる。


研究者がその場で倒れ込んだ。


「はおお!何だ何だ!?」


「地震でしょうかな。私から離れない様に」


揺れた地面を必死に這いつくばり、研究者は戦士にもたれかかる。


「おい!早く逃げろ!」


グラッドバックの森の入り口から3人組のパーティが飛び出してきた。


「おい、そこの3人!何があった!?」


「魔獣がここまでやって来たんだ!」


魔獣だと?グラッドバックの森の入り口だぞ?


「ねぇテトラは?テトラが居ない!」


「構うもんか!はぐれたんだ!くそっ!これだから新人は!」


「あんな奴を入れたのが間違いだった!」


どうやら1人を残して3人で逃げてきたらしい。大したパーティじゃなさそうだ。


「商人さん、危ないからここから離れるんだ」


大きな剣だ。この人は剣道の求道者だろうか。これを操る事が出来るのか?


「アムド!おおおおおお!」


突然筋肉が肥大し身長は優に2メートルを越す大男となった。


「おっ、おお…」


思わず声が出た。膨張の“芸”を持つ求道者。さすがランクDだ。


「魔獣は何だ?」


「グリーンマンだ!助けてくれ!」


「…グリーンマンだと?」


森林が動いた。地面の揺れか?いや違う。森林ごと動いているのだ。


森から木々が離れ、それは人型となり、Dランク剣士の3倍程の大きさで現れた。


森の魔獣・グリーンマンだ。


「オオオオオオオオ!」


グリーンマンの咆哮は地面を揺らした。


「やっばいな…」


急いで荷物を片さないと…いやそんな余裕は無い?


これだけの大きさのグリーンマンがガッドランドの街に入ったら…


剣士の様子は…


「…」


様子を見ているのか、はたまた恐怖で固まっているのか、微動だにしていなかった。


「何をしておるのじゃ!早く戦え!その為にお前を連れて来たんだ!」


「くそっ…」


魔獣を前に何だその言い方は。研究者は求道者より偉いと思っていやがる。


しかしランクDとはいえ、グリーンマンと戦えるのか?


「ええええい!」


突然切りかかった。


ズガアアアアン!!


粉塵が舞い、視界を奪われた目をゆっくり開けた。


剣士は地面にめり込んでいた。


「え…」


「だめだ」


逃げる研究者。


瞬殺だ。俺のやる事は決まった。逃げる一択!


「おい!こっちだ!こっちへ来い!」


グリーンマンは木々の隙間から俺を見つけ捕獲しようとしていた。一目散に山に向かおう!


「そこの研究者!村に伝えてくれ!早く逃げろって!」


聞こえたか?まぁいいか。


グリーンマンは右手を振りかざし、大木のハンマーを浴びせようとする。


「うわぁぁぁ!!」


と、グリーンマンの動きが止まる。


「何してんの?逃げて!」


見ると女剣道士がグリーンマンの背中に剣を突き刺していた。


「君は…」


いやとにかく逃げろ!村から離れた山へ向かうんだ!


2人は一目散に駆け出した。


「ねぇ、3人組のパーティ見なかった?」


「えと、さっき逃げていったよ」


「クソォ。あの腰抜け達が!君は求道者なの?」


「いや、俺は…求道者というか…」


「さっさと言いなさい!」


「求道者だ…一応!」


「そう。役職は?」


「…罠士」


「罠士か。じゃあ、魔法陣であいつ止められたりしない?」


「出来ないんだ。俺、Fランクだから魔法陣の免許なくって…」


「免許なんて言ってる場合じゃ無いでしょ!動きを止めたら私が体を切る!」


「でも…」


「魔法陣の練習はしているんでしょ?」


「だから無理なんです!僕には魔法陣は…」


「違法でも犯罪でも出来なくてもいいからこの状況何とかするんだよ!」


むちゃくちゃ言うな。


バアアアアン!


グリーンマンが腕を地面に叩きつけた。地面が揺れ2人は倒れる。


でも、本当に何とかしないと殺される!


ジンは立ち止まりグリーンマンを観察する。


罠士の基本その①。相手を観察する。

罠士はパーティで1番状況判断が出来なくてはいけない。


敵は全身が葉や苔に覆われた森林の魔獣。


両腕の大木を急成長させ伸びたり変化させ、腕を折った所で新たな木が成長する可能性もある。


燃焼させるしかないけど、あの罠は使えない…。


バッグから布を取り出し地面に置く。


「俺が出来る魔法陣は…」


「グラビティ!」


詠唱を唱えると地面に置いた魔法陣の布が光る。


よし!成功だ!


「おいデカいの!こっちへ来い!」


グリーンマンが魔法陣に足を突っ込むと動きが鈍くなった。


グラビティは環境の重力を変える魔法陣だ。本来魔の陣はEランク以上の罠士しか公に使ってはいけないが、練習の為に持っていて良かった。


「ナイス!」


女の子が剣に力を込めた。


「トランスフォーム!」


女の子の剣は形状が変化し、細く長く伸びていく。


この人も芸…?ランクDか?


「いっけー!!」


女の子は叫びながらグリーンマンに飛びかかる。


「ウオオオオオオ!」


だけど巨大なグリーンマン相手にはチンケな魔法陣など足枷にもならなかった。

そりゃそうだ。中型獣にしか効かない陣だ。


グリーンマンは容易く剣先をかわし、右腕の丸太を女の子に直撃させた。

地面に叩きつけられ、ピクリとも動かない。


「嘘だろ…」


グリーンマンは動かない女の子に腕を向けた。


「止めろ!」


グリーンマンの拳は5本の枝に分かれ女性剣士を掴んだ。もう片方の大木は鋭い木のドリルとなる。


「うぅ…」


体が動かない。助けられない。グラビティは効かない…


「はっ!雑魚はとっとと帰れ!」


頭の中で過去の声がリフレインする。



そうだ。逃げないと…


「どうやら君に才能が無い様だね、ジン・バーネット君」


そうだ。俺は才能が無い。


「何で求道者を目指しているの?」


うるさい。人の為になりたかった。


「助けて…」


女の子が消え入りそうな声でつぶやいた。


「やめろ〜!!!!」


グリーンマンの動きが止まった。


止めてどうする?何ができる?罠士の俺に。


「クソォ!!」


何で何も出来ないんだよ。何で何で何で俺は無力なんだよ。


こんな所で泣いてる奴があるか。


もういい。全力でやる!ここで死んでやる!


バッグから取り出した魔法陣を拳に巻きつけた。


燃焼を起こす魔法陣だ。


「ファイアトラップ!」


右腕に巻いた魔法陣が焼け炎が芽吹いた。


「このまま俺の体ごと燃やしてやる…」


グリーンマンに全力でぶつかる。死なばもろともだ。


「…えっ?」


突然、炎は俺の手を離れ巨大な火柱がグリーンマンに向け発射された。


ボアアアアアアアアア


飛んでいった火柱がグリーンマンの全身を包み、木が消し飛んだ。


「…何で…」


「…痛ったぁ…」


燃え尽きた左腕から女の子が起き上がった。


「…何よこれ…火柱の魔力じゃないわ…」


煤となったグリーンマンは生命では無くなっていた。


頭がクラクラする。




◆剣士・テトラが仲間になるまで後3話。

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