中編

 放課後。グラウンドには彼と私の二人だけ。


 他の野球部の部員さんたちは、昨日の反省会があるらしいので、その間だけ無理を言って場所を貸してもらった。


 日頃から見学していたこともあって、話はスムーズに進んだ。

 監督さんに彼と勝負をしたいと伝えたら、不思議がっていたけど、「任せた」と言われてしまった。


 責任重大。ここまでくれば、やることは一つだけ。


 ――この男の根性、叩き直してやる。


「さぁ、練習の邪魔になる前にパパっと勝負しちゃうよ」

「……本当にやるんだな? 手加減なんてできねえからな」

 

 入念にストレッチをした彼は、ユニフォーム姿でマウンドに向かおうとした。


「ちょっと待ちなさい、そっちじゃない。あなたがバッター」

「……いや、話の流れがおかしいだろ。さっきは俺の球なら簡単に打てるとか言ってなかったか?」


「なに言ってるの? だって、私がバッターボックスに立ったら危ないじゃない」

 

 ――そもそもケガしてるあなたになんか、絶対に投げさせない。それに、私があなたの球を打てるわけないでしょ。


「……それもそうだな。確かに危ないかもしれない」


 彼は納得したようで、バッターボックスに入っていった。

 

 ――まったく、単純な男で助かる。そういうところも好きよ。


 そして私は、借りたグローブに3球球を入れてマウンドに立った。ボールを握るのは小学生の時以来。あなたとキャッチボールをしたとき以来。


 私が足元に2つボールを置いたとき、バッターボックスから彼が言った。


「ルールはどうするんだ? お前の球を打てたら、俺の勝ちでいいのか?」

「それでいいよ。1打席勝負。キャッチャーはいないから振り逃げは私の勝ちね」


 私が言うと、彼は一瞬驚いた顔をして、すぐさま野球に真剣な彼に戻った。


 舞台は整った。


 ――ここからが私の勝負。あなたに私の球が打てる?




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