第135話 はるなっちと佐藤くん

そっと覗き込むと、目がハートマークになったはるなっちが、必死に佐藤くんの近くに陣取ろうとウロウロしている姿が目に入る。

しのぶちゃんもいやらしいもので、さりげなく間に入っていくもんだから、はるなっちの闘志がさらに燃え上がっているようにも見えるけど。

闘志?恋心?


多分今までろくな恋愛感、男子との関係がなかったせいか、距離感が絶対おかしいのだ。

下手したら真横にずっとくっついてるくらいを保っている。


確かに、好きなバイクにはべったりしてたけど、人間はバイクじゃないのよ。


もっとこう、パーソナルスペースを考えないと!

心の中でついつい思ってしまうけど、

いや、佐藤くんは人間でもないけど。


本当に、バイクに向ける視線と同じような雰囲気で、下手したらまたがってしまうのではないか、という勢いだ。

まだそんことは早いわ。でも佐藤くんにも性欲があるような話は以前してた気がするし。

何かそういう方向でも問題ないのかしら。


思わず色々なことが頭の中をよぎっていく。


ヒナっちは苦笑しつつも、表情は完全に現状を楽しんでいる様子。

そりゃ、今まで見たことない様子でしょうから面白いでしょう。


4人の変な距離感が面白いのでそっと見守っていると、私の気配を察した佐藤くんがこちらに助けを求める目線を向けてくる。


仕方ない、もう少しみてたかったけど


そこで私が現れしのぶちゃんを今度は竜のところに行ってもらうことにして。


「なんかトイレが近くなって」


とか適当な理由で去っていくわけだが、ヒナっちもはるなっちの異常な行動に気を取られしのぶちゃんが一時いなくなるのもあまり気にならない様子。

これはこれでいいかもしれない。ちょっとくらい長引いても問題ないかも。


でも、しのぶちゃんは連れて行かれたりしないか心配だわ。

いや、いつもつながっている白龍との関係を示せば無理してこないのかしら?


色々思うところはあるけど、とりあえず竜については私より詳しいはずだから大丈夫よね。


「あら、佐藤くん来てたの?」


と声をかけると、ものすごく安堵した表情で


「ああ、これは大津さん。さっき従姉妹のしのぶちゃんを見かけたら、ここに連れてこられてしまって」


「お父さんとお母さんは?」


「今はあっちの駐車場で妹と一緒にいます。僕はジュースを買いに出たところなんですよ」


いつの間に家族設定ができてたのかしら?

妹?


まぁいいけれど。


しかし、はるなっち近い。


佐藤くんは用事を済ませてさっさと帰りたいというオーラを出しているのだが、いまひとつ伝わってないようで。

学校はどこの大学に行っているのかとか、どの辺に住んでいるのかとかをダイレクトに聞かれている。

その話によると、佐藤くんは

九州大学に通う大学2年生で、本来はアパートを借りているので熊本にいないのだが、たまに帰ってきて両親の別荘を借りていることがあって。

そこで時折私と会うことがあるということをざっくり説明していた。


そんな設定なんだ。忘れないようにしよう。

大学2年生か。確かに高校生よりは年上に見えるからちょうどいいのかも。でも見た目ハーフとか海外人っぽいからヒナっちが

「ハーフですか?」

とか聞いてるが


「ええ、母親がジョージア出身でして」


とか適当な話をしている。ジョージアってコーヒーの有名なとこかしら?


はるなっちの質問攻めに合い、だんだん設定に綻びが出てきそうになりつつあったので私が助け舟を出す。

あまりここで足止めしてても悪いから、という常識的な話をして、


「ジュース持っていくなら、私も佐藤くんのお母さんにお世話になってるから、ご挨拶ついでに一緒に手伝うわ」


と言って自動販売機の並んでいるところに一緒に行くことにするが、その際にもはるなっちがついてきそうだったので


「しのぶちゃん戻ってくるときに誰もいないといけないから、二人はここで待っててよ。私もすぐ戻ってくるから」


と言って、そそくさと佐藤くんを連れて管理棟の横を通って見えないとこまでさっと移動し佐藤くんをリリースする。

すぐに佐藤くんの姿を人型にもどし、会話は頭の中で行うことに。


「あんなに興味持たれるとは思いませんでした」


「ボロが出なくてよかったね」


「僕は彼女からすごい好意を寄せられてる気がするのですけど、これは何かの際には深く関わってもいいのですか?」


「何かの際って何よ。はるなっちは佐藤くんの正体を知らないからだめ」


「そうですか」


と佐藤くんはちょっと残念そう。


「人間の女の子が好きなの?」


「若い人間の精気は甘露ですよ」


「私の狙ってないでしょうね」


「契約者してるさくらさんは僕より高位の存在ですから、僕が精気を吸うのはできません。逆は可能ですけどね。

なんらかの手続きで、それしか方法がない場合のみ許可されますがそんなことはこの数百年起こったことはないですから安心してください」


「でも、他人の場合はできるんだ」


「好意を向けられると、さらに精気の密度が濃くなるので良いのですよ」


そこで、ちょっと気になることが


「前のケモミミの時は男の精気集めてたの?」


「今でも性別関係なく精気は集められますよ、ただ、好意を持たれた方が良いので今なら女性からの方が容易く集まるでしょうね」


男性でも美少年好きはいるけれど。

とりあえず佐藤くんには友人知人から精気を取るのはダメと言い聞かせて。

はるなっちはこの学校で一番最初の友人だから、無碍にしてもダメよ、と注文をつけておいた。


ちなみに

「精気ってどうやって奪うの?」

興味本位で聞いてみると


「粘膜接触で可能です」


「性行為しなくてもいいの?」


「より濃厚な粘膜接触の方がそれは大量に純粋な精気をもらえるでしょう」


そのような話を聞くと、絶対ダメだわ。

まだはるなっちにはそんなの早いから。キスは20歳を超えてからよ。


適当に時間を潰して戻ってくると、しのぶちゃんも戻ってきていて、何やらOKサインを出してくる。

なんかよくわからないけど、いい感じで話がついたみたい。後で詳しく聞いてみよう。


はるなっちはまだ佐藤くんの姿を探しているようで、


「もう帰ったよ」


と伝えると、今まで見たことがないような表情でがっかりしていたりする。


これは、今後うっかり家で遭遇しないようにした方がいいのかしら。

それとも、たまに会うようにして慣れさせた方がいいのかしら。

そんなこと考えているとヒナっちが


「今度佐藤くん家に呼んでみんなでバーベキューとかしたらいいんじゃないの」

落ち込むはるなっちを見かねて、そんなこと言ってくるし。

それを聞いてはるなっちがノリノリで賛成してくる。


まぁいいか

ちょっと考えておく、くらい答えて希望を持たせることにした。

人間、少しの希望があると人生楽しみが増すものよね。


そして、これから四季の里に向かい温泉に入って食事して帰るわけだけど

「次はカンガルー温泉!」とヒナっちがみょうにはしゃいでいるのが気になる。

カンガルーが温泉入ってるわけではないんだけどな。






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